福島事故後に抑制的だった原子力政策は、「安全最優先」を後回しに、一気に推進へ大転換 政府答弁曖昧なまま、衆院で可決

東京電力福島第1原発。左から1号機、2号機、3号機、4号機=2023年1月19日 政治・経済

原発政策の大転換なのに…拙速な審議、再生エネなど5本の「束ね法案」が衆院で可決

原発政策の大転換なのに…拙速な審議、再生エネなど5本の「束ね法案」が衆院で可決(東京新聞 2023年4月28日 06時00分)

原発の60年超運転を可能にする束ね法案「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法案」が27日、衆院本会議で自民、公明、日本維新の会、国民民主党などの賛成多数で可決された。法案は原子力規制や再生可能エネルギーに関係する5本の法律をまとめて改正するもの。原子力政策の大転換となるのにもかかわらず、審議は不十分なまま1カ月足らずで衆院を通過した。参院で議論が深まるかも見通せない。

◆原発「60年超運転」にも答弁あいまい

焦点となった原発の60年超運転。束ね法案のうち経済産業省が所管する電気事業法で、新たに運転期間の規定を定めた。「原則40年、最長60年」とする枠組みは維持した上で、再稼働審査や行政指導などによる停止期間を運転年数から除外、その期間分について60年を超えて運転ができることになる。どういうケースが除外に該当するのか。衆院経済産業委員会で質問が相次いだが、政府側はあいまいな答弁に終始した。

審査が長期化している原発のほとんどは、電力会社側の説明不足や資料不備が指摘されている。電力会社の能力不足で停止期間が長くなっても、将来的な運転期間が延びるのか。この疑問に、政府側は「具体的な運用は、法改正後に決める」「電力会社からの申請内容を踏まえ、個別に判断する」などと述べるにとどめた。

◆委員会の議論は25時間 課題の掘り下げは…

新制度では、延長運転の可否や期間は経産省が審査し認可するようになる。どのような基準で審査し、その過程は公開されるのかについても「今後の検討」とされた。

束ね法案になったことで再エネや廃炉、放射性廃棄物の最終処分など広い分野で多岐にわたる質問が出たが、経産委での議論は計7日間の25時間余り。一つ一つの課題を掘り下げることはなかった。

◆「法改正の中身を分かりにくくすることが本質」

原発の60年超運転のほか、原発活用による電力安定供給を「国の責務」と原子力基本法に明記するなど、東京電力福島第一原発事故後に抑制的だった原子力政策は、一気に推進へとかじを切る。昨年7月に岸田文雄首相が原子力政策で「政治決断」が必要な項目の検討を指示してからわずか9カ月で、参院での議論を残すだけになった。

17日には、環境や法律の専門家ら20人が記者会見した。礒野弥生・東京経済大名誉教授は5本の法案を束ねた手法に対し「国民にとって法改正の中身を分かりにくくすることが、政府の意図の本質だ」と批判。「福島事故後、国民は原発推進に重きを置くことを納得していない。それなのに対話や議論することもなく、国民を無視して政策転換をする政府の姿勢は許されない」と憤った。

<社説>原発推進法制 反省置き去りの回帰だ…京都新聞

社説:原発推進法制 反省置き去りの回帰だ(京都新聞 2023/04/27)

「フクシマ」以前へ逆戻りさせるかのようである。

原発の60年超運転を可能にする法改正などを盛り込んだ「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法案」が、衆院委員会で可決された。

未曽有の東京電力福島第1原発事故を教訓に導入した運転期間ルールを変え、長期にわたり利用できるようにする。「原発依存を可能な限り低減する」としてきた事故後の政府方針からの大転換である。

ウクライナ危機などを理由に、原発の「最大限活用」へ急旋回させた岸田文雄政権の前のめりさが際立ち、国会審議で老朽原発の安全確保策は不透明なままだ。

12年たっても福島事故の処理や住民避難は終わりが見えない。惨禍を繰り返さぬと位置付けた「安全最優先」を後回しに、拙速に原発回帰へ突き進むのは危うい。

法案は、電気事業法などエネルギー関連の5法改正案を一つに束ねており、後半国会での与野党論戦の焦点となってきた。

原発の運転期間を巡り、現行の「原則40年、最長60年」の大枠は残しつつ、原子力規制委員会の審査などで停止した期間を除外して延ばせるようにする。安全確認は規制委が担うが、規定の所管は推進役の経済産業省に移される。延長は脱炭素や電力供給の観点から経産相が判断するという。

委員会審議で、経産省は「電力会社に責任のある停止期間は追加延長に入れない」としたが、対象や判断基準は明確ではない。審査が難航した原発ほど長く延命されるという大きな矛盾を抱える。

世界で60年超の運転例はない。停止中も経年劣化は進み、設計の古さに加え、心臓部の圧力容器など交換できない設備はいつ限界が来るか予測は難しいとされる。

だが、規制委は安全性の確認方法の詳細な検討を先送りし、委員1人の反対意見を異例の多数決で押し切って制度変更を認めた。

「政府の法案提出に間に合わせた」旨の内部証言に加え、事務局に経産省側が事前に7回面談し、見直しの条文案まで提示していた事実は見過ごせない。福島事故の反省に基づく「推進と規制の分離」をないがしろにし、安全性審査の独立性と信頼を突き崩すものだ。

脱炭素を看板に原発、再生エネなど5本を束ねた法案は一括採決され、個々の論点と賛否が曖昧にされた感は否めない。将来にわたる懸念を置き去りにせず、国民の命と生活を守る徹底した議論を尽くすのが国会の責任ではないか。