<社説>外国人技能実習 人権を尊重した制度に(東京新聞 2023年4月19日 07時53分)
政府が外国人技能実習制度の廃止を求める中間報告書案を有識者会議に示した。人権侵害の批判が絶えない同制度の廃止は歓迎するが、人権を尊重した制度に改まるか否かが肝心だ。
技能実習制度は三十年前に導入され、昨年末時点で実習生の数は約三十二万人。国内の全外国人労働力の二割近くを占める。
人材育成を通じた国際貢献が建前だが、実際には安価な労働力確保の抜け道になってきた。これまでに賃金不払いや雇用主側の暴力、妊娠を理由とした解雇など人権侵害の例が明るみに出ている。
海外でも問題視され、米国務省は「人身売買」、国連も「債務奴隷型の状況」と批判し、制度の廃止を重ねて求めてきた。
政府はようやく重い腰を上げたが、新制度で人権侵害を招く仕組みが是正されなければ、ただの看板の掛け替えに終わってしまう。
その試金石となるのが転職の自由だ。現行制度では「実習の継続性」を盾に、実習生は原則三年間は実習先を変えられない。その結果、実習生は過酷な雇用状態を我慢するか、失踪して非正規滞在者になるかの二択を迫られる。
報告書案では転職制限を緩和するとしているが「限定的に残す」とも記され、曖昧だ。雇用主の同意といった条件を付けず、無条件の転職を認めるべきだ。
もう一つの焦点は中間搾取の温床であるブローカーの排除だ。出身国では実習生に多額の借金を背負わせ、送り出すブローカーがいる。日本側にもブローカーとつながり、実習先を紹介する民間の監理団体が存在する。報告書案では悪質な団体の排除に向け、厳格な仕組みの構築を掲げるが、国が受け入れ窓口を一括管理することが根本的な解決策になるはずだ。
「政府の支出がかさむ」と懸念する声もあるが、民間任せでは問題の根絶は難しい。
少子高齢化で外国人労働力を抜きに日本社会は成り立たない。途上国の経済発展で賃金面での優位性も薄れ、他国との人材獲得競争も激化している。外国人労働者の人権重視に選択の余地はない。
報告書案には、転職が自由で日本人と同等の待遇を定めた特定技能制度の一部に組み込む案は盛り込まれなかった。「移民社会」化を案ずる保守派に配慮した結果だが、優先すべきは権利擁護ではないか。再検討を求めたい。