これほど脳が活性化する方法を見たことがない…脳研究者が驚いた「勝手に勉強する子」ができ上がるプロセス

1日10~15分の音読を行うと記憶力が20%アップする 社会

これほど脳が活性化する方法を見たことがない…脳研究者が驚いた「勝手に勉強する子」ができ上がるプロセス(PRESIDENT online 2023/06/25 9:00)

1日10~15分の音読を行うと記憶力が20%アップする

川島隆太 東北大学加齢医学研究所教授

あまたある方法論の中で、我が子に真っ先に取り入れるべきものは何か。人間の脳活動の仕組みを研究する川島隆太さんは「幼少期は読み聞かせ、学童期以降は音読をぜひ継続的に実践してほしい」という――。(第2回/全3回)

※本稿は、川島隆太『子どもの脳によいこと大全』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

「音読」が最も脳を活性化させる

私はこれまで数百にものぼる実験を行い、脳が活性化する様子を研究してきました。

その中で、最も強く脳が活性化したのが「音読」でした。現在においても、私は音読以上に脳を活性化させる実験結果は見たことがありません。

音読を行うと、脳の神経細胞が一斉に活性化し、脳の血流がどんどん高まって、大脳全体の70パーセント以上が活動しはじめることがわかっています。

言語を読んでいるときに脳内で起こっていること

言語を読んでいるとき、脳内では何が起こるのでしょうか。

まず、私たちが文章を黙読すると、目にしたものを調べるための「視覚野」がある後頭葉が働きはじめます。次に、目を動かす指令を出す「前頭眼野」が働いて文字を目でとらえ、言葉の意味を理解しようと働く「ウェルニッケ野」が意味をつかもうとします。

そして、「脳全体の司令塔」である前頭前野が働き、読んだ文章を理解し、記憶し、思考するという活動が行われるのです。

このとき面白いことに、聞こえた音を調べる「聴覚野」という脳の部位も働いていることがわかっています。つまり、私たちは文章を黙読しているとき、心の中で声に出して読み、その自分の声を聞いているということです。

1日10~15分の音読で記憶力20%UP

黙読するだけでも、脳の広範囲が働いていることがわかりますが、これが音読になると、働く範囲がさらに広く、強く活性化することがわかっています。

中でも特に強く反応するのが、「頭の良し悪しを握るカギ」である前頭前野です。

脳全体の血流が高まり、活性化した状態にできるのですから、脳の「準備体操」として音読は最適であるといえるでしょう。実際に、1日10~15分の音読を行うと記憶力が20%アップするという研究もあります。

小さなお子さんが自分で文字を読めるようになると、声に出して絵本を読んでいる姿をよく目にしますね。実は、あれが非常によい前頭前野のトレーニングになっているのです。

読書は脳の構造自体を変化させる

学童期になったら勉強の前に教科書を音読する。あるいは、ちょっと難しい文章を理解したいときには意識的に声に出して読むことをおすすめします。記憶力や理解力がアップして、学習効果を高めることが期待できます。

とはいえ、なんでもかんでも音読をするのは、あまり現実的ではありません。当然ながら、純粋に読書を楽しむときには静かに黙読するのが通常です。こうした普通の読書であっても、子どもの脳にとてもよい影響のあることが科学的に明らかになっています。

私の研究では、読書習慣がある子どもたちの脳画像や言語発達に関するデータを分析したところ、言語発達や脳の構造に次のような影響を与えることがわかりました。

脳の神経細胞同士をつなぐ神経線維である「弓状束(きゅうじょうそく)」は、言葉との関係が深いといわれていますが、読書習慣のある子どもは、その構造がよりよく発達していることが確認できたのです。

読書は脳の構造自体を変化させる。その事実に、脳の専門家である私たちでさえも大きな衝撃を受けました。

読書時間が長くなるほど偏差値も高くなる傾向

また、読書習慣は、子どもの成績を向上させることもわかっています。

次のグラフは、2017年(平成29年)の小学5年生から中学3年生までの子ども約4万人の「平日の1日当たりの読書時間」と「4教科(国語、算数/数学、理科、社会)の平均偏差値」をまとめたものです。

読書時間が長くなるほど偏差値が高くなる筆者提供

読書を「まったくしない」が最も低く、そこから、読書時間が長くなるほど偏差値が高くなっている傾向が明らかです。

「まとまり読み」ができるようになることが大切

読書習慣のある子どもたちは、小学校中学年から「まとまり読み」ができるようになります。

文字を一文字ずつ追うのではなく、文字を意味のあるまとまりとしてとらえ、効率的かつ、スピーディに読み進めるようになるのです。

この段階に入った子どもは、文章を読むことがまったくストレスになりません。そのため、自分で本をどんどん読み、さらに知識を積み上げていくという、“理想的なループ”に入ります。

どのクラスにも数人はいる「親に『勉強しろ』と言われなくても勝手に勉強する子ども」とは、こうしたプロセスで成長していきます。

1日30分の読書週間は2時間の学習に匹敵

この4万人の子どもを調査・分析した結果から、さらに次のようなこともわかりました。

・「勉強2時間以上で読書をまったくしない」群の平均偏差値は50.4
・「勉強2時間以上で読書を1日10~30分する」群の平均偏差値は53.6
・「勉強30分~2時間で読書を1日10~30分する」群の平均偏差値は51.3

つまり、同じ勉強時間でも、読書を1日10~30分するだけで偏差値は「3」上がる。さらに、1日2時間以上勉強しても、まったく読書をしていないと、それ以下の勉強時間の子どもより成績が悪くなる……という驚きの結果が出ています。

ここから、子どもには毎日30分程度の読書習慣をつけることが望ましい。すると、2時間の学習に匹敵する成績アップ効果が期待できるといえるのです。

「読む習慣」をつけさせることが大事

家庭で読書習慣をつけるためには、子どもが少しでも興味を持つ本をたくさん与えるとよいでしょう。

このとき、親としてはつい、「勉強に役立つものがいいだろう」と、図鑑や百科事典などを与えてしまいがちです。それらに興味を持たない子どもの場合は、当然ながら手に取ることもなく、ほこりをかぶったまま……。そんなご家庭も多いのではないでしょうか。

幼少期の子どもたちの脳発達にとって重要なのは、「何を読むか」よりも「読む習慣をつけること」です。

子どもがヒーローもののテレビシリーズに夢中なら、その関連本からはじめたり、大好きなアニメの原作本を買って渡したりするのもよいでしょう。

好きなジャンルであれば、たとえわからない文字があっても、子どもは一生懸命に読もうとします。それを続けていくうちに脳が慣れてきて、小学校中学年ぐらいになると「まとまり読み」ができるようになるはずです。

漫画でも「何も読まないよりはまし」

ところで、読書に関して「漫画でもよいのでしょうか?」という質問をよく受けます。「何も読まないよりはまし」と、私としては答えています。

漫画を読んでいるときの脳活動も測定したことがありますが、前頭前野は活字の本を読むときほどには活性化していませんでした。それでも、文字が大好きな脳にとっては、漫画の吹き出しの中の文字を読むことで、通常より活性化する反応が見られました。

とりわけ、物語性のある漫画を夢中になって読むのは、脳にとって悪いことではありません。「いろいろな言葉の意味を漫画で覚えた」というのもよくあるケースです。

「勉強の妨げになる」と、子どもから漫画を取り上げる必要はありません。「文字を読むトレーニングの一環」と考えてかまわないでしょう。

幼少期は「読み聞かせ」で心が育つ

幼少期のお子さんの場合は、家庭での「読み聞かせ」がお子さんにとっての読書習慣となります。

学童期の読書習慣は、前頭前野を活性化して思考力や言語能力の発達にポジティブな影響を与えるものでした。対して、幼児期の読み聞かせは、感情に関わる「心の脳」の発達に大きな影響を与えるということがわかっています。

子どもが物語を聞いているとき、脳にどんな活動が起こるのか。まず、「耳から音を聞く」作業を行うために側頭葉の活動が活発化します。次に、感情や記憶に関わる「大脳辺縁系」が活性化します。

大脳辺縁系は、感情が働くときに活動するため、「心の脳」と呼ばれています。

本を読む喜び、学ぶ楽しさを身につける

一方で、「頭の良し悪し」に関わる前頭前野については、読み聞かせをしている間はあまり働いていませんでした。

そう聞いて、少し残念な気持ちになった親御さんもいるかもしれません。しかし、それは少々早計というもの。

なぜなら、たくさん読み聞かせをしてもらった子どもは、自然な文脈で言葉を学習し、情操や感情表現を豊かに発達させていくからです。

それだけでなく、本を読む喜び、学ぶ楽しさも身につけていきます。

親子で読み聞かせの役割をチェンジしてみよう

そうした体験が強力なモチベーションとなって、成長するにしたがって自ら本を読むようになり、「何も言わなくても自分から勉強する子ども」へと成長していくでしょう。

子どもが自分で文字を読めるようになったら、ぜひ読み聞かせの役割を親御さんと交代してください。今度は子どもが音読をして、親御さんがそれを聞く側に回るのです。

音読によって子どもの前頭前野が強く活性化し、子どもはさらに「頭のいい子」に成長していくことが期待できます。

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