日本学術会議問題を巡り、世界のノーベル賞受賞者61人が「憂慮を共有」 学術会議法は「北朝鮮や中国やロシアのような方向だ」

日本学術会議総会で、政府による法改正の方針をめぐり質疑が行われた=2022年12月8日 政治・経済

世界のノーベル賞受賞者61人「憂慮を共有」 日本学術会議問題巡り

世界のノーベル賞受賞者61人「憂慮を共有」 日本学術会議問題巡り(朝日新聞 2023年4月17日 16時47分)

政府が日本学術会議の組織改革の法案を通常国会に提出する方針について、日本のノーベル賞受賞者ら8人が連名で岸田文雄首相に対し「熟慮を求める」と2月に出した声明に対し、世界の自然科学系の61人のノーベル賞受賞者が全面的に支持するとした共同声明を出した。学術会議の総会で17日午後、梶田隆章会長が報告した。

海外のノーベル賞受賞者による共同声明は4月13日付。元米エネルギー省長官のスティーブン・チュー氏(1997年物理学賞)らが名を連ねた。「私たち61人は、8人の日本人科学者が表明した憂慮と希望を共有する。科学は人類の崇高で知的な努力であり、その発展が人類の進歩と幸福の実現に不可欠。日本はアカデミアを通じて人類に貢献する国で、世界に知的存在感を示すだろう」と表明した。

日本のノーベル賞受賞者ら8人は2月19日付で、2020年の菅義偉首相(当時)による会員候補の任命拒否問題をきっかけに、「政府と学術界の信頼関係が大きく損なわれたままになっている」と憂慮。政府による法改正の検討について「学術会議の独立性を毀損するおそれがあり、大きな危惧を抱く。単に内閣府と日本学術会議の二者の問題ではなく、学術の独立性といった根源的かつ重要な問題につながる」「政府は性急な法改正を再考し、学術会議との議論の場を重ねることを強く希望する」などと求めていた。

<社説>学術会議法 改正を強行せず対話を…朝日新聞

(社説)学術会議法 改正を強行せず対話を(朝日新聞 2023年4月19日 5時00分)

組織改革をめぐり日本学術会議と政府の溝が深まっている。政府は学術会議法の改正を強行せず、対話を尽くすべきだ。

学術会議の総会で、政府は会員の選び方などを定めた法改正案を示した。学術会議は独立性を損ないかねないと猛反発。政府に法改正を思いとどまり、学術全般を見直す協議の場を求める勧告を全会一致で決めた。

法案は、会員選考に際して外部の有識者による「選考諮問委員会」を設け、その意見を尊重すると規定。会員の要件に「科学、行政、産業や国民生活の諸課題に取り組むための経験と識見」を掲げ、推薦を求める先として「経済団体」を明記した。内閣府の担当者は、選考の透明性を確保するための改正で、諮問委の人選も学術会議が決めると説明し、政治の介入は考えていないと強調した。

しかし、要件を細かく盛り込めば政府の意に沿わない候補者を排除する理由にされかねず、諮問委は政府や産業界の意向に従う人を選ばざるを得ない恐れもある。独自に会員選考を行う先進国の標準から外れれば、世界の信頼を損ないかねない。

法施行後に、さらなる法改正も含めて組織や運営のあり方を見直す規定についても、独立性を損ねる「時限爆弾を埋め込んだ」などの不信を招いている。

総会で内閣府からは「法案がどうしてもだめなら今後の選択肢がどうなるか考えなければいけない」など恫喝するかのような発言もあった。こじれた関係を一層悪化させるものだ。

不信の根底には、菅義偉前首相による会員候補6人の任命拒否問題がある。不信を解消するため、岸田首相はまず任命拒否の理由や経緯を説明し、従来の政府見解どおり首相任命は形式的なものだと明言するべきだ。

法改正の進め方も疑念に拍車をかけた。任命拒否問題から論点をずらすかたちで政府や自民党が持ち出し、学術会議との協議、審議会などの議論もなく、学術会議が現に進めている改革も検証せずに進められた。自民党のプロジェクトチームの意見を内閣府が反映する不透明なかたちで改正案が作られてきた。

総会では会員から、改革は「北朝鮮や中国やロシアのような方向だ」とする指摘や全員で辞職する主張まで出された。

学術会議は「日本の学術の終わりの始まり」と危機感を高めている。学術の発展は、その独立のもと、自由な発想があってこそ飛躍的な成果が期待できる。政府からの要望に基づいた研究でも同じだ。

社会課題の解決や産業の発展に、学術は欠かせない。それを代表する学術会議と政府との不正常な状態の被害者は国民だ。