<社説>大阪カジノ認定 課題棚上げの見切り発車…中國新聞
大阪カジノ認定 課題棚上げの見切り発車(中國新聞 2023年4月15日07:00)
地域活性化のメリットばかりが強調され、悪影響が軽視されてはいないか。
政府は、大阪府・市が提出していた、カジノを中心とした統合型リゾート施設(IR)の整備計画を認定した。
米カジノ大手の日本法人、オリックスを中核とする事業者と府・市が組み、大阪湾岸部の人工島・夢洲(ゆめしま)に整備する。年間来場者数約2千万人、経済波及効果は近畿圏で年約1兆1400億円と府・市は見込んでいる。
ラスベガスやマカオのような、外国人観光客を呼び込む拠点にしたいのだろう。バブル崩壊で停滞した湾岸エリアの再生を進めたい思いは分かる。
だが、ギャンブル依存症や治安悪化の対策に十分な手だてを講じることが先ではないか。カジノ整備を優先するあまり、国民生活がないがしろにされているとすれば、本末転倒だ。
夢洲では2025年に大阪・関西万博が開かれる。その起工式の翌日に政府が認定表明したことにも意図を感じる。
岸田文雄首相は、自民党大阪市議団が計画に反対していたことと、どう整合性を取るつもりだろう。首相の脳裏には、計画を推進し、系列の政治団体が府知事、市長の「ダブル選」を制した日本維新の会への秋波があるのかもしれない。
そもそもカジノが本当に魅力的な存在なのか。海外はオンラインカジノが広がり、わざわざ施設に足を運ぶ必要性は薄れている。新型コロナウイルス禍の影響もある。カジノ目当ての客が今後も見込めるかは疑問だ。
米国東部の街、アトランティックシティーで、トランプ前大統領が経営していたカジノ付きホテルは倒産の憂き目に遭った。韓国北東部にある江原ランドは韓国人が大半で外国人客はほぼいないという。
年間1千億円以上の納付金は府・市には魅力だが、風呂敷を広げ過ぎた感もある。カジノとともに整備する会議場やホテルに想定通りの需要があるかも見通せない。国内企業にカジノ運営のノウハウはない。外資が利益を吸い上げるだけでは、何のための整備か分からなくなる。
カジノを巡る汚職事件も起きた。施設周辺には違法な貸金業や風俗店が集まりがちだ。暴力団や犯罪集団がはびこれば、治安の悪化は避けられない。
誘致に前向きな地域は当初、八つあった。横浜市はカジノ反対派の市長が当選して中止を決め、和歌山県は県議会が承認しなかった。申請が大阪と長崎にとどまったのは、住民の反対や不安が強まったためだろう。
生涯で依存症経験が疑われる人は国民の3.6%、約320万人に上ると政府は推計している。30兆円規模と見込まれる競馬やパチンコなどの影響なのか今でも海外と比べ、突出した数字であることは見逃せない。
府・市は依存症の支援拠点を新設し、夢洲での治安対策なども強化する方針という。認定に伴い、岸田首相も依存症対策を含めた環境整備に取り組むよう指示している。それでも説得力が感じられないのは、丁寧な説明を怠り、整備ありきの姿勢が透けるからではないか。
住民が巻き込まれるリスクが見込まれる以上、カジノ整備は通常の開発行為よりも慎重に進める必要があるはずだ。見切り発車では禍根を残す。
<社説>大阪カジノ認定 懸念置き去り許されぬ…朝日新聞
(社説)大阪カジノ認定 懸念置き去り許されぬ(朝日新聞 2023年4月15日 5時00分)
日本初のカジノを大阪市につくる計画が本格的に動きだすことになった。本当に地域の活性化につながるのか。ギャンブル依存症の患者を増やすことにならないか。様々な懸念を置き去りにしたまま、押し通すことは許されない。
カジノを含む統合型リゾート(IR)について、大阪府・市の整備計画を政府が認定した。今後、事業者にカジノ免許を与える手続きとともに、併設するホテルや国際会議場、劇場などの整備事業が始まる。
国内外からの観光客誘致の起爆剤になると国や大阪府・市は強調する。年間2千万人が来場し、売上高は5200億円、その8割はカジノの収益を見込むが、思惑通りになるかはわからない。コロナ禍でネット経由の会談や商談が広がり、カジノもオンライン化が進む。
何より心配なのが、ギャンブル依存症の拡大である。
外国人観光客は入場無料で、利用回数に制限がないのに対し、日本人からは6千円の入場料をとり、「7日間で3回まで」といった上限を定めるというが、不十分との指摘が多い。大阪府は依存症対策推進条例を制定し、基金や支援センターの設置を掲げるが、治療・回復のための施策が中心だ。
依存症の問題に取り組んできたNPOなどは「ギャンブルの場をむやみに増やさないことが最大の対策だ」と訴えている。まさにその通りではないか。
地域開発の観点からも、難題が明らかになっている。
建設予定地は大阪湾の人工島だ。大阪市は公費投入を否定してきたが、カジノ事業者の要求を受けて態度を一変。有害物質の除去や液状化対策の費用約790億円を負担することになった。事業者の公募に1グループしか手を挙げず、何としてもIRを実現したい行政との力関係が「業者優位」になったことが背景にある。
大阪府・市が事業者と結んだ協定でも、状況次第で撤退の申し出を受け入れることにするなど、譲歩が目立つ。建設予定地では、さらに地盤沈下対策が必要になる恐れもあり、公費投入が膨らむ懸念が拭えない。
IR事業はもともと、維新が選挙公約に掲げたのが出発点だ。先の大阪府・市の首長・議会選で維新は再び勝利したが、メディアの世論調査では、IR誘致への慎重・反対意見が根強いことも浮き彫りになった。こうした住民の思いにしっかり向き合うべきだ。
長崎県が申請した計画は認定が見送られ、審査が続くことになったが、国は3カ所までIR事業を認める方針だ。問われているのは大阪だけではない。