<社説>衆参で5補選 「岸田政治」こそ争点に…東京新聞
<社説>衆参で5補選 「岸田政治」こそ争点に(東京新聞 2023年4月12日 07時10分)
衆院四選挙区での補選が告示され、先に選挙戦が始まった参院大分補選と併せて、国政選挙の五補選が二十三日に投開票される。
補選は岸田文雄首相の「中間評価」を問う選挙だ。安全保障政策の転換や原発回帰は妥当か、物価高・少子化対策は適切か、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)と政治との関係や「政治とカネ」を巡る問題解決に指導力を発揮しているか。有権者は「岸田政治」を冷静に判断する必要がある。
補選は、野党系参院議員の知事選立候補に伴う参院大分に加え、衆院は「政治とカネ」の問題で自民党議員が辞職したことに伴う千葉5区、野党議員の知事転出を受けた和歌山1区、安倍晋三元首相の死去による山口4区、実弟の岸信夫前防衛相の辞職に伴う同2区で行われる。いずれの選挙区も与野党対決の構図となった。
岸田首相は昨年十二月に国家安全保障戦略を改定。歴代内閣が憲法の趣旨ではないとしてきた「敵基地攻撃能力」保有に踏み切り、防衛費を関連予算と合わせて倍増させる方針を打ち出した。
また、エネルギー政策を巡り、東日本大震災後の政権の方針を変え、原発新増設を打ち出した。
こうした政策転換は、国会での徹底審議や国民による幅広い議論を経ているとは言い難い。補選ではまず、こうした政策転換の是非が厳しく問われるべきだろう。
新型コロナウイルスの感染拡大が一時期に比べて収まっていることもあり、岸田内閣の支持率は回復傾向にある。
しかし、今年の春闘では大企業を中心に賃上げ回答が相次いだものの、日本経済全般を見渡すと、賃上げは物価上昇に追いついておらず、岸田政権の経済政策や物価対策は十分とは言えない。
首相自身が異次元とうたった少子化対策も、財源確保が不透明で十分な効果が期待されると確信を得るには至っていない。
安倍氏銃撃を機に問題が再び表面化した旧統一教会を巡っては解散命令請求には至らず、教団と政治家との不透明な関係も完全に解明され断たれたとは言い難い。
各選挙区で事情は異なるが、共通して問われるべきは、衆議なき政策転換を続け、暮らしの向上に程遠い「岸田政治」そのものだ。補選は時に政権の浮沈をも左右する。選挙戦では政権の是非を問うにふさわしい論戦を期待したい。
衆院千葉5区補選ルポ 告示日の選挙区を歩く 野党「政治とカネ」追及、自民は触れず
衆院千葉5区補選ルポ 告示日の選挙区を歩く 野党「政治とカネ」追及、自民は触れず(東京新聞 2023年4月12日 06時00分)
岸田文雄政権への「中間評価」とも位置づけられる衆参5補選の1つ、衆院千葉5区補選(市川市の一部と浦安市)が11日、告示された。そもそものきっかけは、前職の薗浦健太郎氏=自民党を離党=の辞職だった。政治資金収支報告書にパーティー収入を過少記載するという「政治とカネ」の問題だ。地元の有権者らは選挙戦をどう見るのか。初日の選挙区を歩いた。
「この補選はなぜ起きたのか。思い出してください」。千葉県市川市役所近くのJR本八幡駅前に熱っぽい声が響く。立候補届け出を終えた各陣営が、入れ代わり立ち代わりで演説を繰り広げる。野党候補者に共通するのは、「政治とカネ」の問題の追及だ。「税金を自分のために使うなどあってはならない」などと口をそろえた。
同駅から歩いて3分ほどの距離に前職の薗浦氏の事務所がある。すぐそばの飲食店で働く男性(53)は「(薗浦氏は)当選を重ねるごとに謙虚さがなくなっていった。急に地位を手にして世間知らずな一面が出てしまったんじゃないか」と手厳しい。「国会議員になることがゴールでは困る。選挙区の代表という自覚を持って地域のために働く人が選ばれてほしい」
駅近くの裏路地にいた飲食の配達員の男性(57)は「自分たち庶民が苦しんでいるのに、不正で私腹を肥やしていた。何をやっているんだとの思いが今もある」と憤る。
不祥事のイメージ刷新を図る自民は、公認候補を公募で選考。陣営幹部は「クリーンで優秀な候補者だ」と自信をのぞかせる。JR市川駅での第一声で自民候補は、前職辞職の経緯には触れず、外交・安全保障の強化などを訴えた。
日が暮れ、同駅には東京方面からの会社帰りの人たちの姿が。都内と隣接する選挙区の市川、浦安両市は転勤者や若い世帯も多い。地縁血縁のしがらみが少ない、こうした人たちの「浮動票」は世相の影響を受けやすいとされ、各陣営はその取り込みが勝敗を左右すると踏んでいる。
無関心な様子で候補者の脇を通り過ぎていく人たちも多い中、生活の足元を気にする切実な声が聞こえてきた。8カ月の長男と駅に来た女性(35)=市川市=は、物価高騰で子育てにかかる金額がこの半年で月2万円増えたという。「人口が減り経済が縮小する中、将来世代の負担は増える。このまま日本でこの子を育てていいのか不安になる」。隣にいた、6カ月の長男を育てる友人の女性(29)=同市=とともにうなずいた。