ChatGPTを使いこなせない人と使いこなす人の差 対話型AIができること、できないことは何か

価値の高い利用法はあるがアイデアを考えるのは、やはり人間だ 科学・技術

ChatGPTを使いこなせない人と使いこなす人の差 対話型AIができること、できないことは何か(東洋経済ONLINE 2023/04/02 8:00)

野口 悠紀雄 : 一橋大学名誉教授

対話型AIとして劇的な性能を備えたChatGPTの登場に大きな衝撃が走っている。多くの人は、対話型AIにクリエイティブな仕事を求める。しかし、それは、無理な要求だ。ただし、対話型AIは、資料のありかを教えてくれるなど、力強い手助けになる。だから、無視してはならない。

昨今の経済現象を鮮やかに斬り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する──。野口悠紀雄氏による連載第91回。

対話型AIをどう使えばよいか?

対話型AIが利用可能になり、さまざまな反響を呼んでいる。

どのような利用法が可能だろうか? これまでいろいろ実験して、ある程度の方向感をつかむことができた。

利用法を考える場合にもっとも重要なのは、出力された内容が正しいという保証はまったくないと、十分認識することだ。出力された文章は、文法的にはほぼ完璧で、知的な人間が書いた文章と見分けがつかない。このため、書いてある内容を信頼したくなる。しかし、そうではないのだ。

では、内容の正しさが保証されないから使い道がないのかと言えば、そうではない。それを踏まえた上での利用法はある。

以下では、このような観点から、対話型AIの利用法を探る。

価値が高い利用法として、まず「翻訳」がある。

例えば、内容を指定して、英文のメールを書いてもらう。あるいは、外国の文献を指定して、訳してもらう。

翻訳はすでにGoogle 翻訳などでもできることだが、対話型AIだと、かなり長い文章もできる。また、翻訳された英文も、Google 翻訳よりはこなれたものになっているように思われる。

第2の用途は、「要約」だ。

文献を指定して、要約してもらう。これを見て、読む価値がある文献か否かを判断することができる。外国語の文献の場合は、翻訳の要約が得られるので、きわめて有用だ。

要約を頼む場合に重要なのは、文献そのものをこちらではっきりと特定することだ。「……についての文献」などとすると、答えは出てくるが、内容がいい加減なものになる危険がある。

要約の一種として、文章を示して、「タイトル」や「小見出し」を考えてもらうこともできる。あるいは、広告のコピーや商品名を考えてもらうこともできる。対象として想定する人々を指定することもできる。例えば、「若い人々にアピールするように」というように。

資料のありかを教えてもらう

価値が高い利用法の第3は、資料やデータの「ありか」を教えてもらうことだ。経済分析では、どこに有用なデータがあるかを知っていることが重要だが、これまでの検索エンジンでは、必ずしも適切な答えが得られなかった。

対話型AIに、例えば、「賃金の国際比較のデータは、どこにあるか?」というように質問することで、これまで知らなかった新しい情報源を知ることができる。

ただし、あまり信用できそうにないサイトを指定することがあるので、「政府や公的機関、国際機関のサイト」などと、限定するほうがよい。

第4は、「校正」だ。メールや手紙のような短い連絡文について、敬語の使い方などを直してもらう。

多くの人は、対話型AIにクリエイティブな作業を求めているだろう。

例えば、要約を示して、論文を書いてもらうことだ。

しかし、これは、うまくいかないことが多い。文章を出力してはくれるのだが、余計なことや、間違ったことが付け加えられている場合もある。何より、「自分が書いた文章ではない」という不満が残るだろう。

クリエイティブな作業として多くの人が求めるもう一つのことは、対話の中からインスピレーションを得ることだ。つまり、AIとのブレインストーミングだ。とりわけ、問題を捉えたり、「よい質問」を考え出したりしてほしい。つまり、論文の「テーマ」を教えてほしい、あるいは、面接試験の質問を考えてほしいといったことだ。

マイクロソフトの検索エンジンBing(ビング)は、とくに求めなくても質問の候補を出してくれるので、一見すると、この要求に応えてくれるように思われる。

アイデアを生み出すのは人間

しかし、これは、うまくいく場合もあるが、いかない場合もある。漠然とした指示では、月並みな回答しか戻ってこない。「……について知りたい」と、詳しく限定する必要がある。だから、結局のところ、アイデアを生み出す基本的な作業は人間が行うことになる。

なお、メールなどの短い文章の校正は可能と述べたが、長い文章ではどうだろうか? 

文章を示して、「校正して下さい」と指示する。長い文章の場合は、うまくいく場合もあるが、いかない場合もある。動作が不安定になる場合もある。これができれば、音声入力で作ったテキスト(誤変換が多い)の校正に使えるのだが、現状では過剰な期待はできない。

なお、文章校正は、WordやGoogleドキュメントでもできる。私は、Googleドキュメントの校正機能が使いやすいと思っている。

同じことが、文語体と口語体の変換についてもいえる。うまくいく場合もあるが、いかない場合もあり、動作が不安定だ。

もうひとつ考えられるのは、書いた文章を評価してもらうことだ。

でまかせの俳句を評価してもらったのだが、「素晴らしい」と絶賛された。対話型AIは、批判力を持っていない。

最初に述べたように、対話型AIの出力内容は、間違っている可能性が高い。だから、データや資料そのものを教えてもらおうと期待しないほうがよい。

少なくとも、十分にチェックすることが必要だ。

対話型AIに期待できない第2は、アイデアそのものを考えてもらうことだ。

「……についてのアイデアはないか?」というような漠然とした指示では、ろくな答えは得られない。ごく普通に言われていることが出てくるだけだ。AIに創造を求めるのは、もともと無理なことなのである。

したがって、小説や映画の筋書きそのものを考えてもらうこともできない。「……の続編を書いてほしい」というような漠然とした指示では、実に陳腐な答えしか得られない。AIに小説を書かせるのであれば、人間が詳細に筋書きを考える必要がある。

AIに期待してはならないもう一つのことは、健康に関するアドバイスだ。誤った回答を信じれば、命に関わりかねない。 

AIに創造はできないが、知的作業の力強い手助けになる

多くの人は、対話型AIにクリエイティブな作業を求めようとしている。テーマだけ与えて論文を書いてもらうといったことだ。

これによって、手抜きができないかと期待している。しかし、すでに述べたように、AIは、この要求には応えてくれない。これは、もともと無理な要求なのだ。

だから、以上で述べた使用法のうち、「価値が高い利用法」として述べたことをいかに開拓できるかが重要だ。

結局のところ、「アイデアの発想」は、人間の仕事だという結論になる。ただし、AIはその仕事を補助してくれる。だから、決して無視したり排除したりしてはならない。

野口 悠紀雄(のぐち ゆきお)
一橋大学名誉教授
1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。