日本はなぜこんなにスギ植えた? 『無花粉スギ』発見から30年、国民4割が花粉症の今も植え替えが進まない理由

スギ花粉は極小なので風に乗って数十kmも舞い飛ぶ 科学・技術

日本はなぜこんなにスギ植えた? 『無花粉スギ』発見から30年、国民4割が花粉症の今も植え替えが進まない理由(ORICON NEWS 2022-04-16)

花粉の飛散量の増加等の影響により 、現在では国民の約4割がスギ花粉症を発症していると言われている。

学名は“Cryptomeria japonica”とされるスギは日本の風土に適応した樹種で、全国に広く自生するほか、住宅建築用材等の生産等のためにも古くから植林されてきた。日本の人工林の44%を占めるスギ林の総面積は国土の約12%にも及ぶが、こんなにもたくさんのスギが植えられたのはなぜなのだろうか。

また、1992年には花粉を全く出さない突然変異種『無花粉スギ』が発見されるも、伐採や植え替えに時間を要している理由を林野庁に聞いた。

戦後の植林から花粉飛散量は年々増加、国民の約4割が発症「社会的にも大きな影響」

「スギが現在のように増えた理由として、戦時中の乱伐により荒廃が進んだ森林を早期に復旧するため、植林が容易なスギが多く植えられことや、昭和30年代の高度経済成長期に、住宅建築等の木材需要の高まりに応えるため、成長の早いスギが広葉樹林に代わって多く植林されたこと等が考えられます。

こうした事情により、スギ人工林は、林業的に条件が不利な奥地や標高の高い地域にまで拡大しましたが、現在は、森林の公益的機能を発揮させる観点から、こうした条件不利地のスギ人工林等においては、針広混交林や広葉樹林化などを推進していくこととしております」

スギは温暖で湿潤な気候に適しているが、雪にも強く多雪地帯でも生育することや、挿し木で増やすことも比較的容易な植物だ。また、通直に成長し、木目がまっすぐで材質としてはやわらかいため、加工がしやすく、建築材のほか様々な用途に活用できる。木材としてもこれ以上ない有能さを持つスギは、国土・自然環境の保全、物資確保のために、戦後急速に植林の要請が高まったのだ。

花粉の飛散量の増加とともに、花粉症の発症年齢は低年齢化が進み、現在では国民の3人に1人以上が発症していると言われている。

「全国の耳鼻咽喉科医およびその家族を対象とした鼻アレルギーの全国疫学調査の結果によれば、スギ花粉症の有病率は1998年16.2%、2008年26.5%、2019年38.8%と、増加傾向にあると聞いています。花粉症は 一般に患者の生活の質を損なう場合が多いこと等から、社会的・経済的にも大きな影響を及ぼしているものと認識しています」

1万本に1本の突然変異種『無花粉スギ』の発見から30年、花粉症患者の救世主なるか

特にコロナ禍の今、花粉症の症状はコロナではないかと周囲に敬遠される可能性もある。林野庁、環境省、厚生労働省ほか、関係省庁が連携し、原因究明、予防・治療など、総合的に花粉症対策に取り組んでいる。林野庁は、花粉発生源となるスギ林について、伐採、植え替えなどを早急に進めている。

「花粉を飛散させるスギ人工林の伐採を進めるとともに、伐採されたスギについては、住宅に加えて、商業施設や公共建築物の木造化等に利用し、資源として活かしていきます。また、林野庁では『伐って、使って、植える』といった、国産材の利用を推進し、森林資源の循環利用の確立に向けた取り組を進めており、スギ人工林の伐採と利用の加速化を図っています」

単に伐採を推進するだけでは、水源の涵養や土砂災害の防止など、森林の有する機能へ悪影響を与えかねな い。植え替えるための花粉の少ない苗木の生産拡大を図るとともに、伐採した資源の循環利用を確立することが不可欠だ。そのためには、森林施業の集約化、路網整備や高性能林業機械の導入による労働生産性の向上、人材の育成・確保、木材の需要拡大など、解決しなければならない様々な課題と併せて取り組む必要がある。

花粉症患者の救世主として期待されているのが、1992年に富山県で初めて発見された『無花粉スギ』だ。

「無花粉スギは、生育しているスギの中から偶然発見されました。現在山に植えられている無花粉スギの苗木は、無花粉スギと、無花粉の原因となる遺伝子を持つスギを交配させ、その子の中から、両方の親から無花粉の原因となる遺伝子を受け継いだものが、無花粉スギの苗木として生産されています」

無花粉スギ 画像提供:森林研究・整備機構

自然界では、5000本から1万本に1本、突然変異によって偶然生まれるという。花粉飛散量の多い年でも、雄花から花粉を全く出さない品種だ。

「林野庁では、無花粉スギのほか、花粉をごくわずかしか作らない少花粉スギなどの、花粉の少ないスギ苗木の生産拡大に取り組んでいます。今後、その生産拡大が進み、伐採後に植えられるスギ苗木の多くが花粉の少ない苗木となれば、花粉の少ない森林づくりに大きく貢献するものと考えています」

少花粉スギ 画像提供:森林研究・整備機構

全国における花粉の少ないスギ苗木の生産量は、2019度には1,212万本まで増加し、スギ苗木の年間生産量に占める割合の約5割に達した。林野庁では、今後、2032年度までに約7割に増加させることを目指すとともに、スギ花粉の飛散防止剤の開発・普及等、スギ花粉の発生を抑え飛散させない新たな技術の実用化を進めていく。

しかし、日本中のスギを植え替えるだけの品種改良や種苗生産にはかなりの時間を要する。プラスチック削減策として、木製が代替品として使われる場面が増えているが、そういった個人の取組が、花粉症対策にもつながるという。

「『伐って、使って、植える』といった森林資源の循環利用の確立が、花粉の少ない森づくりに繋がると考えておりますが、そのためには木材の利用を推進することが重要です。国民の皆様にも、身の回りのものを木に変える、木を暮らしに取り入れるといった取組を行っていただけたらと思います」