中国、EV中核部品のレアアース磁石技術を禁輸へ…脱炭素分野で覇権確立狙いか(読売新聞 2023年4月5日5:00配信)
中国政府が、電気自動車(EV)や風力発電用のモーターなどに必要な高性能レアアース(希土類)磁石の製造技術について、「国家安全」を理由に輸出を禁止する方向で検討していることがわかった。世界的な脱炭素化の流れで動力の電気化が進むなか、中国は磁石のサプライチェーン(供給網)を押さえ、成長が見込まれる環境分野で覇権確立を目指しているとみられている。
中国政府は、製造業などの産業技術の輸出規制に関するリスト「中国輸出禁止・輸出制限技術目録」の改定作業を進めており、昨年12月に同目録のパブリックコメント(意見公募)向けの改定案を公表した。レアアースを用いた高性能磁石の「ネオジム」や「サマリウムコバルト」などを追加し「製造技術」輸出の禁止を新たに盛り込んだ。意見公募は今年1月下旬に終了しており、年内にも改定案が採択されるとみられる。
磁石は、電力や磁力を利用して回転を生むモーターの性能を大きく左右する中核部品で、EVのほか、兵器にも用いられる航空機、ロボットなどの産業機器や携帯電話、エアコンなどに幅広く利用されている。半導体や蓄電池と共に利用の増大が見込まれており、「供給が途絶した場合は国民生活や経済活動に幅広く甚大な影響を及ぼす」(日本政府)とみられている。
ネオジム磁石の世界シェア(市場占有率)は中国が84%、日本が15%、サマリウムコバルト磁石は中国が90%以上、日本が10%以下とされる。中国が製造技術を禁輸すれば、「磁石メーカーを持たない米欧は新規参入が困難となり、中国に完全に依存を強いられる」(欧州関係筋)状況となる。中国は設備投資を進めて大規模生産による低コストでの磁石製造を進めており、今後、日本もシェアを奪われていく可能性がある。
改定案は輸出禁止・制限について、「国家安全保障」や「社会の公共利益」を守るとする目的を明記している。 習近平(シージンピン)政権は磁石が、経済成長の鍵を握り、国家安全保障にも関わる戦略物資だと位置づけている。
習政権は国家安全保障について、軍事のほか経済や文化、社会、科学技術、情報、資源なども対象とし、供給網もその一つとする。習国家主席は2020年、内部の会議で国際社会の供給網での対中依存を高めるように指示した。磁石の製造技術の禁輸もその一環とみられ、環境分野での中核技術を国内で囲い込み、中国とのデカップリング(切り離し)を進める米欧への切り札とする考えだ。