<社説>放送法の文書 行政のゆがみ検証必要…北海道新聞
<社説>放送法の文書 行政のゆがみ検証必要(北海道新聞 2023年3月25日 05:00)
放送法の政治的公平性の解釈を巡る行政文書で、作成時に総務相だった高市早苗経済安全保障担当相と総務省の見解の相違が鮮明になっている。
高市氏が「捏造」と主張する自身に関する文書について、総務省が捏造があったとは「考えられない」と結論づける調査結果を公表した。政府は調査に区切りがついたとして、事態の収拾を急ぐ。
だが内容に関しては、関係者の証言が食い違っているため「正確性を確認できなかった」という。
当時の安倍晋三政権が自らに批判的な番組を排除する狙いで法の趣旨をねじ曲げた疑惑は晴れていない。報道の自由に対する介入が疑われる問題を、うやむやのまま幕引きにはできない。
政府は当事者の証言の食い違いを精査し、放送行政をゆがめていないか検証すべきだ。
調査では、放送法の解釈の議論を主導したとされる礒崎陽輔元首相補佐官が「安倍元首相にレク(説明)をした事実はある」と明言した。ただ、これも内容の正確性は確認できなかったとした。
岸田文雄首相はきのうの参院予算委員会で「引き続き正確性については議論をしていかなければならない段階だ」と述べた。
ならば、当事者の証言の食い違いはどこに、どう生じているのか。詳しい説明が求められる。
安倍政権以降、官僚に政治への忖度が広がり、内部の調査だけでは限界がある。第三者機関による検証が必要だろう。
高市氏は国会で野党議員に「私の答弁が信用できないなら、もう質問しないでほしい」と発言し、撤回に追い込まれた。
それでも、総務省が調査で「あった可能性が高い」と指摘した自身へのレクも含め「捏造」とする立場を崩していない。
高市氏は政治的に公平かは個別の番組での判断もあり得ると答弁し、放送局の番組全体から判断するとしていた従来の原則を大きく変更した。
答弁は文書で礒崎氏がまとめたとする文案と全く同じだ。
首相補佐官としての礒崎氏の担当は安全保障と選挙制度だった。所管外の放送行政で、総務相に相談もなく、総務省幹部と調整を進めたとすれば越権行為だろう。
岸田首相は「従来の法解釈を変更したものではなく、補充的な説明をしたものだ」と説明する。
共同通信の世論調査では65%が報道の自由への介入と回答しており、首相の説明は通用しまい。
<社説>放送法行政文書 真相はにごして幕引きか…信濃毎日新聞
〈社説〉放送法行政文書 真相はにごして幕引きか(信濃毎日新聞 2023/03/24 09:31)
分かりませんでしたで済ますのか。
放送法の解釈変更に至る過程を記した行政文書を巡り、総務省が調査結果をまとめた。
文書は、安倍晋三首相の補佐官が2014年11月から総務省に働きかけ、政治的公平性は「番組全体を見て判断する」とした従来解釈を、「一つの番組でも判断できる」とねじ曲げたやりとりを克明に記録している。
当時の総務相だった高市早苗氏は15年5月の国会で、文書にある文言そっくりに「一つの番組のみでも、極端な場合は政治的公平を確保しているとは認められない」と答弁した経緯がある。
安倍官邸の圧力はあったのかが今国会の焦点となっている。
文書は15年2月の「大臣レク」で、担当局長が補佐官との協議内容を報告したとする。高市氏はレクを否定。「官邸には準備しておきますと伝えてください」などと記された自身の発言部分も「捏造だ」と決め付けた。
担当課の答弁案を見たのは国会の答弁前夜であり、自らの責任で答えたと釈明している。
調査結果は大臣レクについて、関係職員の証言が「なかったとは考えにくい」「あったとは思わない」に割れており、「確認できなかった」とした。
高市氏の発言内容も、本人の確認を取らず文書を作成し、8年も前で担当者の記憶が曖昧であるのを理由に「正確性は確認できなかった」と結論付けている。
音声でもない限り、高市氏の発言は裏付けられない。一方、職員が「捏造」する動機も見当たらない。78枚に上る詳細な文書からは法解釈という重要案件が官邸主導で進んだのを明確にする“組織防衛”の意図も透ける。
総務省は「一定の区切りが付いた」との認識でいる。真相が曖昧では公文書への信頼はさらに揺らぐだろう。「捏造」とののしられた官僚の意欲もそぎかねない。岸田文雄首相は「総務省の問題」で片付けられないはずだ。
国会での追及が文書の正確性にとどまり、官邸圧力の有無に深まらない状況は歯がゆい。
そもそも放送法は政府による介入の根拠ではない。放送の自律と表現の自由の確保を本義とする。官邸の指示であれ、高市氏の判断であれ、これを脅かす政治家の言動は許されない。
与野党は、放送法の趣意を改めて国民に示し、政府に解釈変更の撤回を迫る決議案を採決にかけてはどうか。放送の独立を担保する仕組みの整備へとつなげたい。
<社説>放送法問題 本質論そらす「捏造」答弁…西日本新聞
放送法問題 本質論そらす「捏造」答弁(西日本新聞 2023/3/25 6:00)
問題の本質は報道に対する政治家の圧力があったか否かだが、国会での論点がそれている。原因は当事者の一人である高市早苗経済安全保障担当相の乱暴な答弁にある。
礒崎陽輔元首相補佐官が放送法の「政治的公平性」の解釈再検討を求めたことを示す行政文書について、総務省は「捏造」を否定する調査結果をまとめた。
当時の総務相だった高市氏にも、何らかの説明をしていた可能性が高いとしている。
高市氏はその後、政治的公平性は「放送事業者の番組全体」で判断するとの従来解釈に加え「一つの番組のみ」でも極端な場合は認められないとする国会答弁をしている。礒崎氏の主張に沿うものだ。
文書の存在が判明した後、高市氏は国会で自身に関する文書を捏造と断じた。捏造でなかった場合は閣僚や議員を辞職するかとただした立憲民主党議員に「結構」と即答している。このやりとりで高市氏の進退が焦点となり、法解釈の問題は脇に置かれた。
文書が正式な行政文書であると確認されると、高市氏は「ありもしなかったことをあったようにして作るのは捏造だ」と、総務省の記載の不正確さに主張の軸を移した。
閣僚でありながら、行政文書の信用を否定する発言だ。官僚には捏造する必要もメリットもないはずなのに、高市氏は根拠を示していない。
答弁を「信用できない」と批判した立民議員に「信用できないんだったら、もう質問なさらないでください」と言い放ったことも目に余る。
国会論議そのものの否定であり、閣僚としての節度を著しく欠く。末松信介参院予算委員長が異例の注意をし、答弁撤回を求めたのは当然だ。
一連の文書は、首相側近から法解釈変更を迫られた総務官僚が克明に記録を残したとみるのが合理的である。
高市氏の答弁は官僚の士気を損なうばかりか、後難を恐れて記録を残すことをためらわせる懸念もある。
安倍晋三元首相が国会で進退に言及した後、財務省が文書を改ざんした森友問題の例もある。官僚が政治家の発言に振り回されては、国政にとって百害あって一利なしだ。
総務省の調査は、記載内容の正確性について「確認はできなかった」と結論づけた。高市氏は「不正確」と主張し続けており、事実確認は入り口で堂々巡りしている。
調査では、高市氏の不利になりそうな点について職員が「記憶にない」と回答している。官僚による同僚の調査には限界があろう。総務省の接待問題で弁護士らによる第三者委員会を設けたように、客観的な検証を求めたい。
安倍政権以降、政府の問題に政治家が正面から答えないまま、ほとぼりが冷めるのを待つことが常態化している。放送法の解釈を巡って政治介入があったかどうかの真相は国民の知る権利に関わる。うやむやにしてはならない。
<社説>放送法4条 解釈変更は撤回すべきだ…琉球新報
<社説>放送法4条 解釈変更は撤回すべきだ(琉球新報 2023年3月25日 05:00)
疑念が一層深まった。放送法4条の解釈を変更した経緯は妥当性に乏しい。うやむやにせず、政府は当時の総務相答弁を速やかに撤回すべきだ。
放送法の「政治的公平」の解釈を巡る行政文書について総務省は最終的な調査結果を発表し、捏造があったとは「考えていない」との見解を示した。2015年に同省の担当局長が当時の高市早苗総務相(現経済安全保障担当相)に対し放送に絡むレクをした可能性が高いことも指摘した。
高市氏はこれまで自身が関係する4文書について「捏造」と断言し、「政治的公平」についても「レクを受けたことはない」と述べた。今回の調査報告を受け、高市氏は改めて説明すべきだ。
安倍晋三元首相が解釈変更の議論に関わった可能性があることも最終調査で判明した。他方、「十分な事実関係の確認が困難な場合があった」などの記述が散見され、多くの内容で事実認定を避けた。このまま幕引きにしてはならない。事実関係のさらなる精査を求めたい。
15年5月の国会答弁で高市氏が「一つの番組でも極端な場合は政治的公平を確保しているとは認められない」と述べた事実は重い。「一つの番組ではなく、放送事業者の番組全体を見て判断する」という従来の立場とは異なる見解を国会で示したのだ。「報道の自由」に関わる重大な法解釈の変更について高市氏ら当事者が説明できないというのは理解しがたい。
総務省が公式な「行政文書」と認め、ホームページで公表した文書は官邸サイドが放送法4条の解釈変更を総務省に迫った経緯が記されている。「一つの番組でも明らかにおかしい場合があるのではないか」という当時の礒崎陽輔首相補佐官の主張や圧力から高市氏の国会答弁に至った。首相官邸に身を置く特定の政治家の発言と行動が契機となり法律の解釈が変わった。その妥当性が厳しく問われるのである。
そもそも放送法は1条で規定している通り、放送事業者の自律の保障を基本としている。その上に立ち「政治的な公平性」についても放送事業者の自主・自律的な取り組みによって担保されるというのが従来の政府の立場だった。
ところが高市氏は15年の答弁以降、政治的公平性を理由に「電波停止」を放送局に命じる可能性にまで言及した。放送法の趣旨に反し、放送局を萎縮させるものだ。
高市氏の答弁について岸田文雄首相は「従来の法解釈を変更したものではなく補充的な説明をしたものだ」と説明している。松本剛明総務相も同様だ。しかし、総務省の行政文書に照らせば全く説得力を持ち得ない。
強引に進められた放送法4条の解釈変更を放置してはならない。報道の自由を縛る高市氏の国会答弁を撤回し、本来の放送法の趣旨に立ち返るべきである。