2023年悪魔のシナリオ 4つのポイント(セブツー Dec 20, 2022)
カタールで行われた「ワールドカップ2022」は、アルゼンチンがフランスをPK戦で破り、実に1986年メキシコ大会以来36年ぶり3度目の優勝を飾って閉幕した。優勝に沸き返るアルゼンチンの首都ブエノスアイレスの様子をTVが映していたが、優勝の喜びとともに貧困ぶりを訴える民衆の姿が印象的だった。
2022年の年間インフレ率は99%と予想されている(2021年は48%、2020年は42%、2019年は53%)。歴代政権の放漫財政を主因にするアルゼンチン・ペソの大暴落が信じられないようなインフレの原因だ。どこかの国を思い出させる。
それとともに、思い出されたのが米国のノーベル賞受賞経済学者サイモン・クズネッツ(1901〜1985)の名言。「世界には4種類の国がある。先進国、低開発国、日本、アルゼンチン」。
この名言の意味は、「第2次世界大戦で最貧国になった日本がその後30年間で先進国になった。20世紀初頭には世界で最も豊かな国だったアルゼンチンはいまや最貧国の仲間入りをしている。この2カ国は例外だが、先進国は先進国のまま、低開発国は低開発国のままというのが歴史の真実」ということだ。
この1980年あたりのクズネッツの発言も現在ではかなり怪しくなった。ひとつ心配なのは、30年後には日本が第2のアルゼンチンになっているのではないかということだ。もっとも30年後にはワールドカップで日本が優勝しているかもしれないが(笑)。
本題に入るが、2023年の悪魔のシナリオを考える上で、第1のポイントは「インフレ」である。
現在の世界的インフレの原因は、2022年2月24日のロシアのウクライナ侵攻だとされている。しかし、それ以前に全世界的コロナ収束をうけての経済活動活発化でインフレはすでに始まっていたのを忘れてはならない。
このインフレ対策の鍵を握っているのが米国の政策金利である。これを決定するのがFRB(米国連邦準備理事会)である。その決定会議はFOMC(1月、3月、5月、6月、7月、9月、11月、12月の年8回)だが、現在は景気後退を重視して、利上げを0.5%のペースに落ち着かせているが、インフレ率の動向ではまた0.75〜1.0%というハイピッチ利上げに移行することも考えられる。
問題はその時の米国株価の動向である。何度も書いているが、すでにニューヨークダウ平均株価は「上がるから買う。買うから上がる」のバブル状態である。12月のFOMCの決定がペースダウンして、株式市場で楽観論が現在は支配的だが、FRB&FOMCの金利政策が引き締め=ハイピッチ上げになれば、ニューヨークダウ平均暴落→世界株安につながりかねないのだ。このシナリオはかなり現実味がある。世界株安による世界金融危機の可能性は否定できない。
2023年悪魔のシナリオの第2のポイントは、中国のゼロコロナ政策放棄による感染再爆発だろう。
中国政府は民衆の強硬な抗議運動に屈して、ゼロコロナ政策の緩和に踏み切った。今後の爆発的な感染拡大がかなりの確率で予想される。「世界の工場」である中国がそうなればどんなことになるのか? 中国の終わりの始まりとまで言う識者がいる。
中国・武漢発のコロナ禍も3年を過ぎて、4年目に入ってまた中国発の「コロナ本番」なんてことがないとはいえない。すでにゼロコロナ撤回後に、中国では火葬場に行列が見られたり、下熱剤などの薬不足が深刻化している。
一方、日本では、新型コロナウイルスの感染分類を現在の2類から一般のインフルエンザ並みの5類への移行についての議論が進められていて、最終段階を迎えている。すでに出入国制限も緩和が進み、2023年内には恐らくマスクの着用も見られなくなるのではないか。
しかし、そうした制限緩和により連日全国で新規感染者10万人を超えるという「痛み」を伴ってはいる。こうしたゼロコロナ政策撤廃や制限緩和が「吉」と出ることを祈りたいものだが。
2023年悪魔のシナリオの3つ目のポイントは、ファッション&アパレル業界での円安倒産の多発だろう。
前述したように米国金利が上昇して、超金融緩和策を継続している日本との金利差が拡大して、円安が急激に進行して、2022年10月20日には1ドル=150円台を突破した。実に32年ぶりの円安だった。その後利食いする投資家が多く急激に円高にはなったが、同様の展開は2023年にもあり得るだろう。
こうした円安進行下でファッション業界ではインポーターの三崎商事が2022年8月1日に大阪地裁に民事再生法の適用を申請した。特にインポーターにとっては円安は経営を直撃するが、輸入品浸透率が98%の日本のアパレル市場では一般のアパレル関連企業にとっても状況は同じようなもので、仕入れ原価の高騰で、コロナ収束で売り上げは回復してもなかなか利益は反映しない展開になっている。「むしろキツイ」という声もあるぐらいで、コロナ収束期であるにも拘らずついにギブアップという事態が多発することもあり得そうだ。
2023年4月に退任する黒田東彦総裁に代わる新総裁による金融緩和政策の終了が待たれる。それはそれで痛みを伴うことは間違いないが。
2023年悪魔のシナリオの第4のポイントは言うまでもなくロシアのウクライナ侵攻の行方である。
2023年中に終わることはなさそうだ。プーチンの精神状態次第だが、考えたくもない最悪のシナリオもないとは言えない。終結を可能にする賢者は現れないのだろうか。