「戦争を回避せよ」安全保障で民間提言相次ぐ 政府の防衛力強化に

令和3年11月27日、岸田総理は、陸上自衛隊朝霞駐屯地で開催された令和3年度自衛隊記念日観閲式に出席 政治・経済

「戦争を回避せよ」安全保障で民間提言相次ぐ 政府の防衛力強化に(毎日新聞 2022/12/6 06:00 最終更新 12/6 06:00)

政府・与党による防衛力の抜本的な強化の検討が大詰めを迎える中、平和外交を重視する民間のグループで提言をまとめる動きが相次いでいる。財源には増税や国債の発行が検討されているほか、いざ戦争が起きれば自分が攻撃の被害者になる恐れもある。各グループは、安全保障のあり方を「自分ごと」として関心を持つよう呼び掛ける。

「戦争を回避せよ」。日米や東アジアの外交の多様化を図る民間シンクタンク「新外交イニシアティブ(ND)」は11月28日、こんなタイトルの政策提言を発表した。NDは、2013年に弁護士の猿田佐世さんらが設立し、沖縄県の米軍基地問題をめぐる米国でのロビー活動などに取り組んできた。

政府は、相手国のミサイル発射拠点などをたたく「反撃能力」(敵基地攻撃能力)の保有を目指すが、これまで自衛隊が基本としてきた「専守防衛」の考えから外れかねない。NDの政策提言は「すべてのミサイル施設を破壊することは不可能であり、必ずミサイルによる報復がある」と指摘。沖縄だけではなく、本土の基地が攻撃されるリスクがあるとする。

政策提言を発表したオンラインシンポジウムでは、ND評議員で元内閣官房副長官補の柳沢協二さんが「この提言で一番大事なメッセージは、最後の最後まで戦争は回避しなければいけないということ。外交の失敗で戦争になるのは政治の問題。その政治(家)を選んでいるのは国民だ」と強調した。

日本の防衛予算は国内総生産(GDP)比1%程度を目安に推移してきたが、岸田文雄首相は11月28日、防衛費など関連予算を27年度に2%に引き上げるよう指示した。米国の軍事情報サイト「グローバル・ファイアパワー」によると、22年の国防費支出の推計で日本は474億ドルで世界7位に位置する。2倍に増やしても、米国(7700億ドル)に次ぐ2位の中国(2300億ドル)にはほど遠い。

猿田さんは「日本が中国と同じだけ軍事力を高めようと思った場合、どれだけ生活を切り詰めても及ばず、全く現実的じゃない」と語った。政策提言は全国会議員や中央省庁に送り、質問や政策立案の参考にしてもらう。

また、政府の軍拡路線に危機感を抱いたNGO関係者や研究者、ジャーナリストらは10月29日に「平和構想提言会議」を発足し、平和構想の取りまとめを始めた。共同座長は、青井未帆・学習院大教授(憲法)とピースボート共同代表の川崎哲さんが務める。議論を広げていこうと、11月21日には東京都文京区で、対面とオンラインを組み合わせた公開会議を開いた。

申惠丰(シンヘボン)・青山学院大教授(国際人権法)は、軍事支出とは対照的に低水準にある日本の教育支出に触れた。経済協力開発機構(OECD)によると、19年のGDPに占める教育機関への公的支出の割合は2・8%で、データのある加盟37カ国の中で下から2番目。申教授は「日本は武器ばかり買い込んで、人を育てる意味では、どんどん先細りしていく国になろうとしている。多くの有権者が本当に結果を引き受ける覚悟があるのか。『自分ごと』として考えなければいけない」と問い掛けた。

川崎さんは、核兵器禁止条約の採択に貢献したとして17年のノーベル平和賞を受賞した国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」で国際運営委員を務めてきた。日本は唯一の戦争被爆国でありながら核禁条約に参加しないままで、川崎さんは「日本政府の消極姿勢の根っこには、米国の軍事力に依存する日本の基本姿勢がある。ここを何とか転換させない限り、日本が核禁条約に加わる道も見えてこない。軍事力一辺倒ではない形の安全保障を議論することが今、本当に大切だ」と話す。

平和構想提言会議は12月中旬に平和構想をまとめ、政府が改定を進める「国家安全保障戦略」など安保関連3文書の対案にしたい考えだ。川崎さんは「政府方針とは全く異なる次元の提言を打ち出していく。市民が安全保障の議論に参加し、国全体で、さらには近隣諸国も巻き込んで議論をしていく流れを作っていきたい」と意気込んでいる。