地球温暖化は人間のせい? 科学が示した〝自然変動の幅〟超えた変化(withnews 2022/10/21)
「気候変動」と聞くと、とたんに「重く」感じてしまう……。なんだか大変そう。対策って我慢することですよね? 気候科学が専門の東京大学教授・江守正多(せいた)さんに、気候変動の「そもそも」をずばっと、聞きました。
江守正多さん
専門は地球温暖化の将来予測とリスク論。気候変動に関する政府間パネル第5次、第6次の評価報告書の主執筆者。
水野梓(withnews編集部)
学生時代から環境問題に関心があったが、「意識高い」と言われて距離を取られることにもやもや。
松川希実(withnews編集部)
「気候変動」という大きすぎる問題を〝自分事化〟できていなかったことに気づき、企画に参加。
昔は「地球温暖化」だった?
水野梓(withnews編集部):台風が大型化したり、子どもの頃よりも夏が異常に暑いと感じたり、これが「気候変動」なんでしょうか。私が中学のころは「地球温暖化」って聞いていた気がします。
江守さん:そうですね。まず、そこから話しましょうか。
1.5℃の約束 ※クリックすると特集ページに移ります。
#気候変動のそもそも:
「気候変動」と良く聞くようになったけど、自分に何が関係あるんだろう。大変そうだし、何をして良いのかも分からない。そんな〝そもそも〟を、気候変動問題に詳しい専門家に聞きます。未来への「1.5℃の約束」って、何でしょうか。
(1)地球温暖化は人間のせい? 科学が示した〝自然変動の幅〟超えた変化
(2)日本が世界一、地球温暖化の被害を受けている?
(3)「1.5℃」のヤバさに震撼 気候変動がもたらすのは〝混乱した社会〟
(4)気候変動対策「我慢じゃない」って本当? 日本がネガティブな理由
江守さん:「地球温暖化(Grobal Warming)」は、地球全体で気温が上がっていくことです。
一方、気温の上昇以外にも、雨の降り方が変わったり、氷が溶けて海面が上昇したりといったことを含めて、「気候変動(Climate Change)」と呼びます。
1988年に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が設置され、1992年には「国連気候変動枠組条約」が採択されましたので、世界では以前から〝気候変動〟という言い方をしていました。
ただ、初期のころに地球温暖化じゃなくて、気候変動と言った方がいいと言い出したのは、アメリカで「地球温暖化対策をしたくない」という種類の人たちだったというメモが残っています。
気候変動と言った方が、「また上がるかもしれないし、下がるかもしれないし」って思えるからなのでしょう。
僕としては、どちらも大体同じ意味だと思っています。「地球温暖化」は、地球の温度が上がることですが、「地球温暖化〝問題〟」といえば、人間が原因で地球の温度が上がっていろいろな問題が起こること。「気候変動問題」も同じことを指します。
日本では「地球温暖化」が先行して広まって、「気候変動」は専門的に知っている人が使ってきた感じですが、今は真面目に考える人が増えて「気候変動」が広がっているイメージですね。
地球温暖化って「人間のせい」?
水野:「地球温暖化が本当に人間のせいなのか?」と疑問視する声はありますが、「人間のせい」と言い切っていいんでしょうか。
江守さん:はい。「人間のせい」ですね。
去年の8月、僕も執筆に参加したIPCCの最新の報告書が出ました。人間の影響による温暖化は「疑う余地がない」という結論だったんです。
江守さん:1990年にIPCCの報告書が最初に出た時は、「温暖化しているけど、自然の原因でも説明できなくはないかな」ぐらいでした。
それがだんだん「人間活動が主な原因である可能性が高い」「可能性が非常に高い」「可能性が極めて高い」……と変化してきて、今回は「疑う余地がない」になったんです。
科学が進展して理解が深まってきた結果でもあるんですが、この30年間で実際の気温上昇が進んでしまった結果でもあります。
〝自然の変動の幅〟を超えた温度上昇がどんどん起こっていて、人間活動が原因じゃないと説明ができないような大きさなんです。
「二酸化炭素」はどこから?
水野:人間活動の影響でもっとも大きいのは「二酸化炭素を出している」ってことでしょうか。
江守さん:そうですね。「温室効果ガス」と言って、大気中の赤外線を宇宙に逃がしにくくする空気の成分です。水蒸気や二酸化炭素、ほかにもメタンなどがあります。
地球を暖める効果がもともと一番大きいのは水蒸気ですが、人間が直接出して増やしているわけではありません。人間が排出する温室効果ガスで、全体的な影響が一番大きいのは二酸化炭素(CO2)です。
水野:二酸化炭素……私たちが、呼吸で吐くやつですよね。なんかこういうの聞くと、息止めたくなる……。
江守さん:まあ、止められるんなら止めて頂きたい。3回吸って1回吐くぐらいに(笑)
松川希実(withnews編集部):つらい……(笑)
江守さん:というのは冗談で、呼吸は大丈夫なんです。なぜだかご存じですか?
松川:え……、吐いた分、吸っているからですか?
江守さん:惜しいですね(笑) 人間が吐く息に入っているCO2の炭素(C)って、もともとは食べ物から来ているんです。人間がご飯を食べて、体の中で化学反応して、CO2になって出てきている。
その食べ物はどこから来ているか考えると、動物か植物ですね。で、動物もたどっていくと必ず植物に行き着きます。
その植物は、育つ時に大気からCO2を吸っています。植物が取り入れたCO2の炭素を、巡り巡って人間が食べ、それが人間の吐くCO2になっている。ぐるぐる回っているだけなんです。これは自然の中で回っているCO2です。
松川:想像以上に、でかい話だった!
江守さん:人間の呼吸っていうのはもともと生態系の中で起きている「生物現象」なので、もともとカーボンニュートラル(炭素中立)なんですよ。
松川:つまり、いま、CO2が問題になっているのは、人間がその「生物現象」以上のことをしてきちゃったわけなんですね。
江守さん:そうです。それが化石燃料を掘ってきて、燃やしているっていうことなんです。
化石燃料っていうのは、何億年も昔の大気中のCO2を植物が吸収して、地中深くに埋まっていたもの。それを人間が掘り出して燃やしているわけで、最近の地球にとっては、今ある生態系の別のところから注入された〝余分な炭素〟になるわけです。
これを人間がすごい勢いで、いま、大気に注入しているんです。
教科書の数値が変わった
水野:大気中の二酸化炭素の濃度が上がっているのは、分かるんですか?
江守さん:1958年にアメリカの化学者チャールズ・デービッド・キーリングがハワイの山の上と南極で測り始めて、そのデータが残っています。
僕の子どもの頃だと、理科の教科書に「CO2の濃度は350PPM」って書いてあったんですけど、今の教科書だと「400PPM」などと書いてあります。たった数十年で教科書の数字が変わっちゃうような変化をしているわけです。
大気中のCO2はよく混ざっているので、空気のきれいなところなら世界どこでもだいたい同じような数値になります。今は世界のいろいろなところで測っていて比べることができますし、人工衛星で宇宙からも測っているので、分布が分かるんです。
水野:濃いエリアが、地球上で分かれているんですか?
江守さん:大体同じ値なんですが、北半球は季節によって変わります。陸がたくさんあるので、夏は植物がたくさん光合成してCO2を吸ってくれます。