枝野幸男・立憲民主党代表 党大会でzeroコロナ宣言(全文)

立憲民主党ゼロコロナ宣言20210131 政治・経済

立憲民主党は1月31日、ザ・プリンスパークタワー東京で2021年定期大会を開催した。

新型コロナ対策のため、代表ら党の執行役員のみが会場に集まり、他の国会議員や地方議員はリモート参加となった。インターネットでライブ配信され、党員やサポータの他、誰でも視聴をすることができた。

枝野幸男代表の発言メッセージは以下の通り。

始めに

皆さんのご理解を得て2021年の活動計画をご承認いただきました。ありがとうございました。

新型感染症とそれによる影響、そして、これによって明らかになった日本社会の弱さと脆さから、「命と暮らしを守る」。そのために機能する政府をつくるため、「政権交代の選択肢となる。」私は、この二つの目標を成し遂げるため、あらゆる知恵と力を絞り、全力を尽くして参ります。

新型感染症による危機

政府による「人災」

昨年の1度目の緊急事態宣言は、国民の皆さんに、大きな痛みを強いながら、なんとか乗り切ることができました。その陰には、倒産や廃業の不安を抱えながら休業にご協力をいただいた皆さん、仕事を失い途方に暮れた皆さん、突然の休校で混乱を押し付けられた保護者や学童クラブ。挙げればキリがないほど多くの皆さんの、たいへんなご苦労があったことを、肝に銘じる必要があります。

同じようなご苦労を、再びお願いすることがあってはならない。それが、多くの方々の共通認識であったはずです。

しかし、緊急事態宣言が解除された後、政府は、国民の多くが時期尚早ではないかと危惧する中、GoToキャンペーンなどを推し進めました。一方で、冬場になれば感染が拡大するのではないかと、何度も指摘されていたにもかかわらず、保健所など検査の拡充や医療機関への支援は遅々として進みませんでした。

そして、今回の緊急事態宣言自体も、専門家や私たち野党の指摘から、大きく遅れての発令となりました。

現在の感染爆発、そして医療崩壊を招いたのは政府の失策であり、現在の危機的状況は、「人災」そのものです。

最も深刻なのは、もはや、政府と国民の間の信頼関係が、壊れてしまっていることです。

最高責任者である総理は、この間、自らの失策を認めようとせず、国民に対する「要請」を繰り返すばかりで、国民の疑問や不安にまともに応えようとはしません。度重なる緊急事態宣言によって、仕事や事業の継続が困難となり、生活の見通しの立たなくなった方々への支援や補償も後手に回り、しかも、まったく不十分です。

何より、政府の感染症対策は、収束に向けた中長期的な見通しと、その対策の科学的な根拠について、国民の納得する説明を欠いています。

日本の新型感染症対策における最大の障害は、政府の姿勢であると言わざるを得ません。国民生活の現場が見えていない。科学的な知見を軽視する。国民に丁寧に説明し、呼びかける言葉を持っていない。

感染拡大を防ぐには、政府と国民が結束し、一致団結することが不可欠です。一刻も早く、信頼される政治を取り戻さなければなりません。日本が新型感染症を克服するためにまず必要なのは、信頼される政治へ、現在の政治を変えること、政治の転換に他なりません。

国民の不安

COVID-19による雇用や経済への悪影響が本格化する中、自殺率の上昇など、非常に痛ましい現実が明らかになっています。亡くなられた方の数や重症者の数、失業や倒産といった指標の、その数字の一つひとつに、人生があり、顔と名前があります。

政治がしっかりと対策を進めていれば、救えた命や、避けることのできた苦境があったはずです。

先日、自宅待機中に女性が自死された、そんなニュースが報道されました。家庭内で濃厚接触者となり、「自分が周囲に感染させてしまったのではないか」、そうした自責の念に悩んでいたと報じられています。検査体制も、医療体制も追いつかない中、どんな想いを抱えていたのかを想像すると、本当に胸が痛み、一人の政治家として忸怩たる想いが込み上げます。 「一体いつまでこの状況が続くのか」。国民の誰もがそんな不安を抱いています。

ヒアリングの声

私たち立憲民主党は、去年はじめの感染拡大以降、さまざまな場所で、専門家の皆さん、支援者の皆さん、そして誰よりも当事者の皆さんに、直接お話を聞く場を重ねてきました。

今年に入っての2回目の緊急事態宣言にあたっても、特に厳しい状況にある飲食店の皆さんにもヒアリングを行いました。昨年から続く、度重なる休業や時短営業の要請、そして、先の見えない状況の下で、皆さん本当に苦しんでいます。 「『政府としてこういう見通しがあるから、今は踏ん張ってください』。なぜそう言えないんですか」。ある事業者の方はそう仰っていました。

二人のお子さんを育てながら大手の飲食チェーンでアルバイトとして働いてきた女性は、企業規模の制約で休業手当をもらえず、生活の見通しが立たなくなってしまったそうです。普段の営業のほとんどを、非正規・パートの働きに依存しているにもかかわらず、補償されたのは、正規雇用の従業員だけだったといいます。

会社にその待遇の差について尋ねると、「要求すればお金がもらえるというのは、甘えではないか」。そう言われたそうです。「政治は、私たちを見捨てるんでしょうか?」そう涙をこらえながら訴えておられました。

同じく、勤め先の規模ゆえに休業手当の出ない状況にある、比較的ご高齢の非正規雇用の方。「私には支え合う家族がいて、少ないながら年金があり、まだ余裕がある。けれど、政治に声を届ける余裕さえない、若い人たちがたくさんいるんです」。同じ職場の若い方々は、生活を支えていた収入が突然断たれたことで、日々の収入を求めて駆け回っているそうです。

zeroコロナへ ― 立憲民主党の責任

政治の責任

新型感染症によって、これまでの政治のゆがみが、あらゆるところで噴き出しているのです。それは、政府による感染症対応の失策という意味を超えて、これまで日本の政治が進めてきた、競争ばかりを重視し、自己責任論を強調してきた社会の限界によるものです。

感染症危機の最中に誕生した菅政権は、この期に及んでも「自助」を強調しました。しかし、今苦しい立場に追いやられている方々は、本当に自助努力が足りないのでしょうか?

度重なる休業要請や時短要請に協力し、遅きに失した政府の対応によって、廃業や倒産、解雇の危機に瀕している飲食業界の方々は、自己責任でしょうか?

子どもを育てるためにパートで家計を支えていた女性が、休業支援金を受け取れず、生活の見通しが立たなくなるのは、自己責任でしょうか?

政治がこの三十年近く進めてきた規制緩和によって、やむなく非正規雇用となり、今回のコロナによって差別的と言ってもいい待遇を受けている方々は、自己責任でしょうか?

断じて違います。政治にこそ責任がある。

現在起きている様々な問題は、ひたすら目先の効率性だけを追求し、国民の命や生活を守ることを軽視してきた、これまでの政治そのものの帰結です。だとすれば、まずは政治そのものが、変わらなければならず、そして、変えることができるのは、私たち立憲民主党しかありません。

zeroコロナへのステップ

まずは、感染症対策の徹底こそが、最優先であり、かつ、経済対策の第一歩です。

検査体制の拡充と医療現場への支援を最優先で進め、「zeroコロナ」を目指すことで、旅行でも会食でも、国民が安心して経済活動を再開できる環境を早期に取り戻します。 経済活動を活発化させれば、感染も拡大する。残念ながらGoToキャンペーンによって、この厳しい現実を目の当たりにしました。

感染を再拡大させることのないレベルまで抑え込む。その新たな感染症対策の根本方針が、「zeroコロナ」というビジョンです。

そこに向けて、第一に、まずは、医療機関や医療従事者等に対する支援、そして病床の確保を最優先とし、命を守る砦である医療の崩壊・壊滅を食い止めます。

第二に、無症状の方を含めた感染者の早期把握と確実な隔離を進めることで、感染拡大の防止を徹底します。

第三に、感染を封じ込めるまでの間、政治が責任を持って倒産や廃業を防ぐ補償を準備し、誰一人取り残すことがない生活支援を実現します。

この3つを徹底し、再拡大の兆候があれば直ちに封じ込める体制を整えることで、はじめて安心して経済を回していくことが出来ます。

まずは、今、開かれている国会で、「zeroコロナ」に向けた最初のステップとして、この三つの課題の解決を進めてまいります。

立憲民主党の役割

この間、私たちは、政府与党に対して、予算案の組み替えや議員立法による法案提出を含む多くの具体的な提案を行ってきました。

私自身、昨年3月初旬の党首会談において、当時の安倍総理に対し、PCR検査の拡充、休業によって生活の見通しが立たなくなる皆さんへの支援、感染症関連情報の集約と広報窓口の一元化など、直接に、そして具体的に提案を行いました。「協力を惜しまない。今後も提言すべき政策あるいは情報などについては積極的に申し上げる。ぜひとも責任を持ってやっていただきたい。」とも申し上げました。

しかし安倍総理も、その後継である菅総理も、そうした提案を積極的に受け止め、実行したとは言い難い状況です。

政権与党に、感染症を収束させる意思も能力もないことは明らかです。

立憲民主党こそが、この一年近くの政府の失策を検証し、可能な限りの科学的な根拠と明確なスケジュールを示して、新型感染症収束へのプランを、国民に呼びかけることができます。国民の置かれている苦境をしっかりと受け止め、必要な場所に最優先で支援を届け、ともにこの危機を克服するために行動しなければなりません。

昨年の検察庁法改悪問題や、大学入試共通テスト問題に続いて、新型インフルエンザ特措法と感染症法などの改正問題では、刑事罰をやめさせ、財政措置をより具体化させる付帯決議を認めさせるなど、大きな成果をあげることができました。

昨年9月15日、多くの皆さんが様々な経緯や困難を乗り越え、150人規模の最大野党として結集しました。その結束した力が、多くの国民有権者の現場の声とつながるならば、国会での現有議席数を超えた大きな成果を導くことができることを、改めて確信することができました。

私たちは、「zeroコロナ」という明確なビジョンを通じて、国民とともに、結束して感染症に立ち向います。それが、この危機において、本来あるべき政治の姿であり、立憲民主党の果たすべき役割です。

私は、皆さんとともに、その先頭に立って、この役割を果たしていく決意です。

政権の選択肢に

世界史の転換点

COVID-19によって、世界全体が、歴史の転換点にいます。

過去の感染症との戦いにおいて、人類は、科学的知見に基づき、繰り返し失敗の検証を重ねることで、一歩ずつ前に進んできました。

感染症は、しばしば、社会に混乱と分断をもたらします。そこで、目先の政治的利害に囚われ、分断を加速させるような政治は、歴史の中で必ず敗北してきました。

私が国会で代表質問を行なったその日、アメリカではジョー・バイデン大統領による新たな政権が誕生しました。今回のCOVID-19の世界的な流行を受けて、世界の政治と社会が大きく転換しつつあります。

立憲民主党の歴史的使命

今回の感染症危機で痛感したのは、この危機が、これまでの日本政治の根本を問い直そうとしている、ということです。

昨年の後半以降、これまではなんとか自活できていた方々が、次々と困窮状態に陥っています。

昨年、迷いに迷った末に支援現場に相談に来た、ある若い女性は、「もう首をつるしかないと思ったんですけど、私も人間なんですかね。生きたいと思ってしまったんです。」そう支援者の方に漏らしたそうです。

「生きたいと思ってしまった。」現在の日本は、困窮に陥った若者に、こんな言葉を口にさせてしまう社会になっています。行政側の、いわゆる水際作戦によって、生活保護の申請をしても認められない。もしくはそうした状況を知っていることで、そもそも相談そのものを躊躇してしまう。同時に、相談を受ける行政で働く側も、人員と予算の削減の中、個々人の努力と使命感ではとても対応できない状況に陥っています。

こうした社会を作り出したのは、紛れもなく、自助を強調してきた、これまでの政治です。これを主導してきた自公政権では、この歴史的変化に対応できないことが、すでに明白になっています。

私は、この危機にあって、支え合いの政治を掲げ、命と暮らしを守る政治への転換を図る、その歴史的な使命を引き受ける覚悟です。

われわれの結束こそが問われている

8年近くにわたって離合集散していた非自民勢力は、感染症危機によって苦境に立たされている国民の声を真正面から受け止めるために、昨年9月、新しい立憲民主党という形で結束を果たしました。世代という意味でも、得意とする政策分野という意味でも、幅広く多様な仲間が集まったことは、立憲民主党にとって大きな財産です。

しかし、多くの有権者の皆さんから、政権の選択肢として認めていただくことは、簡単なことではありません。奇をてらってみても、人気取りの大衆迎合に走っても、多くの皆さんからは、それを見透かされ、かえって信頼を失うだけです。

今、私たちがなすべきことは、まずは「zeroコロナ」のビジョンを実現し、目の前の「国民の命と暮らしを守る」ために、地道に全力を尽くすこと。そして、そのためにも、多様な力がまとまり、強く結束させる覚悟が必要です。

国民の苦境を打開し、COVID-19を克服するという、当面の最大の目標を達成するために、一人一人がこの状況の中で何をすべきか、何ができるかを、常に自分に問いかけ、行動しなければなりません。

それぞれの地域で、現場で、暮らしの声を聞き、当事者と繋がり、知恵を集めて、ともにこの危機に立ち向かい、政治の転換を実現しましょう。国会議員も、自治体議員も、総支部長も、党員も、サポーターズも、パートナーズも、それぞれが自分にしかできない仕事をやり抜く決意を固めましょう。そうした行動と覚悟を結集してこそ、立憲民主党は、国民の信頼に足る政党として、前に進み、「政権の選択肢」と認められます。

新しい政権をつくる

私たちの目ざす新しい社会の姿は、すでに共有できています。神津会長にも心温まるスピーチをいただきました。お話しにもありましたとおり、連合の皆さんとは、昨年9月17日に、「共有する『理念』―命とくらしを守る「新しい標準(ニューノーマル)」を創る―」 を確認しました。働く仲間の皆さんとも、私たちの理念、目指す社会像は一致しています。

感染症危機で明らかになった、競争と自己責任ばかりを強調する時代遅れの政治を転換します。医療や介護、子育てや教育といったベーシックサービスを充実させます。希望すれば正社員になれる、安定して働ける雇用を取り戻します。将来不安を小さくすることで国内需要を喚起して、経済の安定的な成長を実現します。分散型の自然エネルギー立国を推進し、地域経済を活性化するとともに、世界に貢献します。

そして、これらを実現できる機能する政府を、特に、危機のときにこそ、暮らしを支える機能を果す政府を、つくり上げていきます。

「誰一人取り残されることのない社会」を、多様性に根ざした持続可能で包摂的な社会を、必ずや実現しようではありませんか。

こうした歴史的な使命を果たすために、私は、今年中に必ず行われる総選挙において、政権の選択肢となり、多くの国民の皆さんとともに、自公政権を倒して、立憲民主党を中心とする新しい政権をつくる決意です。

まずは、私たちの理念と目指す社会像をもとに、今、なすべき政策を具体化した政権構想を作り上げます。それに賛同いただける多くの皆さんと連携しつつ、総選挙に向けて、私自身が先頭に立って幅広い有権者の皆さんに訴えていまいります。

総勢152人の国会議員、全国に1,130人の地方自治体議員、総支部長。そして党員、サポーターズ、パートナーズの皆さん。私たち立憲民主党が野党第一党として今この瞬間存在していることの、歴史的な使命を、ぜひ、ともに引き受け、新しい政権を作り上げてまいりましょう。

終わりに

「何としても国民の命と暮らしを守る。命と暮らしを守ることのできる政権をつくる。」 

この危機的な状況において、そして歴史的な転換点において、私たちの行動方針は、これに尽きます。

自己責任から支え合いへ。「zeroコロナ」の日本へ。あなたのための政治へ。「政権の選択肢へ」。新しい政権をつくり、国民とともに、この危機を克服する。

その決意を、皆さんと共有して前に進むことを固い決意としてお約束し、党大会にあたってのメッセージといたします。どうか皆さん、共に戦ってまいりましょう。

【参考】

第204通常国会、代表質問 立憲民主党・枝野幸男代表(全文)
「GoToトラベル」も「ウイズ・コロナ」も失敗。学者が指摘
ノーベル賞学者4人が政府のコロナ対策に苦言「なぜ厚労省がやらないのか、理解に苦しむ」