10月19日 衆院選公示 マスコミ各紙の社説 「1強の政治が政権のおごりを招いた」

衆議院選挙始まる2021年10月19日 政治・経済

朝日新聞 「1強」が生んだ弊害正す時

(社説)衆院選きょう公示 「1強」が生んだ弊害正す時(朝日新聞 2021年10月19日 5時00分)

自公政権の継続か、立憲民主党を中心とした野党勢力への交代か。4年ぶりの衆院選がきょう公示される。

自民党は「選挙の顔」を不人気の菅前首相から岸田首相に代えて臨むが、政権発足からまだ2週間で、その力量は未知数のままだ。一方の野党は、多くの選挙区で候補者を一本化したが、批判票の受け皿を超えて、政権を託せると認めてもらえるか、課題は多い。

安倍・菅両政権の9年近く、「1強」といわれた巨大与党体制がもたらした弊害をただし、将来の展望を示せるのはどこか。12日間の選挙戦を経て、有権者の審判が下される。

試される野党の共闘

きのうは日本記者クラブで、公示前最後となる党首討論会が開かれた。当面のコロナ対策や「成長と分配」のあり方、外交・安全保障政策など、テーマは多岐にわたったが、焦点のひとつが、野党がめざす政権交代が実現した場合の姿である。

立憲の枝野幸男代表は、首相指名選挙では各党に自らへの投票を呼びかけるが、「政権そのものは単独政権」と言明した。共産、れいわ新選組、社民とは、市民連合の仲介で結んだ共通政策の範囲内に限って、国民民主とはそれぞれが労組の連合と結んだ政策協定に沿って、閣外からの協力を求めるとした。

日米安保条約の「廃棄」や自衛隊の将来的な「解消」を綱領に掲げる共産との協力への疑問には、党の見解を政権には持ち込まないとの約束があり、緊急時の自衛隊の活動は、枝野内閣の行政権の発動として、責任をもって対応すると強調した。

それなりに整理はされているが、政策の具体化にあたり、各党間の調整は円滑に進むのか、安定的な政権運営が本当に実現できるのか。有権者の不安を拭えるかは、この選挙戦で、どこまで説得力のある説明ができるかにかかっている。

与党側にも、違いを埋める努力を求めたい政策がある。例えば、核兵器禁止条約の締約国会議に対し、公明党はオブザーバー参加を主張するが、首相は消極的だ。選択的夫婦別姓の導入やLGBT理解増進法案についても、公明党の山口那津男代表が賛意を示したのに対し、首相は慎重姿勢を崩さなかった。

国会の機能立て直せ

自公が政権復帰を決めた12年以降の3度の衆院選で、安倍元首相が率いた自民は、いずれも6割を超える議席を獲得する大勝を重ねた。

この「自民1強」が何をもたらしたか。確かに、頻繁に首相が交代する不安定な政治からは脱却したが、一方で軽んじられたのが国会である。

集団的自衛権の行使に一部道を開いた安保法制など、意見の割れる法整備を「数の力」で押し通す。憲法の規定に基づいて野党が求めた臨時国会の召集要求をたなざらしにしたり、首相が野党の質問にまともに答えなかったり、説明責任をないがしろにする姿勢は、安倍・菅政権に共通するものだった。

桜を見る会の前夜祭をめぐっては、安倍元首相が118回にわたって虚偽答弁を重ねていた。国会の行政監視機能を骨抜きにする由々しき事態であるのに、安倍氏はいまだ疑念を解消する説明をしていない。

長きにわたる「1強」態勢は、政権のおごり、緩みも生んだ。安倍政権の後半以降、森友・加計・桜を見る会など、政治や行政への信頼を失墜させる疑惑が相次いだ。この間、自民党内から政権の行き過ぎに歯止めをかけたり、自浄作用を発揮したりする動きはなかった。与野党を問わず、新しく選ばれる議員には、国会の役割を立て直す重い責任がある。

低投票率でいいのか

自公政権が過去3回、衆院選で大勝した背景として、1選挙区で1人しか当選できない小選挙区制の特性が指摘される。

例えば、4年前の衆院選の小選挙区で、自民は議席数の75%を占めたが、得票率では48%と過半数に及ばなかった。ほぼすべての選挙区で候補者が一本化されていた自公側に対し、野党側が乱立し、政権批判票が割れた影響は小さくない。

与党大勝をもたらした、もう一つの要因は低投票率だろう。

自民党が政権復帰した12年の投票率は59.32%。民主党政権が誕生した09年より約10ポイント落ち込んだ。その後の14年は52.66%、17年は53.68%と過去最低水準が続く。投票に行かなかった人を含む有権者全体に対する「絶対得票率」をみると、前回小選挙区の自民は25%と、4人に1人が投票したに過ぎない。

もちろん、棄権した人の中に、消極的なものも含め、与党を支持する人が一定程度いることは否定できない。しかし、一般的には、低投票率は組織力があり、地方議員の数も多い自公に有利とされる。

2年弱のコロナ禍で、政治の役割が自らの命や暮らしに直結するとの認識を新たにした有権者の行動が変化すれば、選挙結果を左右するかもしれない。

東京新聞 政権継続の是非を問う

<社説>衆院選きょう公示 政権継続の是非を問う(東京新聞 2021年10月19日 07時33分)

衆院選がきょう公示される。就任直後の岸田文雄首相(自民党総裁)率いる「自公」政権を継続させるのか、立憲民主党など現在の野党勢力に政権を託すのか。政権継続の是非を問う選挙となる。

2017年の前回以来、4年ぶりとなった衆院選は通常、政権選択と位置付けられ、政権与党にとっては実績が問われる選挙だ。

しかし、議員任期満了直前の解散に踏み切った岸田氏自身は首相としての実績はなく、問われるべきは、狭義では前回衆院選以降の4年間、広義では12年の政権復帰後、9年近く続いた安倍晋三、菅義偉両首相による政治である。

安倍・菅政治とはこれまでも再三指摘してきた通り、主権者である国民や、国民の代表で構成する国会を軽視した政治だった。

疑問や異論には耳を傾けようとせず、丁寧な説明を拒む。政権に異を唱えるものは排除され、政権に近しい者は優遇された。

政権中枢への過度の権力集中は官僚の忖度を生み、森友・加計両学園の問題や、財務官僚による公文書偽造まで引き起こした。

「桜を見る会」や、現職閣僚が大臣室で現金を受け取る「政治とカネ」の問題、特定選挙区候補への巨額の資金提供、日本学術会議会員候補の任命拒否なども、真相が解明され、国民に説明が尽くされたとは言い難い。

菅前内閣の終焉とともに迎えた今回の衆院選は、こうした安倍・菅政治を断ち切れるのか否かが、問われる選挙にほかならない。

岸田氏は当初訴えた「民主主義の危機」を首相就任後は口にしなくなった。安倍・菅政治を転換しようとしているのか疑わしい。

自民党内での「疑似政権交代」では政治の転換が難しければ、やはり政権交代が必要だろう。

衆院選では政権選択に加え、分配政策、選択的夫婦別姓、新型コロナウイルス対策など争点は多岐にわたる。投票先を決めている人はもちろん、決めかねている人も各候補、政党の主張や政策を比較して貴重な票を投じてほしい。

政権交代に至らなくても、与野党勢力が伯仲すれば、政治に緊張感が生まれ、独善的な政権運営は減るだろうが、選挙に行かなければ何も変えられないことは、あらためて確認しておく必要がある。

北海道新聞 コロナ危機脱する針路を

(社説)衆院選きょう公示 コロナ危機脱する針路を(北海道新聞 10/19 05:00)

衆院選がきょう公示される。

新型コロナウイルス対応で迷走した安倍晋三、菅義偉両政権が退陣し、コロナ禍で迎える初の大型国政選挙である。

ウイルスが確認されてから2年近くがたつ。国内の新規感染は小康状態にあるとはいえ、感染第6波への懸念は消えず、国民は経済の冷え込みによる生活不安にさらされている。

新自由主義的な政策が長く続き、競争からこぼれた人々にコロナ禍が深刻な影響をもたらした。効率重視の政策は医療提供体制の先細りを招いた。日本社会の脆弱性があらわになったと言える。

今回の選挙は、こうした危機をいかに乗り越え、将来の展望を開くかが問われる。

各党はそのための理念と政策を明確に提示し、進むべき国の針路を描き出してもらいたい。

私たち有権者も各党、各候補の主張に耳を澄まし、確かな目で新しい日本の未来を選び取らなければならない。

知恵の結集が必要だ

きのうの党首討論会で、岸田文雄首相は「まず目の前のコロナ対応としては病床確保などをしっかりと形にしたい」と訴えた。

政府は今後の感染拡大に備えた対策の骨格に、入院患者の受け入れ能力を2割増強する方針を盛り込んだ。それを踏まえてアピールしたのだろう。

だが、病床拡充は安倍、菅政権でも医療人材の確保や一般医療との両立がネックとなり、思うように進まなかった。障壁を取り除く道筋は示されていない。

首相は所信表明演説で、これまでの対策の問題点を検証すると約束した。選挙期間中だからこそ何が課題だったか、それをどう改善するかを丁寧に説明すべきだ。

立憲民主党の枝野幸男代表は「自公政権の失政」と断じるが、医療人材の確保に向けた方策は慰労金支給など政府の対策の延長線上にとどまる。

自民と立憲はともに感染症対策の司令塔設置をうたう。

緊急事態宣言発令やワクチン接種などを巡っては、地方との足並みの乱れが目立った。だからといって司令塔に権限を集中して地方に命令すれば、うまくいくと考えるのは早計ではないか。

公的、民間それぞれの医療機関が連携し、役割分担を進めるには、地域の事情を知る自治体の調整力を生かす必要がある。

コロナ対策は幅広い知恵を結集することが大事だ。各党は互いに政策を磨き上げる観点で議論を深めてほしい。

安全網の拡充が急務

今回の選挙は「富の分配」がキーワードになっている。

野党側は高所得層への増税などの分配政策を打ち出した。首相も「新しい資本主義」を掲げて分配を図る考えを示した。

コロナ禍で疲弊する国民生活を立て直すには、アベノミクスで広がったとされる格差の是正が欠かせない。

ただ、首相は成長優先のアベノミクスの骨格を維持し、その果実を分配に回すと主張する。「成長と分配の好循環」は安倍氏も唱えた。これまでと何が違うのか。

選挙戦を通じて、どう分配するかを具体的に示さなければ、野党のお株を奪い、争点をつぶす狙いだとみられても仕方あるまい。

賃上げによる低所得層の生活改善と同時に、コロナ禍の長期化で生活に困窮する人たちを救う安全網の拡充も急がれる。

特に立場の弱い非正規労働者が増え、雇用の調整弁として雇い止めされるケースも目立つ。

各党は一時的な給付金を打ち出すが、職業訓練を拡充するなどして正規雇用を増やすための構造転換も求められよう。

政治への信頼戻るか

コロナ対策を巡る休業や行動自粛の要請は、政府への信頼がなければ実効性は高まらない。

安倍、菅政権は政治とカネの問題や強権的な政治手法への批判が高まり、国民の信頼を失った。それが対策が行き詰まる一因になったのは間違いなかろう。

首相は桜を見る会や森友学園の問題、参院選広島選挙区を巡る買収事件に絡んで党が支出した1億5千万円の疑惑について再調査を否定する。

これでは信頼を取り戻せまい。自民党に自浄能力があるのか、有権者は冷静に見つめている。

一方、野党第1党の立憲も政党支持率が低迷を続けている。

先月までは低支持率の菅政権への追及を強めていたが、菅氏が去った後も政権批判一辺倒では有権者の支持を得るのは難しい。

掲げた政策の実現性を含め、政権を担えると認められる力量を示さなければならない。混迷の時代だからこそ、国民は実行力を求めている。