脱炭素、救世主はアンモニア発電 燃焼時のCO2排出ゼロ、輸送や貯蔵容易 IHIが実用化に挑戦

相生事業所内の小型燃焼試験設備(出所:IHI) 科学・技術

脱炭素、救世主はアンモニア発電 燃焼時のCO2排出ゼロ、輸送や貯蔵容易 IHIが実用化に挑戦(神戸新聞 2022/9/15 14:00)

脱炭素社会に向けた発電燃料として、アンモニアが注目されている。燃やしても二酸化炭素(CO2)を排出しないのが、その理由。近年、猛暑などに伴う綱渡りの電力供給を火力発電が支えるが、主力の石炭火力は温室効果ガスを発生させるジレンマもある。再生可能エネルギーの拡大、クリーンな水素エネルギーの開発も盛んだが、一足飛びに実現できないのが現状だ。そこで「現実的な選択肢」として、造船の町・相生の象徴だったIHIがアンモニア発電の開発に挑んでいるという。脱炭素の救世主となるか-。

波の穏やかな相生湾に沿って、IHI相生工場(兵庫県相生市相生)の施設群が細長く連なる。構内に入って車で5、6分ほど走った先に巨大な実験施設が現れた。アンモニアの燃焼試験設備がある「開発実証パーク」だ。

研究を統括する福井康光さん(52)に案内され、パーク内の階段を上がると、銀光りする大型ボイラーが目に入った。ボイラーに取り付けたバーナーを改造し、石炭とアンモニアを一緒に「混焼」できるという。福井さんは「これだけ大規模な混焼試験設備は世界でも有数」と胸を張る。

IHIは2020年度から3年間の投資計画で、成長事業に水素・アンモニア関連の技術開発を挙げた。アンモニアは肥料などの原料として利用されるが、燃料にもなり、燃やしてもCO2が出ない。

国内の発電燃料の約3割を占める石炭と混焼できれば、その分、CO2の排出を抑制できる。電力会社にとっても、既存の石炭火力ボイラーを改修するだけでアンモニアを使った発電に導入できる。相生工場では17年から本格的な実証実験に着手。翌年には石炭80%、アンモニア20%の比率で混焼することに成功した。

一方、アンモニアの燃焼に伴う有害物質の発生問題についても成果を上げた。今年5月、バーナーの配管の形状を工夫するなどして、アンモニアのみを専焼させた。結果は、石炭専焼の場合と同程度に、窒素酸化物の排出濃度を抑えることができた。

「造船所時代から脈々と培ってきた溶接技術が可能にした」。そう成功の背景を語るのは相生工場の上道良太工場長(51)。新造船事業から撤退した1980年代以降も、高度な溶接技術が必要なボイラーづくりに力を注いだ。先人から蓄積したノウハウで脱炭素時代を切り開こうとしている。

資源エネルギー庁は、燃料アンモニア利用によるCO2削減の効果について「石炭火力での20%混焼によっても、電力部門の1割の削減が可能」とする。東京電力ホールディングスと中部電力が共同出資するJERAは23年度から、愛知県の火力発電所でIHIのバーナーを使った本格的な実証実験を始めるという。

相生工場では、アンモニア60%の混焼や100%専焼による「完全なアンモニア発電」の実証も進める。上道工場長は「研究で世界をリードし、脱炭素社会の実現に貢献したい」と話している。

■国内需要、30年後に30倍 資源エネルギー庁が試算

資源エネルギー庁によると、アンモニアの国内需要(2019年)は年間約100万トンという。大半が農産物の肥料などに使われているが、石炭火力との混焼など、燃料として火力発電向けの利用が伸び、30年に300万トン、50年には約3千万トンの需要を想定している。

今後、供給網の構築など需要の拡大への対応が欠かせない中、IHIは、アンモニア燃焼技術の確立に加え、製造や貯蔵技術への投資にも力を入れている。

製造は、オーストラリアやサウジアラビアの企業と実証試験に取り組んでいる。再生可能エネルギーで作った水素を原料とする「グリーンアンモニア」や、製造時に発生するCO2を分離回収して排出量を抑える「ブルーアンモニア」の安定生産を目指す。

アンモニアは液化しにくい水素よりも輸送や貯蔵が容易とされる。IHIは、世界最大級の貯蔵タンク(容量10万トン)を23年3月までに開発する予定。すでにアンモニアを気化せず、液体のまま燃やせる小型ガスタービンの開発にも成功しており、27年の実用化を目指している。