「2023年には180円と市場は予想」「悪い円安ではない」“ミスター円”榊原英資・元財務官が見る現在の円安 ポイントは“日米の金融政策の差”(TBSテレビ 2022年9月10日(土) 06:00)
記録的な円安が止まりません。9月7日には1ドル=144円台を記録。1998年8月以来24年ぶりの円安水準を再び更新しました。
約24年前、大蔵省(現在の財務省)の財務官として「為替介入」を指揮し、“ミスター円”と呼ばれた榊原英資・インド経済研究所理事長は「市場の予測では今年末までには160円ぐらい、来年末には180円くらいまでいくんじゃないかと言われている」と話します。
今後、円安はどこまで進むのか?日本政府は為替介入できるのか?“ミスター円”に聞きました。
2023年には180円台の予想も!?“ミスター円”がみる現在の円安
ーー今の為替の変動についてどうみている?
要するに日米の金融政策の差です。アメリカが金融引き締めに入っている。また9月にさらに金利を引き上げると言ってるのに対して、日本は金融緩和政策を続けているわけですね。当然そういう状況はドル高円安になるという事ですから、日米の金融政策の差によって円安になってるというのが今の状況ですね。
ーー円安の進行・為替の変動は緩やかでしょうか? 急激でしょうか?
その定義の問題ではありますが、結構予測よりも早いっていう感じがあります。おそらく2022年の末ぐらいまでには、160円ぐらいまでいくだろうというのが一般的な見方ですね。さらに同じような状況が続けば、2023年の末には180円ぐらいまでいくんじゃないかと言われてますね。確実にそうなるかどうかはともかく、円安がかなり進行するというような状況であることは間違いないですね。
ーー今の円安は日本の経済に対してどういう影響が?
円安はあんまりプラスじゃないですよね。かつては「円安は輸出を促進する」という意味で、プラス面もあるって言われてましたけど、ただ今はもう国際化が進んで日本の企業がみんな外国に出てますからね。
そうすると外に出てる日本の企業にとってはむしろ円高の方がプラスです。ですから円安がプラスだっていう時代は、もうかつてのことだと言えるんでしょう。むしろ円が強い方が日本の企業、日本経済にとってはプラスだっていうことだと思いますよ。
介入の可能性は「ない」 金融引き締めの可能性は・・・?
ーー日米合同介入、日本政府が単独介入の可能性は?
介入の可能性はないですね。介入っていうのは円ドルで介入するときには、アメリカと日本が合意しなきゃいけないんですけども、アメリカが今介入に合意する可能性はほとんどありません。ですから介入はほとんどあり得ないと思いますね。
ーー日本政府が単独でも?
介入、単独じゃできないんです。相手が了解しなければ、円ドルで介入するわけですから向こうにも影響があるわけです。ですから両者が合意しないと介入できないです。
ーー「介入できない」理由としてはアメリカ側の思惑があるから?
アメリカは今の状況を必ずしも悪いと思ってないですからね。むしろドル高でインフレになっているような状況で、ドル高になるっていうのは決して悪いことじゃない。そういう意味でアメリカは介入には合意しませんからね。
ーー官房長官の「このまま円安が続くようなら、政府としても考えなければ」という発言後にも円安が加速したことについては?
円安がどんどん進むっていうのは、日本経済にとってプラスじゃないですからね。それに対してどういう対応策をとるかということですよね。介入は非常にやりにくいですけども、例えばこのままインフレがある程度高めになって、それから日本経済の成長率も2%、3%というようなことで、日本経済が過熱するような状況になってくれば、金融引き締めってことがありうるわけですね。
いま金融緩和を続けてるわけですけども、2023年の末か2024年に入って、むしろ金融引き締めというような事態になる可能性はあるんじゃないかと思いますよね。
ーー差を埋めるためにもっと早く金融政策をしていくべき?
ただ黒田日銀総裁は、金融緩和政策を続けると言っている。その理由は日本経済が景気回復の途上にあるので、それを後押しするためには、緩和政策を続けるんだと。かなり明確に彼は言っているので、しばらくは金融緩和政策は続くと思う。
黒田さんの任期は2023年3月ですね。少なくともそれまでは確実に金融緩和政策を続けるということになると思う。
今の円安は“理由のある円安” ポイントは「金融政策の差」
ーー”悪い円安では”という声については?
悪い円安ではないと思う。理由のある円安ですから。アメリカと日本の金融政策の差によって円安になっているので。日本売りということで、円安になっている訳ではないので。日本売りで、日本経済がおかしいということで、いろいろな投資家が日本円を売ってくることで円安になるということであれば、悪い円安ですけど。いまの円安は、日米の金融政策の差によって起こっているので。理由のある円安ですから、決して悪い円安だとは言えない。
ーーでは”悪い円安”とは?
悪い円安とは「日本売り」ということです。日本経済が悪くなって、日本の円を売るということが起こったとき、これは日本売りなので悪い円安。いまはそういう状況ではない。
ーーこの状況が続いていけば1ドル160円、180円の可能性がある?
いまのマーケットの予測では、2022年の末までには160円になるといっている。その状況がさらに続けば、2023年の末には180円ぐらいになるというのがマーケットの予測。日米の金融政策の差がこのまま継続することが予想されている。そうなると、円安がさらに進むという予測が実現する可能性はかなり高い。
ーー160円、180円になったとしても介入の可能性はない?
おそらくアメリカは合意しないです、介入はできないですね。ですから日本がとれる政策としては、金融政策の変更というのはありえますが、為替介入というのはない。
ーー日本ができるのは「金利を上げる」という手段だけ?
唯一というか、それが基本的な手段ですね。日本経済が過熱してきて、インフレが加速するような状況になったときには、金融引き締めをやると。金融を引き締めれば円高になりますから、それで今の円安が逆転して円高になることは十分に考えられる
ーー「金融引き締め」はするべき?
黒田総裁はしばらく金融緩和を続けると言っているので、それは正しいと思う。いますぐ、引き締めるような状況ではないと思う。ただ今後、経済が過熱してインフレ率がある程度高くなって、成長率もいままで平均1%だったのが2%、3%になって経済の過熱が具体的になったとき、金融引き締めがあり得ると思う。
2023年の末とか、2024年のはじめにはそういうことが起こる可能性は決して低くない。