三牧聖子・同志社大大学院教授(米国政治外交)
今回の戦闘は歴代の米国の軍事行動に比べても国民の支持を得られておらず、ガソリン価格も高騰している。トランプ大統領としては早急な戦闘終結を望む世論の意向をくみ、7月4日の独立記念日前での合意にこぎ着けた形だ。
共和党議員の間では最近、トランプ氏への造反の動きも出てきている。結束が乱れた状態では、11月の中間選挙での勝利が危うくなるとの考えもあるのだろう。
トランプ氏はホルムズ海峡の即時開放をうたっているが、「オバマ(元大統領)超え」をアピールする狙いから、対イラン制裁や凍結資産の解除には前向きではないとみられる。一方、イランが無条件のホルムズ海峡開放に応じるとも考えられず、双方に食い違いがあるのだろう。この部分をいったん棚上げにして合意し、19日の署名とその後の交渉で詰めていくと思われるが今後どれだけ協議が継続され、具体化されるのかは不透明だ。
米国では、今回の戦闘でイランが自国の戦略的価値を高めたとの見方がある。イランは、今後米国やイスラエルが不本意な対応を取ってきたら海峡を封鎖すればいいと知ってしまった。さらに、核を保有する米国やイスラエルが直接的な軍事行動を取ってきたことで、むしろ核兵器開発の意志を固めた可能性も高い。
松永泰行・東京外国語大教授(国際政治)
米イラン合意・識者談話(2・完) 松永泰行 東京外国語大教授(本人提供)
イランは軍事力と外交力をうまくかみ合わせ、米国から歴史的な譲歩を引き出した。米国がイランの国家主権を正式に文書で認めれば、1979年のイラン・イスラム革命後初めて。米国が今後、原則としてイランを空爆できないことを意味する。
今回イランは、軍事的手段だけではイラン相手に目的を達成できないという意識を米国に植え付けた。さらに、合意の障害となっていたイスラエルを抑え付けなければ物事は進まないと自覚させることもできた。
イラン国内では宗教的イデオロギーが強い国会議員らが戦闘終結に猛反対していたが、精鋭軍事組織「革命防衛隊」は前向きだった。防衛隊は軍備に限りがあることを考慮し、余裕があるこの局面で米国から譲歩を引き出すのが得策だと判断した。
優先したのは、資産凍結と米国による海上封鎖の解除だ。凍結資産は空爆で受けた損害の再建に必要。海上封鎖で原油を中国に輸出できないのも苦しかった。
イラン指導部には課題も山積している。国内では自由がなく生活が苦しいと感じている層への説明責任を負う。国際的にも各国との関係正常化を進めなければならない。ただ、実行できる手腕を持った政治家は見当たらない。

