「腐敗が過ぎる『政治とカネ』でも政権に危機感なし 改革の精神は失われたのか」東浩紀(AERAdot. 2023/12/12/ 17:00)
批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。
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さすがに腐敗がすぎるのではないか。いま話題の自民党の裏金問題だ。
自民党各派閥がパーティー券収入の一部を所属議員に還流させ、政治資金収支報告書に記載されない隠し資金を作っていたという疑惑が出ている。最大派閥の安倍派では、2022年までの5年間で1億円以上の裏金が作られていたという。
事実であれば政権与党が組織ぐるみで堂々と脱税していたようなもので、事務的な記載漏れで許される話ではない。政権がひっくり返ってもおかしくない大事件だ。
問題発覚後、安倍派の塩谷立議員は資金還流の存在をあっさり認めメディアを驚かせた(のちに撤回)。そこから透けて見えるのは、党内で裏金作りが慣習化し罪の意識すらなかったという実態だ。東京地検特捜部はすでに議員秘書の任意聴取を始めているという。会計担当者の逮捕などでお茶を濁されないことを望む。
しかし不安もよぎる。深刻な事件のわりに政権に危機感がない。岸田首相も松野官房長官も他人事のようなコメントを発するばかりだ。
背景にあるのは野党の弱さだろう。政権支持率は3割を切っているが、野党支持が増えているわけではない。一部には解散総選挙を見込んだ動きもあるが存在感がない。11月30日には前原誠司氏が国民民主党を出て新党立ち上げを表明したが、大して話題にならなかった。政権は自民党批判の受け皿がないことを見抜いている。
今年は細川護熙政権誕生から30年の節目の年だった。55年体制崩壊のきっかけとなったのがまさに「政治とカネ」で、細川内閣は政党助成制度を導入するかわりに政治献金を制限した。今回の事件は、改革の精神がこの30年で完全に失われたことを意味している。
長期政権は必ず腐敗する。浄化には野党の強化しかない。しかし深刻なのは私たちは一度その道を辿っていることだ。にもかかわらず同じ問題が繰り返されている。
腐敗を防ぐ制度をいくら作っても、人々が腐敗していれば必ず抜け道は見つかる。問題の根は政治より深いのかもしれない。
※AERA 2023年12月18日号