安倍元首相銃殺事件で批判を封じる大手メディアの異常さ
(日刊ゲンダイ 公開日:2022/07/15 06:00 更新日:2022/07/15 06:00)
飛騨の山猿マーベリック新聞(野党共闘の行方)2022年07月15日 10時47分00秒
安倍晋三元首相が8日、銃撃され死亡した。この事件は今日の日本社会の特異性を示している。主要メディアの報道は①哀悼の意を強く出すこと②安倍への賛美はいいが批判をしないこと③メディア間で一体性を持つこと──である。
大手5紙(読売、朝日、毎日、産経、日経)は、9日付の1面で「安倍元首相 撃たれ死亡」と全く同じ見出しで報じている。一つの事件で同じ見出しが出るのは異常な現象だ。これだけではない。8日夜のデジタルなどの報道で、朝日、産経、共同、日経、読売は「政治信条への恨みではない」と同じ見出しで報じている。産経は「政治信条への恨みではない」と報じるとともに「県警は認否を明らかにしていない」としている。
おかしいではないか。「認否を明らかにしない」の状況下、なぜ容疑者が即、「政治信条への恨みではない」だけ述べるのか。政権を忖度する警察誘導の報道だろう。
日経新聞は「安保関連法・アベノミクスで功績」と前向き評価をしている。こうした報道に、今は哀悼だけを述べる時で、評価をするべきではないという声はない。
では、批判した時はどうなるか。立憲民主党の小沢一郎衆院議員が、岩手県で行った参院選の応援演説の際、安倍元首相銃撃事件について、こう話したという。
「大変残念だ。お悔やみ申し上げる」「安倍さんの個人的な批判をするものではないが、自民党の長期政権が社会をゆがめ、格差を拡大し、国民の政治不信を招いた。その政治不信の中から、過激な者が銃撃暗殺に走った」「日本の戦前の歴史も、世界の歴史でも、社会が不安定になると、血なまぐさい事件が必ず起きる。自民党の長期政権が招いた事件だと言わざるを得ない」
これに対して、自民、公明が批判するならともかく、党首である泉健太代表が「元総理の命が失われ、背景や全容はいまだ不明です。その状況で、事件と長期政権など何かを不用意に関連付けるべきではない。党としても注意いたしました」とツイッターに投稿した。
「自民党の長期政権が社会をゆがめ、格差を拡大し、国民の政治不信を招いた」のも、容疑者の生活困窮が犯罪に結びついたのも事実だ。
自民と対決を避ける、その姿勢では選挙で負けるのは当然だ。
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孫崎享外 交評論家
1943年、旧満州生まれ。東大法学部在学中に外務公務員上級職甲種試験(外交官採用試験)に合格。66年外務省入省。英国や米国、ソ連、イラク勤務などを経て、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大教授を歴任。93年、「日本外交 現場からの証言――握手と微笑とイエスでいいか」で山本七平賞を受賞。「日米同盟の正体」「戦後史の正体」「小説外務省―尖閣問題の正体」など著書多数。