首都直下地震の新たな被害想定、都内で死者6100人 10年前の3割減に 東京都が五つのシナリオ

首都直下地震“被害想定”10年ぶり見直し 社会

首都直下地震に見舞われたら…東京都が五つのシナリオ

首都直下地震に見舞われたら……東京都が五つのシナリオ(毎日新聞 2022/5/25 19:11 最終更新 5/25 19:22)

東京都は10年ぶりに改定した首都直下地震の被害想定で、発生後に起こりうる五つの「シナリオ」を時系列で示した。避難生活による環境の悪化などで死亡する震災関連死、ライフライン・通信手段の被災など、数値化できないリスクを具体的に示し、防災対策を進めてもらう狙いがある。都が示したシナリオを基に、首都直下地震に見舞われた場合の状況をシミュレーションした。

自宅での避難生活

<発生直後~1日後>

マンション高層階の自宅で強い揺れに襲われた。電気、ガス、水道のライフラインは不通に。幸い、室内に大きな被害はない。周囲に火災の危険性はなさそうで物資の備蓄もある。在宅での避難生活を始めた。

ただしマンションのエレベーターは停止し、階段を何段も上り下りして外出するのは一苦労なのに、スーパーに行っても食料品や生活物資は売り切れている。帰宅してからもトイレが使えないのが厄介だ。

<3日後~1週間後>

被災した発電所の稼働停止で、計画停電が始まった。自宅の固定電話、インターネット回線が使用不能になり、エアコンも使えなくなった。1週間後、電力は復旧したものの、保守管理業者による点検を終えていないためエレベーターが使えない状態が続く。

<1カ月後>

身動きの取れない生活のため、体調が思わしくない。なんとか外出してスーパーに行ってみても、余震を恐れる人たちによる買い占めが起き、ほとんど品物がない。

避難所での生活

<発生直後~1日後>

自宅で地震に遭い、ライフラインも不通になり、避難所へ向かった。スマートフォンの電池が切れて家族と連絡が取れない。避難所は人でごった返して混乱し、仮設トイレの衛生環境が急激に悪化している。飲料水の備蓄をしていなかったため、給水車に頼りたいけれど、なかなか来ない。

<3日後>

避難所に身を寄せる人が徐々に増えてきた。自分のスペースが狭くなる。避難所の発電機が燃料切れで電源が確保できなくなり、テレビやスマートフォンでの情報収集ができなくなった。救援物資を乗せた車が避難所へ向かってきているようだが、道路は寸断されて渋滞もあり、なかなか到着しない。

<1カ月後>

知人や親族の家に身を寄せる人が増え、避難者の数は減ったが、自分には行き先がない。清掃が行き届かず、ほこりが舞うため、どうも呼吸器の調子が悪い。

帰宅困難者

<発生直後~1日後>

繁華街で買い物をしていると、突然大きな揺れに襲われた。駅へ向かったものの、電車は運転を見合わせている。歩いて自宅を目指すと、路上は同じような人であふれかえっている。救急車や消防車が見えるが、滞留する人々で前を塞がれて進めない。

携帯電話は通信回線が混み合い、家族と連絡が取れない。この10年間で街頭の公衆電話は半減し、数少ない公衆電話には長蛇の列ができている。近くの一時滞在施設に身を寄せたが、食料の備蓄は早くも枯渇しているようだ。

<数日後>

道路の寸断でバスなどの代替輸送手段も確保できず、一時滞在施設への宿泊が続く。職場では同じように出勤できなくなった従業員が相次いでいて、事業が止まってしまった。

    ◇

都はこの三つと、「インフラ・ライフラインの復旧に向けた動き」「救出救助機関等による応急対策活動の展開」というシナリオを策定した。総務局の担当者は、シナリオをまとめた理由について「防災意識を向上して、自発的な防災を促すため」と説明する。どのような対策が求められるか、シナリオにはあえて「答え」が書かれていない。

被害想定の取りまとめを担った平田直・東京大名誉教授(地震学)は「求められる対応は、湾岸の高層マンション、下町の密集した地域、郊外の住宅地などで、それぞれ違う」と語る。

例えばタワーマンションの高層階に住む人は、エレベーターが止まっても生活が成り立つように必ず3日~1週間分の水や非常食を備蓄しておくなど、環境によって必要な行動は変わるという。平田氏は「シナリオを見て自分に関連するリスクを拾い上げて、自分だけの『マイ被害想定』を作ってほしい」と呼びかけている。都は五つのシナリオについて、一般向けにわかりやすくまとめたものを近くホームページに掲載する方針だ。

首都直下地震の新たな被害想定、都内で死者6100人 10年前の3割減に

首都直下地震の新たな被害想定、都内で死者6100人 10年前の3割減に(毎日新聞 2022/5/25 11:27 最終更新 5/25 19:19)

東京都防災会議は25日、首都直下地震が起きた際の被害想定を10年ぶりに改定した。都心南部を震源とするマグニチュード(M)7.3、最大震度7の「都心南部直下地震」が起きた場合、揺れや火災により都内で最大約6100人が死亡し、約19万4400棟の建物被害が出ると推計している。被害の想定はいずれも前回2012年の最大被害想定の予測値を3割下回った。有識者は、建物の耐震化などの対策が進んだためとしており、都はさらに被害を軽減させるため地域防災計画の見直しを進める。

都は、震源が異なる複数の地震を想定して被害をシミュレーションした。最も被害が大きいのは都心南部直下地震で、今後30年以内に70%の確率で起こると予想している。この地震が起きると、23区の約6割で震度6強以上の揺れがあるとされる。国の中央防災会議は首都直下地震の主な震源をプレート内の都心南部とみており、都は今回この見方に沿って想定を進めた。

都心南部直下地震と同様の確率で起こる可能性がある多摩東部直下地震(M7.3)では、都内で約5000人が死亡すると推計。首都直下型ではなく海溝型の南海トラフ巨大地震(M9クラス)があった場合、揺れによる被害はほぼ発生しないものの、津波が起き、23区の沿岸部では2メートル以上、島しょ部の式根島では最大約28メートルが観測されると予測している。

都心南部直下地震では避難者が299万人に上ると考えられている。被害想定の報告書では災害復旧過程で起こるリスクを時系列でまとめた「災害シナリオ」を新たに示し、備えを呼びかけた。高齢者や既往症がある人らが避難所など慣れない環境での生活で体調を崩して死亡する震災関連死についても言及した。

都心南部直下地震(M7.3)で想定される東京都内の震度分布

都は12年4月、プレート境界にある東京湾北部を震源とするM7.3の直下型地震を想定し、死者約9600人、建物被害約30万4300棟との予測値を公表した。都は今回の人的被害、建物被害の最大想定が当時から3~4割減少した理由について、住宅耐震化率が10年の81.2%から20年には92%まで上昇したこと、火災が広がりやすい木造住宅密集地域の総面積が約1万6000ヘクタールから約8600ヘクタールへとほぼ半減したことなどが要因と分析している。

一方、都は12年11月公表の地域防災計画で、同年からの10年間で死者を約6000人、建物被害を約20万棟それぞれ減らす「減災目標」を設定していた。今回は前回の想定と比べ、死者は約3500人、建物被害は約11万棟減る想定となったが、減災目標には達していない。都は地域防災計画の改定を進め、23年1月をめどに素案をまとめる。

都防災会議地震部会長として被害想定を取りまとめた平田直・東京大名誉教授(地震学)は想定死者数の減少について「耐震化が進み都市が丈夫になったことが一つの要因だ。しかし6000人が亡くなることはあってはならない。一層耐震化を進める必要がある」と話している。

首都直下地震

東京都や神奈川、埼玉、千葉各県など首都圏周辺で起きる、プレートの境界や内部を震源とするマグニチュード(M)7級の地震。政府の中央防災会議は発生場所別に19パターンに分類し、このうち最も被害が大きく首都の中枢機能に影響すると考えられる都心南部直下地震(M7.3)を防災対策を検討する中心に位置づけている。

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