大気中の二酸化炭素を99%以上の効率で直接回収する技術、都立大が開発

二酸化炭素回収による炭素資源社会のイメージ 科学・技術

大気中の二酸化炭素を99%以上の効率で直接回収する技術、都立大が開発(TECH+ 2022/05/12 15:00 著者:波留久泉)

実用化が進むも課題も多い二酸化炭素回収システム

東京都立大学(都立大)は5月11日、相分離を利用することでCO2吸収速度の向上と反応系からの生成物の分離を実現し、ガス流通下でも400ppmのCO2を99%以上の効率で除去するDAC(Direct Air Capture:大気中からの直接回収)システムの開発に成功したと発表した。

同成果は、都立大大学院 理学研究科の山添誠司教授、同・藤木裕宇大学院生、同・天本和志大学院生、同・吉川聡一助教、京都大学 触媒・電池元素戦略拠点の平山純特定助教、都立大大学院 都市環境科学研究科の三浦大樹准教授、同・加藤玄大学院生、同・宍戸哲也教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する環境科学と技術に関連するすべての分野を扱うオープンアクセスジャーナル「ACS Environmental Au」に掲載された。

気候変動の主要因の1つとされるCO2は、増加傾向にあるといっても大気中では400ppmという非常に低い濃度のため、大気中からの直接回収は容易ではない。すでに複数の企業がそれぞれの方式でDACプラントを構築しているが、吸収効率や回収時のコスト面に課題があり、それらを克服した新しいプロセスの開発が求められている。

一般的にアミン(R-NH2)とCO2が反応すると、不安定なカルバミン酸(R-NHCOOH、アミンとCO2が1:1で反応)やカーバメートアニオン(R-NHCOO-、アミンとCO2が2:1で反応)が形成されることから研究チームは今回、CO2と反応することで“固体のカルバミン酸”を形成するアミン化合物に着目することにしたという。

高効率な二酸化炭素回収システムを実現

「相分離」により、アミン水溶液(液相)中でCO2がアミンと1:1で反応して固体のカルバミン酸(固相)を形成することができれば、溶液中の不安定なカルバミン酸を安定した固体のカルバミン酸として取り出すことでCO2を安定して吸収・固定化することが可能となるほか、反応系中(液相)から生成物であるカルバミン酸を取り除くことができるため、アミンとCO2の反応促進が期待できるという予測のもと、種々のアミン化合物を用いてCO2と反応して固体のカルバミン酸を生成する化合物の調査が行われたところ、シクロヘキシル部位にアミノ基が最低でも1つは結合しているジアミン化合物群が相分離により固体のカルバミン酸を生成することが見出されたとする。

中でもイソホロンジアミンが最も効率がよく、400ppmのCO2を吸収できること、CO2とイソホロンジアミンが1:1の比率で反応すること、水溶媒でも機能することが確認されたという。また、固体のカルバミン酸が懸濁した状態で窒素ガスを流通させながら60℃に加熱すると吸収したCO2をすべて放出し、固体のカルバミン酸はすべて液体のイソホロンジアミンに戻ることも確認されたとのことで、これは、加熱により固体のカルバミン酸の溶解度が上がり、溶液中に不安定なカルバミン酸が増えることで60℃という低温でもCO2が放出されたためと考えられるとしている。

さらに、イソホロンジアミンは大気中のCO2を99%以上の効率で100時間以上吸収し続ける耐久性があること、CO2の吸収・放出を少なくとも5回繰り返しても性能の劣化は認められなかったことから、イソホロンジアミンはCO2吸収・放出材料として繰り返し利用可能であることが示されたともしており、これらのことから、CO2回収の低コスト化が期待されるとする。

今回、シクロヘキシルアミン基を持つジアミン分子を用いた相分離による高効率DACシステムが開発された (出所:都立大プレスリリースPDF)

今回開発されたイソホロンジアミンを用いた相分離によるDACプロセスでは、最大で1時間当たり214mmolのCO2(1molの吸着材を利用)を吸収できることが確かめられたとのことで、この速度は、実装が進められている排気ガス中のCO2を除去するアミン吸収法の約5倍、KOHを用いたDACシステムの3倍以上の吸収速度であるとするほか、近年報告されている種々のDACシステムと比較しても2倍以上のCO2吸収速度であり、低濃度CO2(400ppm)の除去という点においてトップクラスの効率で利用できるシステムとなることが期待されるとしている。

(上)高効率で400ppmのCO2をイソホロンジアミンが吸収・除去し、固体のカルバミン酸が形成している様子。(下)イソホロンジアミンによるCO2の吸収・脱離のメカニズム (出所:都立大プレスリリースPDF)

なお、今回の研究では、実際の空気中のCO2を長時間除去できることも実証されたことから、システムの大型化とさらなる低コスト化を達成することで、これまでのシステムを凌駕する新しい相分離DACプラントを実現できると考えていると研究チームではコメントしているほか、現在、NEDOプロジェクト「未踏チャレンジ2050」でDACシステムだけでなく、バイオマス由来の化合物を用いたCO2変換反応の開発も進めているとのことで、今回開発された相分離を利用したDACシステムとCO2変換反応システムを組み合わせることで、空気からプラスチックや化成品を作り出す“ビヨンド・ゼロ”の社会を実現できると考えているともしている。