CO2増で温暖化進むと思う人が科学的にマズい訳 政界・経済界のみの都合で決めるのはとても危険

今の勢いで地球温暖化が進むとは言い切れません 科学・技術

CO2増で温暖化進むと思う人が科学的にマズい訳 政界・経済界のみの都合で決めるのはとても危険(東洋経済ONLINE 2023/01/13 13:30)より抜粋

鎌田浩毅 京都大学名誉教授・同レジリエンス実践ユニット特任教授

地球温暖化の原因は二酸化炭素とされていますが、鎌田浩毅・京都大学名誉教授はそもそも二酸化炭素の量が増えても「将来、長期にわたって温暖化するという結論は科学の世界では出ていない」と言います。その詳細について、新著『揺れる大地を賢く生きる 京大地球科学教授の最終講義』を上梓した鎌田氏が解説します。

地球は氷期に向かっている

二酸化炭素の増加がクローズアップされ、温暖化の問題点が日々強調されていますが、寒冷化について考えたことはあるでしょうか。「スノーボールアース(雪玉地球)」という言葉を聞いたことのある人がいるかもしれません。これは、地球の海洋すべてが凍結し、地球全体が凍ってしまうという「全球凍結」の状態を指す言葉です。

もし、地球の大気に二酸化炭素のような温室効果ガスがまったく含まれていなければどうなったかを検証すると、地表の平均温度はマイナス10℃以下であっただろう、という結果が出ています。

46億年に及ぶ地球史のなかで、全球凍結が起きた時期が数回ありました。地球がどうやって全球凍結状態を脱したかというと、それは二酸化炭素濃度が上昇したためであることがわかっています。

温室効果ガスとして、二酸化炭素を目の敵のようにしていますが、一方で二酸化炭素は地球の環境を一定に保つための重要な要素だったのです。地球が平衡状態を維持するためのバランス調整役として存在しました。

何十万年という地球科学的な時間軸でみれば、実は現在の地球は氷期に向かっています。例えば13万年前と1万年前には、地球の気温が比較的高い時期がありました。

さらに下って日本の平安時代は、現在よりも温暖な時期でした。ただ14世紀からはずっと、寒冷化が続いています。つまり、大きな視点からすれば、地球は寒冷化に向かっており、寒冷化の途上で短期的な地球温暖化状況にある、というのが地球の現状です。

寒冷化するとどんなことが起こるでしょうか。何より問題となるのは、農作物への影響です。夏になっても気温が上がらなければ作物は育たず、私たち生き物は日々の生きる糧を得られなくなってしまいます。冬は豪雪に見舞われ、これまで以上の命の危険が迫ります。温暖化よりもむしろ寒冷化が怖いと考える専門家もいます。

地球温暖化についての議論の中で、とくに産業革命以降に大量に放出された二酸化炭素(石炭、石油の使用など、人間の活動によって生じた二酸化炭素)が現在の温暖化を生んだのだ、という考え方があります。もちろんその可能性はあります。

ところが、二酸化炭素が温暖化を引き起こす寄与率については、研究者によってなんと9割から1割まで、大きく意見が分かれているのです。2010年には、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が提出したデータの確実性をめぐって、何人かの研究者が疑義を呈しています。また、今後十数年間は寒冷化に向かうのだ、と主張する地球科学者は少なからずいます。

今の勢いで温暖化が進むかどうかは自明ではない

私自身は、将来にわたって、今の勢いで地球温暖化が進むかどうかは必ずしも自明でない、と考えています。

例えば、大規模な火山活動が始まると、地球の平均気温を数℃下げる現象がたびたび起きてきました。こうした現象からも、温暖化の進行が当然の成り行きではないことは、理解していただけるのではないでしょうか。

人口の増大、都市化、経済活動は確かに地球環境と気候変動に影響を与えてきましたが、実は地球科学の「長尺(ちょうじゃく)の目」で見ると、いずれ地球という大自然が吸収してくれる程度のものなのです。

人間による環境破壊には由々しきもの、目に余るものが多々ありますが、地球全体の営力から見ると小さいということも知っておいていただきたいと思います。よって結果としては温暖化と寒冷化、双方の対策をすべきということに結論づけられるのです。

もともと自然界にはさまざまな周期の変動現象があります。例えば、一般的に人類が文明を持たなかった時代の氷河期などのこうした現象は、近現代の人類の生産活動が起こした短期的現象から区別して評価しなければなりません。

また、人間が大量の二酸化炭素を排出しても、地球にはもっと大きなフィードバック機能が備わっています。そもそも二酸化炭素量が増大しても、それらの多くは海に溶けるでしょう。逆に大気中の二酸化炭素が減少すると、海に溶けたものが出てきて補うという、バッファシステム(緩衝装置)もあるからです。

このような現象についての精査を踏まえないと、大気中の二酸化炭素が単純に増え続けるかどうかも決められません。例えば大気中の二酸化炭素が減ることで、植物の光合成活動が弱まり、結果的に人間の食糧が減少する可能性すらあります。現在、地球上の食糧が確保できているのは、二酸化炭素量がこれだけあるからだ、ともいえるのです。

地球温暖化は「長尺の目」で捉えることが重要

人口増大が原因ではなく、二酸化炭素減少や寒冷化による食糧危機が生まれるかもしれません。人間のスケールのみで地球を判断すると大きく誤ってしまいます。

地球温暖化は先ほど述べたような「長尺の目」で捉えることが重要です。そうしないと、目先の国内外の政治状況、経済状況に振り回される事態から脱却できなくなります。

日本は二酸化炭素の排出量を26~46%削減することや、SDGs(Sustainable Development Goals)などについて軽々しく約束したりしています。将来、長期にわたって温暖化するという結論を科学の世界がきちんと出していないにもかかわらず、政界・経済界のみの都合で決定していくのはとても危険だと私は考えています。

人間にとって「たいへん困ったこと」があっても、地球にとってはすべてを吸収してしまうような巨大なメカニズムが存在しています。ここで地球も「困っている」と考えるのは、もしかすると人間の自信過剰かもしれないのです。

地球の問題は、もっと長い尺度で眺めていかないといけません。