日本維新の会の岬麻紀衆院議員に経歴詐称の疑い 刑事告発で名古屋市の河村市長「情けない」

立候補を表明した岬麻紀氏と手を取り合う減税日本代表の河村たかし名古屋市長(中央)と、日本維新の会の杉本和巳衆院議員(右)=2019年6月 政治・経済

日本維新の会の岬麻紀衆院議員に経歴詐称の疑い 刑事告発で名古屋市の河村市長「情けない」(AERAdot. 2022/05/06 07:00)

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「また、大変な難題を抱えることになったな」とAERA dot.の記者の取材に、表情をゆがめたのは名古屋市の河村たかし市長。というのも、2019年7月の参院選で、河村氏が代表を務める地域政党の減税日本と日本維新の会が公認した岬麻紀氏(現衆院議員)が、そのときの選挙公報に、虚偽の経歴を記した公職選挙法違反の疑いがあるとして、東京都の男性から名古屋地検に刑事告発されたのだ。

告発状の日付は5月1日。内容は、岬氏は19年7月の参院選で愛知選挙区から出馬し、公示後に愛知県選挙管理委員会が配布した選挙公報に、「プロフィール」として「亜細亜大学非常勤講師」との経歴を掲載させたが、同大学で非常勤講師を務めたことはなく、当選を得ようと虚偽の経歴を掲載した、というもの。

2019年参院選の選挙公報

岬氏は、19年の参院選では落選したが、昨年10月の衆院選では、日本維新の会の公認で愛知5区から出馬し、比例復活当選した。この時の選挙公報には、非常勤講師の経歴はなかった。

2021年10月衆院選の選挙公報

選挙公報は、国政や都道府県知事の選挙の際に、自治体の選管が発行し、有権者に配布されることが公職選挙法によって定められている。候補者の氏名や所属政党、経歴などが掲載されている。

19年の参院選で、愛知県選管が発行した選挙公報の岬氏の「プロフィール欄」には、生年月日や出身地などの後に、会社代表やフリーアナウンサー、亜細亜大学非常勤講師といった経歴が書かれている。このとき、減税日本の愛知県支部長も務めていた。

選挙公報に記載された岬まき氏のプロフィール:2019年参議院選挙(左)と2021年衆議院選挙(右)

AERAdotでは、岬氏が19年6月1日付で、減税日本に提出した経歴などが書かれた書面のコピーを入手した。

パソコンで打たれた経歴が並ぶ中、最下段に手書きで、

<亜細亜大学非常勤講師>

と書かれている。それとともに、岬氏が残している手書きのメモには、亜細亜大学の非常勤講師の後に、

<2013、2015、2016>

とあった。

当時、岬氏を面接し、選挙公報の作成にかかわった、減税日本の党幹部はこう振り返る。

「減税日本では最初、別の候補者を検討していたがダメになり、急きょ、他県の元知事の推薦もあって岬氏を擁立する話になりました。選挙公報の作成も必要なので、面接の際には履歴書などを持参するよう伝えました。面接している時に、亜細亜大学の非常勤講師をしていたとの話があり、岬氏自身がペンで履歴書に書き込んだんです。『2013年』など具体的に務めていた年度を話し、メモにすらすらと書いていきました。選挙に出馬しようとする人物がウソをつくこともないだろうと……」

この点について、亜細亜大学に取材を申し込んだが、「個人情報なのでお答えできません」との回答だった。

しかし、AERAdotが入手した、亜細亜大学が3月に作成した内部資料には、「岬麻紀」「岬まき」、そして本名の「小出麻紀」という名前の人に、非常勤講師を委嘱した記録はない、と書かれていた。

岬氏は「株式会社ポリッシュ」という会社の社長であることも、選挙公報に記されている。その法人登記簿では「小出麻紀」となっており、15年10月に社長に就任している。

河村市長にも詳細を確認すると、

「減税日本の中でも、岬氏の経歴を確認すべきだとの話があり、19年参院選の履歴書なども含めて調査した。亜細亜大学から、岬氏が非常勤講師だったことはないという内容の回答を文書で得たので、岬氏に事情説明を求めようと、4月終わりに電話を入れたが応答がなく、折り返しもない。党としては岬氏と連絡がとれないのでこれ以上、調査のしようがない」

と話した。その上で、

「弁護士と協議して、刑事告発するかどうか最終的に決めようと考えていた段階だ。疑いを持たれる時点で候補者として失格だ。減税日本公認としたことに対して、有権者におわびしなければならない。情けないことだ」

との考えを述べた。

昨年の衆院選は、日本維新の会単独の公認だった。選挙区の愛知5区は、大村秀章・愛知県知事へのリコール署名偽造事件で逮捕・起訴された、田中孝博被告(公判中)が当初、日本維新の会から立候補する予定だった。事件が発覚し田中被告が出馬を撤回。その後、岬氏が候補者となった。

詳細な経緯について、日本維新の会の愛知県総支部代表、杉本和巳衆院議員に聞くと、

「田中被告の事件後、岬氏から愛知5区で出馬したいとの申し出があり、昨年8月に総支部の幹部と2人で面談しました。実は、当時から岬氏の経歴にまつわる疑念がありました。私はそこを指摘して、『大丈夫ですか』と岬氏に確認をとり、問題ないという答えでした。それでも私には腑に落ちないところがあり、党本部に上申書を出し、岬氏が候補者の公認にふさわしいか、そちらで判断してほしいと依頼し、最終的に決まったんです」

と説明し、こう続けた。

「河村市長からの連絡もあり、『亜細亜大学非常勤講師』が虚偽の可能性があると聞かされた。事実なら大変申し訳なく思う。経歴詐称は絶対に許されない。岬氏は疑念についてきちんと答えるべきだ」

愛知県では、過去にも経歴が大きな問題となったことがあった。

1992年の参院選で、ラジオパーソナリティーで知られた新間正次氏が、当時の愛知選挙区から出馬(旧民社党)して当選した。しかし、選挙公報に書かれた<明治大学中退>が、虚偽であることが判明。公職選挙法違反(虚偽事項公表)の罪に問われ、94年に有罪が確定し、当選は無効となった。

岬氏に事実関係を確認するため、携帯電話に連絡すると、

「岬先生ですか?」

との問いかけに、

「はい、そうですが」

と答えた。こちらが名乗ると、

「マスコミですか」

と慌てた様子で言い、突然、秘書という人物に電話をかわり、

「他からもそういう(経歴についての)問い合わせがありました。今の段階で、コメントすることはありません」

との回答があった。

(AERAdot.編集部・今西憲之)