吉村知事のパフォーマンスで疲弊する府職員「ウクライナ難民受け入れや株価への影響でヒヤヒヤ」 AERAdot.

国内初のワクチン治験、吉村大阪府知事「前のめりの政治主導」の危うさ 政治・経済

吉村知事のパフォーマンスで疲弊する府職員「ウクライナ難民受け入れや株価への影響でヒヤヒヤ」(AERAdot. 2022/03/14 08:00)

「吉村洋文知事は最近、批判的な報道にいらだち、火消しで庁内がてんやわんやです。ロシア侵攻でウクライナ難民を受け入れるという政府の方針が発表されると、アピールできるネタが見つかったととりあえず、一息つきました。批判されるのが大嫌いなんですわ…」

こっそりこう教えてくれたのは、大阪府の幹部だ。大阪府内には約130人のウクライナ人が暮らすが、「その家族や親戚などが避難してくることを想定して準備をする」と吉村知事は会見で語った。

「ウクライナ避難民通訳支援人材バンク」を立ち上げ、ウクライナ語かロシア語の通訳ができる18歳以上のボランティアを募集。50人以上の申請があったという。

だが、幹部らの心配は尽きない。吉村知事の唐突な記者会見はこれまで、何度も墓穴を掘っているからだ。

その一つが日本初とぶち上げた大阪産の新型コロナウイルスのワクチン開発だ。

吉村知事が入れ込んだのは、東証マザーズに上場している創薬ベンチャー「アンジェス」だ。

吉村知事はアンジェスが開発しているとされる大阪産ワクチンについて高く評価し、2020年5月20日の記者会見では、パナソニックから大阪府に対し、新型コロナウイルスのワクチン開発に寄せられた2億円のうち、1億5千万円をアンジェスの創業者、森下竜一教授が所属する大阪大学に割り当てたことを明かした。そして同年5月25日、自らのツイッターでこう発信した。

<大阪大学発のバイオ企業アンジェスは新型コロナウイルスワクチンの臨床試験(治験)を7月から始める。動物実験の成果などを受けて厚生労働省や医療機関などと治験前倒しについて協議している。有効性が確認できれば年内にも承認を受けて実用化される可能性がありそうだ>

さらに20年6月17日の記者会見でこうぶち上げた。

「日本産、そして大阪産の新型コロナのワクチンの開発をこの間進めてまいりましたが、6月30日、今月末に人への投与、治験を実施いたします。これは全国で初になると思います」

森下教授の名前を記した資料を発表し、期待感を示した。吉村知事の発言もあり、アンジェスの株価は急上昇。新型コロナウイルスの感染拡大がはじまった、同年2月は500円程度だった同社の株価は、吉村知事の発言とともに値が上がり始めた。

同年5月の寄付の会見後には、1565円となり、6月の「大阪産新型コロナのワクチン開発」発言後の翌17日には2163円まで急騰した。

その後、アンジェスのワクチン開発は進まず、株価は徐々に値を下げはじめる。そして21年11月、アンジェスは治験の十分な効果を得られず、最終段階の治験を断念すると発表し、「白旗」をあげた。発表直後の株価は大幅下落し300円台になった。3月11日現在の終値は293円だった。

森下氏は大阪府、大阪市とは深い関係がある。25年開催予定の大阪・関西万博では「2025年日本国際博覧会大阪パビリオン推進委員会」の総合プロデューサーを務め、府と市の特別顧問の肩書もある。

森下氏はアンジェスのIR情報で0.45%の株式を保有する大株主としても名を連ねている。

政府や行政が上場会社の名前をあげて発言する場合、通常は株式市場が休みに入る、金曜日午後3時が過ぎてからと「暗黙の掟」になっている。マーケットに影響を与えないためだ。

だが、吉村知事の場合は、20年5月25日のツイッターは月曜日、同年6月17日の会見は、水曜日と異例の掟破りだった。吉村知事と株式市場の問題はこれだけではない。

20年8月4日、吉村知事は「ポビドンヨード」入りのうがい薬が新型コロナウイルスに効果があると唐突に発表した。この日は火曜日で株式市場が終わる午後3時より前に会見が開かれた。うがい薬の大手メーカーの株価はマーケットが終わる直前、大幅にアップ。ドラッグストアの棚からうがい薬が消えたと報じられた。

「吉村知事は大阪にゆかりがあると思えば、事務方と打ち合わせず、すぐに企業や個人名をあげてしまうんですよ。本人はいいと思ってやっているようですが、株式市場などを混乱させてはと、周囲はヒヤヒヤしている」(前出・大阪府幹部)

その一方で、大阪府の新型コロナウイルスの現場は今も混乱が続く。

大阪府が新型コロナウイルス感染者向けに設置した、自宅待機SOS(自宅待機者等24時間緊急サポートセンター)でトラブルが発覚したのは3月8日。

<保健所の入院調整担当者向け>として<入院調整申請が900件あります>という情報が発信された。

「900人もの新規感染者が入院できないのかと驚いた」とSOSサポートセンターのスタッフは話す。

大阪市では厚生労働省の新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理システム「HER-SYS(ハーシス)」へ入力遅れが度々、指摘された。

3月10日には遅れは改善されたこととなっていたが、混乱は収束していない模様だ。SOSサポートセンターは、ハーシスの登録状況で、入院調整、宿泊療養や配食サービスなどを実施している。だが、今も新規感染者から問い合わせがあっても、ハーシスに登録されていなければ、サポートが受けられないケースもあるという。

それを解消するため、新規感染者から連絡があると、SOSサポートセンターで「仮登録」して、入院調整、宿泊療養に対応している。ハーシスの登録はその後になるが、「仮登録」を消さず、ハーシスと2重登録になるトラブルが相次いでいるという。

「本来はハーシスに登録されれば、仮登録を削除しなければならない。しかし、今も保健所には電話がつながりにくく、SOSサポートセンターに電話が殺到。忙しいので削除まで手が回らないのです。それが証拠に、SOSサポートセンターは大阪以外にもコールセンターを立ち上げて、人員を増やしている。入院調整申請が900件の実数は、整理して半分以下になった思いますが、それでも300~400人はいたはず。サポート現場にいて新規感染者がとても心配です」

SOSサポートセンターを設置している大阪府を取材するとこう回答した。

「2重登録があったので、削除を求めるべくこのような発信をした。入院調整が900件とあるがそこまで停滞していたわけではない。今は、2重登録や現場の混乱は大丈夫です」

冒頭の大阪府幹部はこうぼやく。

「病床ひっ迫による死者数の増加など吉村知事のコロナ対策の失敗は明らかです。パフォーマンスがいつも先行し、それがコロナの現場、株式市場にまで影響を及ぼす。後始末を命じられるのは府の職員で、みんな完全に疲弊しています」

(AERAdot.編集部 今西憲之)