生物化学兵器を使用する可能性も…プーチン氏が破壊したもの、それは国際秩序 【TBS 報道1930】

ロシアの狙いは生物化学兵器も 国際

生物化学兵器を使用する可能性も…プーチン氏が破壊したもの、それは国際秩序 【報道1930】(TBS NEWS 3月12日 16時04分)

ロシアが「戦争ではない」と言い張る戦争を始めて2週間。停戦交渉も重ねられてはいるが、ロシアの攻撃は激化している。その中でロシアが“使ってはいけない武器”を使っているという情報がある。

■今にして思えば、あれが生物化学兵器を使う伏線だったのかもしれない…

幼稚園が…。病院が…。ウクライナの各地で民間人への無差別攻撃が行われていると伝えられる。その詳細を調査している機関がある。「べリングキャット」=イギリスの調査報道機関でインターネット上の映像などを収集・分析して事件や事故の真相を解明している。マレーシア航空機撃墜事件で、映像解析からロシアの関与を証明して有名になった集団だ。今回のウクライナ侵攻でも膨大な情報を収集解析し、ロシアがどんな兵器を使用しているか調査している。メンバーの一人を取材した。

べリングキャットチームリーダー ニック・ウォーターズ氏

「幼稚園の被害は明らかにクラスター爆弾によるものだ。屋根にたくさんの小さな穴が見える」

無数の爆弾が四方に拡散し無差別攻撃兵器とされるクラスター爆弾は国際条約で使用が禁止されている。これと同様に使用が疑われるのが「ダムボム(無誘導爆弾)」だ。ピンポイントで攻撃する誘導弾とは違い、命中精度は低いが安価なため無差別攻撃に使われる。

べリングキャットチームリーダー ニック・ウォーターズ氏

「(ダムボムが使われたのは)多くの住民が住むところだ。医療施設もすぐ近くにあった。軍事施設に見えるものは何もない。ただ民間人を無差別に殺しているだけだ」

べリングキャットがSNSなどで集めた映像はこの時点で1700。無差別攻撃の証拠を集め、国際刑事裁判所へ提出する準備を進めている。この無差別攻撃をロシアが意図的に行っている可能性があると、東大先端研の小泉氏は言う。

東京大学先端科学研究所 小泉悠専任講師

「無誘導爆弾であるかどうかよりも問題は、民間人の犠牲を意図的に出しているのではないかということ。つまり(ロシアは)シリアへの攻撃では、あえて水道施設ガス施設など市民の生活に必要なライフラインを破壊する、学校とか病院を意図的に破壊する、人間がとてもそこに住めないと、意識をくじくことで地域を取るってことをやってきた。同じことをウクライナでやっていても私は驚かない」

ロシアが使うかもしれない兵器については“核”が再三取り沙汰される。国際条約で禁止されている、一度に大量に殺戮する“真空爆弾”ともいわれる液体気化爆弾の使用をロシア軍は認めた。

そして、今にわかに生物化学兵器に関しての情報も伝わってきた。アメリカ国務省の次官が「ロシアがウクライナの生物学研究施設を掌握しようとしている」と発表。

するとロシア外務省は「アメリカが関与している生物兵器開発計画の証拠を隠滅しようとした文書がウクライナで見つかった」とした。これを受けてアメリカ、サキ報道官は「ロシアによる化学・生物兵器使用を警戒する必要がある」と述べた。

東京大学先端科学研究所 小泉悠専任講師

「ロシアによる生物兵器の使用を考えなければいけないと思う。去年12月、ロシア国防省の拡大幹部評議会でショイグ国防大臣が『アメリカの民間軍事会社がウクライナ東部で化学テロを計画していることを我々はつかんでいる』と言った。今にして思えば、これからウクライナのどこかで化学兵器を使用して、『予測した通りアメリカのテロだ』って言うための伏線だったかもしれない。

今、ロシアは普通の戦争では攻めあぐねている。ウクライナを思ったほど簡単に屈服させられていない。だからこれまでより何かエスカレートしてくる可能性はあると思う」

ロシアは、様々な武器を使って街を壊し、インフラを壊し、人々の生活を壊した。しかし、プーチン大統領の今回の暴挙が壊したものはそれだけではない。

■「常任理事国が戦争を始めたら国連は機能しない」

今回のロシアによる軍事侵攻が第二次世界大戦以降最も難しい局面だといわれるのは、ロシアが核大国であると同時に国連の常任理事国であることが大きい。大戦後、世界は国連を中心に安全保障の枠組みを築いてきた。それが今、壊れようとしている。外務省顧問の杉山前駐米大使は言う。

杉山晋輔前駐米大使

「そもそも論になるが、第二次世界大戦が終わった時に、あらゆる紛争は平和的に解決しよう、武力行使はしちゃだめだ、戦争は違法だ…。これを作ったのはスターリンとチャーチルとルーズヴェルトですよ」

つまり、国連の基礎はソ連とイギリスとアメリカで作った。その一角ソ連がロシアとなり、今、武力を行使し、戦争を始めてしまった。

杉山晋輔前駐米大使

「国連憲章を作った当人が、それを否定する行動に出たら、そのうえ、核の脅しまでやると、国連の集団安全保障機構は全然動かない。じゃあNATOが武力行使で対抗したら、第三次大戦になる、だからそれもできない。

地道な外交交渉を続けたり、経済制裁したりはできるが、日々行われている殺戮を止めることはできない。こんなことが起きているのに何で止められないのかってモヤモヤする。これが国際社会の現状なんです。

でもね、誰が見てもこれは“悪”だよねってこと、こういうことしちゃいけないって国連憲章で決めたよねってことを明々白々と破ると、何年先かわからないが長い目で見ると、ロシアは必ず損をする」

確かに長い目で見れば、ロシアは損をするかもしれない、いや国際社会がそうしなければならない。しかし、今、この瞬間にも命が奪われている現状はどうすることもできないのだろうか? 大戦後77年、どうにか繋いできた国際秩序は、核大国にして常任理事国の行為によって風前の灯火である。

(BSーTBS『報道1930』3月10日放送より)