「デジタル・技術スキル領域62位」の衝撃、日本のデジタル競争力が低い理由

日本のデジタル競争力_世界で28位 科学・技術

「技術スキル領域62位」の衝撃、日本のデジタル競争力が低い理由(ビジネス+IT 2022/02/10)

新型コロナウイルス感染拡大の影響により、デジタルトランスフォーメンション(DX)の動きが加速し、企業は、価値を創出するビジネスモデルの展開が重要となっている。このような中、人材の思考・発想も大きな転換が求められ、特にデジタルや中長期的な視点も踏まえた人材育成やその根幹となる公教育のあり方も構造転換が必要だとされている。デジタル競争力を高めていくための教育・育成とは何か。学校の教育・人材育成システムと、企業現場のDX推進人材、そして、未来の人材像について政府の取り組みを踏まえて解説する。

国際大学GLOCOM 客員研究員 林雅之

教育・人材育成システムの抜本的な転換が急務に

スイスのビジネススクールであるIMDが毎年公表する「世界デジタル競争力ランキング2021」によると、日本のデジタル競争力の総合順位は28位となっている(64カ国・地域)。世界と比べて、日本のデジタル競争力は低下傾向にある。その要因の大きな1つが「人材」面での競争力の低さだ。特に人材領域が47位デジタル・技術スキル領域が62位と、総合順位を引き下げる要因となっている。

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IMD世界デジタル競争力ランキング2021
(出典:経済産業省「デジタル時代の人材政策に関する検討会)

高度成長期の工業化社会においては、同質性・均質性を備えた一律一様の教育・人材育成が求められ、一斉授業・平など主義のもとに世界トップレベルの教育・人材育成システムが日本の大きな経済成長を支えてきた。しかし、人口減少・少子化の深刻化とともに、DX、そしてアフターコロナという大きな時代の転換期にある中、デジタルを前提とした教育・人材育成システムの抜本的な転換が急務だと言える。

内閣府は2021年11月25日、「総合科学技術・イノベーション会議 教育・人材育成ワーキンググループ(第4回)」を開催。この中で「教育・人材育成政策パッケージ策定に向けた中間まとめ(案)」を公開した。

同案では、急速に進んだ一人一台端末整備やオンライン環境の浸透、デジタル社会の進展などを踏まえ、Society5.0の実現に向けた目指す教育・人材育成像、学校・教室の姿、人材育成のあるべき姿などが取りまとめられている。

特に、多様性を重視した「個別最適な学び」や「協働的な学び」を重視し、「探究力重視」「社会とシームレスなレイヤー構造」「子供の主体性」の3点を注力ポイントに掲げている。

「探究力重視」
自ら学びを調整し、社会に生きる学びや試行錯誤しながら、自ら課題を設定し課題に立ち向かう「探究力」を評価

「社会とシームレスなレイヤー構造」
社会や専門的な力を入れて、一人ひとりの認知の特性を踏まえて、その力をさらに伸ばす構造

「子供の主体性」
大人の成功体験や経験にとらわれず、子供の好奇心や個人の興味・関心に応じた学びや進路選択の実現

教育・人材育成システムの転換の方向性
(出典:総合科学技術・イノベーション会議「教育・人材育成ワーキンググループ(第4回)」2021年11月)

同案では、教育DXにおける学校のあるべき姿についてのたたき台が示されている。それによると、従来、学校では学校教育に関わるすべての分野や機能を丸抱え状態であったという。これからは、分野や機能ごとにレイヤー構成、社会や民間の力など、さまざまなリソースを活用することが重要だとされている。

その中にはICTの活用も含まれており、それらによって自分のペースで学びを調整したり、学校外のリソースを活かした学びが進展することが期待される。また、多様な教職員集団さまざまな学校外の関係者が関わることで、子供たちの認知の特性・関心により応じた教育の展開も視野に入れているという。

教育DX:学校のあるべき姿とは(たたき台)
(出典:総合科学技術・イノベーション会議「教育・人材育成ワーキンググループ(第4回)」)

企業にも求められる「実践的な学びの場」

急激にデジタル化が進展する中では、学校教育に加えて、社会に出た後もデジタルに関する学びの場も重要となっている。

経済産業省は2021年12月16日、「第2回 実践的な学びの場ワーキンググループ」を開催。同省は2020年度からの「デジタル時代の人材政策に関する検討会」において「企業・組織内のリスキリングの促進」「企業・組織外における実践的な学びの場の創出」「能力・スキルの見える化」という3つの方向性を示してきた。

実践的な学びの場ワーキンググループでは「実践的な学びの場」を中核とするデジタル人材育成のための基盤(プラットフォーム)の整備に重点を置き、その実現に向けた具体的な構想を取りまとめている。同ワーキンググループで整理しているデジタル社会における人材像を以下の通りだ。

デジタル社会における人材像
(出典:経済産業省「第2回 実践的な学びの場ワーキンググループ」2021年12月)

具体的には、デジタル社会においては、全ての国民が役割に応じた相応のデジタル知識・能力を習得する必要があるという。特に若年層は、小・中・高など学校の情報教育を通じて一定レベルの知識を習得することが大前提となる。また、現役のビジネスパーソンは、学び直しとなる「リスキリング」も重要であり、新たな施策として特に必要としているのが、DX推進人材への対応だ。

DX推進人材は多岐に渡る。企業がDXを推進するにあたっては、意思決定、全体構想・意識改革、本格推進、そして、DX拡大・実現まで、プロセスによって、求められる人材は異なる。

たとえば、全体構想や意識改革の段階ではデジタル技術を理解して、ビジネスの現場においてデジタル技術の導入するための全体設計ができ、社内全体の意識改革を推進する「ビジネスアーキテクト」のような人材が必要となる。

企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進の成功パターン(仮説)
(出典:第2回 実践的な学びの場ワーキンググループ)

DX推進人材は、5つの種類に大別されている。それぞれの人材で求められるスキルなどは以下の内容が挙げられている。各人材が、DXを推進する各プロセスで力を発揮することで、成果につながることが期待されているのだ。

DXを進める企業などにおけるビジネスパーソンの人材像(仮説)
(出典:第2回 実践的な学びの場ワーキンググループ)

デジタル人材育成プラットフォームとエコシステム

さらに実践的な学びの場ワーキンググループでは、デジタル人材育成プラットフォームの取り組みの方向性を示している。

デジタル人材育成プラットフォームでは、すべてのビジネスパーソンに求められるデジタルリテラシーと専門的なデジタル知識の学習機会を提供する。これにより、組織においてDX活動をけん引し、新たな付加価値の創造/業務効率化を実現できる実践的なDX推進人材の育成手法を確立するとしている。

また、デジタル人材育成プラットフォームは「デジタル教育コンテンツの整備(1層)」「実践的な疑似経験学習の運営(2層)」「課題解決型研修プログラムの実施(3層)」に分かれている。経済産業省では、各層の教育コンテンツ・プログラムなどを一覧で紹介する専用ポータルを構築し、経済界への働き掛けなどを通じて利用を促していく計画だ。

さらに、デジタルスキル・レベルの可視化に向けた環境整備に向けて、育成や評価の基盤となる「デジタルスキル・レベルの基準(スキル標準)の策定」や「デジタルバッジ」などによる学習歴の可視化にも取り組む。

デジタル人材育成プラットフォーム
(出典:第2回 実践的な学びの場ワーキング)

デジタル人材育成プラットフォームの展望については、国による予算措置が終了した後も継続して実践的な学びの場を提供し、DX推進人材を育成することが重要とされている。最終的には、デジタル人材育成プラットフォームのエコシステムの形成を目指しているという。

具体的には、1年目の2022年は「実証事業フェーズ」となる。2、3層については予算措置期間中に、民間事業者による自走化を検討し、6年目の2027年に自走化フェーズへの移行が計画されている。

デジタル人材育成プラットフォームのエコシステム
(出典:第2回 実践的な学びの場ワーキンググループ)

2050年からのバックキャストで未来人材を描く

人材の教育・育成には、中長期的な視点も重要となる。経済産業省は2021年12月7日、「第1回 未来人材会議」を開催し、デジタル化や「脱炭素」の世界的な潮流など2030年、2050年の未来を見すえ、産学官が目指すべき人材育成の大きな絵姿が示されている。また、採用・雇用の観点で教育に至る幅広い政策課題に関する検討を進めている。

たとえば、2050年の中長期的な視点で考えた場合、産業構造や働き方、学校教育など、大きな変化が予想される。2050年の未来からバックキャストして、今後の方向性と未来の人材について、検討することが重要となる。

2050年の未来からバックキャストした今後の方向性
(出典:経済産業省「第1回 未来人材会議」事務局資料)

同会議では「未来人材ビジョン」(仮称)を策定し、デジタル、グリーンといった成長分野の市場規模などから、2030年、2050年の労働需給、雇用創出効果を推計。そこから求められるスキル・課題を明らかにし、政府として「目指すべき姿」として公表していく予定だ。特に「脱炭素」などのグリーンに関する必要なスキルの特定と育成がますます重要となっていくだろう。

「未来人材ビジョン」(仮称)の策定
(出典:経済産業省「第1回 未来人材会議」事務局資料)

競争力のある人材像を描けるか、企業・教育機関に求められるもの

デジタル化の加速度的な進展と「脱炭素」の世界的な潮流は、これまでの産業構造を抜本的な変革を促し、労働需要のあり方にも根源的な変化をもたらすと予想される。今後、知的創造作業に付加価値の重心が本格移行する中で、日本企業の競争力をこれまで支えてきたと信じられ、現場でも教え込まれてきた人的な能力・特性とは根本的に異なる要素が求められていくことも想定される。

企業は、この事実を直視しなければならない。今後必要とされる具体的な人材スキルや能力を把握し「教育・育成ができているか」を自問する必要がある。また、教育機関はそれを機敏に感知し、時代が求める人材を育成できているか、そして数十年の構造変化を視野に入れた求められる人材像を描けているのかを考えることも重要だ。さまざまな視点で人材育成に考えて、最適な人材の育成に向けて取り組むことが求められるだろう。

国際大学GLOCOM 客員研究員 林雅之
国際大学GLOCOM客員研究員(NTTコミュニケーションズ勤務)。現在、クラウドサービスの開発企画、マーケティング、広報・宣伝に従事。総務省 AIネットワーク社会推進会議(影響評価分科会)構成員 一般社団法人クラウド利用促進機構(CUPA) アドバイザー。著書多数。