10月19日に公示される衆議院選挙を前に、各党党首が日本記者クラブでの討論会に参加した。コロナ、経済、多様性――注目の集まるテーマについて党首はなにを訴えたのか。
討論会には、与党から自民党の岸田文雄首相(党総裁)と公明党の山口那津男代表が出席。野党からは立憲民主党の枝野幸男代表、共産党の志位和夫委員長、日本維新の会の松井一郎代表(大阪市長)、国民民主党の玉木雄一郎代表、れいわ新選組の山本太郎代表、社民党の福島瑞穂党首、「NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で」(NHK党)の立花孝志党首――の7人が参加した。
経済・税金・多様性…9党首、注目テーマで何訴えた
経済対策
山口氏 日本の未来を担う子どもたちを全力で応援する。0歳から高校3年生まで1人当たり一律10万円相当の給付を行う。
玉木氏 今後10年間でデジタル化、環境、人づくりに100兆円の投資を行う。人づくりこそ国づくりの理念で教育、科学技術の予算を倍増させる。
山本氏 消費税廃止を含む徹底積極財政をやっていきたい。
福島氏 この3年間、消費税をゼロにし、大企業の内部留保に課税する。
枝野氏 (立憲民主党が掲げる)所得税の減税は、1年間の時限減税だ。消費税(の減税)については飲食、観光、文化イベントなどについて、通常に近い消費ができる可能性が出てきた状況を継続させなければならない。3年から5年程度は、消費を誘導しなければならない。
岸田氏 法人税、金融所得課税は分配の点でも大きな議論ではあるが、経済全体の活力、循環も考え合わせたうえで、具体的なありようを考えるのが道筋だ。
志位氏 金融所得課税を見直して、(高所得者層ほど税金を払う割合が減るとされる)「1億円の壁」を崩す必要がある。中堅・中小企業に比べて、大企業の方が税金が軽い優遇税制もただす必要がある。所得税・住民税の(最高)税率を65%まで上げる。法人税(の税率)については安倍政権で下がったが、戻す。
玉木氏 経済を正常の軌道に戻すための50兆円は、全額国債でやったらいい。物価上昇ではなくて、賃金上昇率が3%から4%になるまで金融緩和と財政出動を続ける。国際的な協調をとったうえでの法人税の増税や、累進課税を中長期的にはより強化していくことも必要だ。日銀保有の国債の一部を永久国債化するといった非伝統的な手法も検討すべきだ。
枝野氏 金融所得課税は、できれば来年度、法律改正が間に合わなければ再来年度から25%に上げる。できれば、任期中に30%まで上げたい。次の段階で総合課税を目指す。法人税は(資本金)100億円超の企業の負担率を、1億円から10億円の企業よりも高い水準まで上げる。
コロナ対策
志位氏 コロナで傷ついた暮らしと営業を立て直すため、消費税5%への減税は最も効果的だ。コロナ禍で、消費税を減税した国は世界にもある。日本も大企業に応分の負担を求めて、消費税の5%減税に踏み切るべきではないか。
岸田氏 消費税は社会保障の大切な財源だ。引き下げ後に再び戻すとなると、消費が減退するなど副作用は大きい。今の段階で消費税を触ることは考えるべきではない。
松井氏 コロナで厳しい環境にある人が大勢いるが、所得が下がっていない人も半数以上いる。財源は国民の血税。厳しい環境の方々に分配すべきだ。
岸田氏 コロナ対応としては、より困った方々に給付するべきだ。一部の人間に成長の果実が集中するのではなく、できるだけ幅広く、行き渡ることが重要だ。経済の好循環、成長と分配の好循環を実現する。
山本氏 (コロナ禍で)医療は崩壊、保健所はパンク、言ってしまえば大災害だ。リバウンドを起こさないように検査の拡大、保健所による積極的疫学調査でクラスター(感染者集団)を封じ込める。疫病対策の基本をやるべきだ。
枝野氏 感染者が減ってきたからこそ、大規模なPCR検査、感染ルートの把握が可能になる。PCR検査は必要で、飛躍的に増やす。(水際対策で)変異株を入れないことを徹底したい。
岸田氏 (党総裁選で創設を訴えた)「健康危機管理庁」は取り下げていない。司令塔機能の重要性を訴えており、危機管理のあり方そのものを総点検し、法改正なども念頭にした体制作りを考えている。
――(コロナ関係の)3人の担当大臣のうち、誰が司令塔か見えない。
岸田氏 3大臣は目の前の危機にそれぞれの立場で仕事をしてもらいたい。司令塔機能を作った場合は、役割分担を整理する。
枝野氏 ワクチン担当大臣なんてやめる。厚生労働省の権限は厚労相に、自治体のことは総務相、全体調整に官房長官がいる。司令塔機能を明確にする。
志位氏 コロナは100年に1回の災害だ。命と暮らしを守るための緊急支出は、国債でやるのが当たり前。「バラマキ」というのは筋違いだ。
山口氏 コロナ感染の不安が広がる中で(支援に)所得制限を設けるとスピード感が劣る。スピード感は現金給付が優れている。
安保・憲法
枝野氏 立憲民主党は健全な日米同盟を堅持する。共産党と立場は違う。そのことに(共産が立憲に)「けしからん」と言わない約束をしてもらっている。
福島氏 日本は核兵器禁止条約を批准すべきだ。なぜ批准しないのか。
岸田氏 現実を変えるためには、核兵器国を変えないと変わらない。汗をかくことが唯一の戦争被爆国として大事な責任だ。
――(防衛費を「GDP比2%以上も念頭に増額をめざす」とした自民公約に)公明の山口氏は、「国民の理解を得られない」と発言している。
岸田氏 数字ありきではない。大事なのは安全保障環境が大きく変化していること。国家安全保障戦略をはじめ、国の方針も見直さないといけない。
――敵基地攻撃能力は公明が慎重。どう説得するのか。いつまでに、どれだけの予算をかけるのか。
岸田氏 我が国をめぐる環境は複雑になっている。ミサイル防衛体制が十分かどうかは、絶えず見直さないといけない。
松井氏 安倍政権の時に憲法審査会をしっかり動かせば、国民投票までいけた。(憲法改正の)原案を作れなかったのが非常に残念だ。選挙で、野党も含めて、憲法改正を提案しようという数がそろえば、速やかに審議して国民投票を実施してもらいたい。
岸田氏 憲法改正は身近な、現実的な問題であるということをしっかり訴えていく。憲法改正の道筋をしっかり進めたい。
多様性など
――男女の候補者数をできる限り均等にするよう求める「候補者男女均等法」ができても、女性議員の比率が上がらない。義務化など踏み込む必要はないか。
岸田氏 環境整備、意識改革を進めずに単なる目標や法律の縛りを作っても現実は変わらない。セットで進めることで、現実を変えていきたい。
枝野氏 比例代表は必ずパリテ(男女同数)になる立候補の仕方をしたい。次の総選挙後、こういう選挙制度をとることで男女同数に近い国会を作りたい。
福島氏 社民党は男女平等の実現、多様性に力を入れている。(女性)候補者も6割以上で、ジェンダー平等の政党だ。
野党共闘・連立
枝野氏 (「野党共闘」に向けた政策合意に)外交、安全保障の基本的な考え方や天皇制などは含まれていない。基本的に政権は単独で担わせてもらう。(共闘する)他党のほか、国民民主党の協力も得ながら政権を動かしていく。
山口氏 (一部野党で)選挙協力をしながら、立憲単独の政権というのは極めて不安定な印象を持つ。
松井氏 政権、政策を選択する選挙の前に、(野党連携のあり方を)「閣内」とか「閣外」とか、決めること自体が無責任だ。
立花氏 経済問題、外交防衛でも自民党と非常に近い。5人以上当選したら、閣外協力したい。
志位氏 (「野党共闘」をめぐり)法案の事前審査など政権に共同責任を負う閣外協力(のやり方)もあるが、私たちは限定的な協力にする。
――公明党と自民党の連立が20年。自民党の言いなりとの批判もあるが、どう総括するか。
山口氏 車に例えれば、公明党はアクセル、ブレーキ、ハンドル。これらを使い分けて政権を安定させていると自負している。
「未来応援給付」「改革成長分配」「新しい政権」…党首が掲げたのは
自民・岸田文雄総裁「厳しい現実と向き合う」
コロナを乗り越え、私たちの国は新しい時代を迎えなければならない。政治は理想を語らなければならないが、自民党は徹底した現実主義に基づく理想を語れる政党であると思っている。経済、外交、安全保障、全ての分野において厳しい現実と向き合いながら、責任ある理想を語っていく。新しい時代を国民とともにしっかり切りひらいていきたい。
立憲・枝野幸男代表「所得を再分配、支え合う日本つくる」
コロナで傷んだ商売や暮らし、医療などの現場、アベノミクスで固定化した格差、深刻化している貧困。こうした日本社会を立て直すため、社会全体で支え合う。そのための役割を政治が果たす。この間に恩恵を受けたみなさんには応分の負担をお願いして所得を再分配し、支え合う日本をつくる。国民に育てていただいた立憲民主党。私は有権者を信じる。
公明・山口那津男代表「国民の声聞いて、政策実現」
コロナで食費、光熱費や通信費がかさみ、(子供たちの)不登校や自殺が過去最多を記録している。大人たちがしっかり応援するというメッセージは重要だ。公明党は国会議員・地方議員のネットワークを生かして国民の声を聞いて政策を実現する力がある。消費税の軽減税率、幼児教育・保育無償化、不妊治療への保険適用を一貫して進めてきた。期待してもらいたい。
共産・志位和夫委員長「野党共闘で新しい政権を」
今度の総選挙は、自公政権を続けるのか、野党共闘で新しい政権を作るのかを問う政権選択の選挙だ。格差と貧困をひどくし、国政を私物化し、疑惑にまみれ、コロナの失政で多くの犠牲を出した安倍・菅政権を引き継ぐ岸田政権には、日本の政治を任せられない。異常なアメリカ言いなりと財界中心をただして、本当に国民が国の主人公と言える日本をめざす。
維新・松井一郎代表「分配のため成長、成長のため改革」
日本はこの30年、成長していない。原因は、日本の社会構造が変化するなかで、日本の行政制度、規制は昭和の時代のままだからだ。分配するためには成長が必要だ。そして、その成長を実現するためには改革をしなければならない。改革で成長させ、財源を生み出し、市民に還元してサービスを上げる。その旗振り役を一度、永田町で担わせてもらいたい。
国民・玉木雄一郎代表「50兆円規模の緊急経済対策」
日本は25年間、実質賃金が上がっていない。経済政策を積極財政に転換することによって、賃金デフレを脱却する。傷ついた経済を回復するために、50兆円規模の緊急経済対策を打つ。そして今後10年間でデジタル化、環境、人づくりに投資を行う。人づくりこそ国づくり。この理念に基づいて教育、科学技術の予算を倍増させる。若者政策に力を入れる。
れいわ・山本太郎代表「消費税廃止を含む積極財政」
消費税廃止を含む積極財政をやる。この国は25年の不景気、そこにコロナがやってきたということを政治が理解しなければならない。消費税は社会保障の一部にしか使われていない。法人減税のため、消費税で穴埋めしていたとも言える。徹底した公助を緊急的に国債発行して大胆にやっていく。徹底的にとがった経済政策を国会で広げていくために私たちがいる。
社民・福島瑞穂党首「税金の取り方と使い道変える」
命、くらし、人権を守る。生存のための政権交代を訴える。新自由主義から社会民主主義的政策への転換をしなければならない。税金の取り方と使い道を変える。この3年間、消費税をゼロにし、大企業の内部留保に課税する。ジェンダー平等を実現し、LGBTを含めた多様性のある社会を作る。気候危機を乗り越えるため、脱炭素、脱原発社会を実現する。
N党・立花孝志党首「NHKのスクランブル放送を」
NHKの受信料は公共料金だ。水道や電気、ガス、電話のような公共サービスは料金を払わなければサービスが停止する。今のNHKはデジタル化されているので、NHKだけ映らないテレビが簡単にできる。ほかの党はこれを一切やらないが、我々はNHKのスクランブル放送をめざして頑張っていく。クリーンな政党であるということをアピールしていきたい。
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