河井克行元法相 公選法違反裁判、今日から被告人質問が始まる。「取り返しのつかないことをした。全ての責任は私にある。」

河井克行元法相_被告人質問 政治・経済

2019年参議院選挙をめぐる大型買収事件で、公選法違反(買収、事前運動)罪に問われた衆議院議員の元法相、河井克行被告(58)の公判が3月23日、東京地裁(高橋康明裁判長)であり、初の被告人質問が行われた。

克行被告は地元広島の議員や首長、後援会関係者に対する現金提供について、「妻の当選を得たいという気持ちが全くなかったとは言えない」と述べ、選挙買収だったと一転して認めた。

主張を翻した理由を「認めるべきことは認めることが、政治家としての責任の取り方だと考えるに至った」と説明。「取り返しのつかないことをした。全ての責任は私にある」として議員辞職する意向を表明した。

3月23日から来月9日まで、9回にわたって被告人質問が予定されている。

「結婚20年」「案里の当選得たい気持ち、なかったとはいえない」

産経新聞【克行議員初の被告人質問】 1~7 より抜粋

≪1≫「結婚20年」「案里の当選得たい気持ち、なかったとはいえない」(産経新聞 2021.3.23 12:34) =その1=
=その2=
=その3=

克行被告「令和元年の参院選で広島選挙区は大きく、自民党は2議席を獲得するという党の大方針を実現するために、(自民党公認の競合候補だった)溝手顕正氏に加えて新人である妻、河井案里の当選を得たいという気持ちが全くなかったとはいえない、否定することはできないと考えている。」

「一人一人におけるさまざまな事情、理由は各論で詳しく述べるが、すべてが買収目的であったことはございません。全般的に買収罪ということについては、争うことをいたしません。」

克行被告はこれまでの主張を一変させ、地元議員への買収を認めた。

弁護人「(参院選における)総括主宰者とされていることについては。」

克行被告「活動実態がどうであったか、知りうる限りの事実をご説明させていただきます。一方で、本来ならば県連が果たすべきだった役割、これを補完、代行せざるをえなかったことも事実。総括主宰者にあたるのであれば致し方ない。裁判所におかれましては、適切に判断していただきたい。」

これまでの全面的な対決姿勢が嘘のように、選挙運動の全体を取り仕切る「総括主宰者」であることもあっさりと認めた。

「独房で自問自答」「罪認めることが政治家としての責任」

≪2≫「独房で自問自答」「罪認めることが政治家としての責任」(13:45) =その1=
=その2=

弁護人「なぜ主張を変えたのか」

克行被告「私は東京拘置所に259日間収容され、この法廷に、数えると46回出廷して、多くの証人の皆さんの証言をこの法廷で聞きました。

後援会の三矢会の皆さんは、家族同然です。平成2年に県議に出るため、政治の世界に入ってから30年間、お支えし続けてくれました。

私は世襲でも、官僚出身でもありません。普通の青年でした。そんな私を自分の子や孫、弟のようにお支えし続けてくださったのが後援会の皆さんです。30年経ち、ほとんどが高齢者です。

その皆さんが証言されている姿を拝見し、夜、拘置所の独房で自問自答を繰り返しました。本当に、案里を参院選に当選させたいという気持ちがなかったのか。家族同然の後援会の皆さんが証言されている姿を見て、連日深く自省しました。

その中で、多くの皆さんにご迷惑をかけ、取り返しのつかない心の傷をつけてしまった。中には心身の不調を訴え、入院加療されている方もいると聞いています。そういう話を聞くうち、自らの内面にまっすぐに向き合い、逃げることなく、認めるべきは認めることが、長年にわたり私を支えていただいた皆さまに対し、政治家としての責任と考えるに至りました。」

「神父様からの電話で決心」「衆議院議員を辞す」

≪3≫「神父様からの電話で決心」「衆議院議員を辞す」(14:07) =その1=
=その2=

克行被告「3月3日に保釈を許して頂き、それから間もなくして、20年以上親身になって指導頂いている教会の神父さまから激励の電話を頂戴した。」

克行被告は、神父からの「自分の内面に誠実に向き合ってください」という言葉で、起訴内容の大半を認める決意を固めたと述べた。

克行被告「後援会や、支えてくださった方々に取り返しのつかないご迷惑をかけてしまった。お金を差し上げたことで公職を辞した方もいる。同じ政治の仕事をしているからよく分かるが、実現したい政策があるのに、志半ばで退場を余儀なくされた。心からおわびを申し上げたい気持ちでいっぱいです。」

今後の公判では真摯に対応すると強調する克行被告。続いて、出処進退について問われると、15秒ほど沈黙したのち、口を開いた。

克行被告「衆議院議員を辞することとします。あまりにも多くの皆さまにご迷惑をお掛けし、中には人生を変えてしまった方もいると聞きました。民主主義の根幹である選挙の信頼を損なう行為をした。私にできることは、衆議院議員の職を辞することです。」

「『夫バカ』かもしれないが…」 案里前議員を高く評価

≪4≫「『夫バカ』かもしれないが…」 案里前議員を高く評価(16:53) =その1=
=その2=
=その3=

弁護人「被告人は長い間、案里さんと政治家として一緒にいるが、(案里前議員の)政治家としての資質はどう思っているか。」

克行被告「高く評価している。私は30年近く政治家の仕事をしてきたが、案里ならば国政を十分担うことができる人材であり、彼女なら多くの期待に応えられると思った。」

弁護人「どういった点を評価しているか。」

克行被告「あんまり言うと『夫バカ』になるかもしれないが、他の政治家と比較して感じるのは、まず1つは、時代を先取りした問題意識、政策能力が卓越していた。2つめは、妻の性格。多くの方々と良好で円滑な人間関係(を築き)、私はどちらかというと厳しい人間だが、私と違って人を思いやることができる。胆力もある。自分が正しいと信じることを相手が誰でもひるまず、正々堂々と主張する。」

弁護人「(案里前議員の公認に)県連が消極的、反対する理由は。」

克行被告「長年にわたって、広島の参院選は何もしないで、自民党1議席、野党1議席というぬるま湯につかった選挙。公示日の朝に届け出をした時点で選挙が終わると言われていた。溝手氏や、県連会長を務めていた宮沢洋一氏からすると、河井案里が出馬することで安楽な選挙ができなくなる。それが嫌だと思ったのではないか。」

弁護人「溝手氏の票が奪われるという見方は。」

克行被告「大きく(票が)奪われるなどと予期していない。(ベテランの溝手氏と若手で女性の案里前議員では)顧客層が全然違う。選挙は商品(候補者)とそれを買う(投票する)客(有権者)がいる。公認されることで自民党支持層が溝手氏から河井案里に移ることはあり得ない。」

「街頭演説3000か所」 妻の努力を強調

≪5≫「街頭演説3000カ所」 妻の努力を強調(17:17) =その1=
=その2=

弁護人「案里前議員が(立候補した後に)重要視していたことはなにか。」

克行被告「とにかく、街頭演説を最重要視していたと私は思う。(案里前議員)本人は後任が決まってから3000か所に行ったと言っておりましたが、党の幹部、選挙の専門家、先輩議員から異口同音に言われていたのが『とにかく顔を表に出しなさい』ということだった。『自分で走り回って風を起こしなさい』と。」

弁護人「3000か所回ることは大変だと思うが、案里前議員の様子は。」

克行被告「最後は足の筋肉を痛めて満足に歩けない。案里の場合は、街頭演説だけではない。聴衆がいたら、そこまで走ってそこで握手をする。街頭演説プラス、走りながらやっている。暑い時期ですから、目の角膜がやられて麻酔を打って、死に物狂いでやっていたと聞いていた。」

「是非お聞きしていただきたい」 県連の代わりに党勢拡大と主張

≪6≫「是非お聞きしていただきたい」 県連の代わりに党勢拡大と主張(18:04) =その1=
=その2=

弁護人「なぜ県連は支援しないことになったと思いますか。」

克行被告「大事なところです。是非裁判長にはお聞きしていただきたい。」

突然、目の前の裁判長らに呼びかけた克行被告は、広島県内の情勢について熱く説明を始めた。

克行被告「県連は県議が主体の組織であり、彼らの政治的な目標は、一義的には県政であることが1番大きな違いです。県政の延長線上に国政選挙がある。国政では与党と野党で政策を異にしていますが、広島では共に県政を運営してきた。彼らにとっては、これを維持することが最重要の政治課題なのです。過去21年続いていたように、県知事選挙と国政において自民と民主系の議席を仲良く分け合うことが、彼らの政治的目標なのです。」

弁護人「自民党の大方針は、広島で2議席。」

克行被告「間違いない。県連のホームページと裏腹に党本部では溝手先生と案里を紹介いただいた。党本部のパンフレットにも2人。(当時の)安倍晋三総裁が広島に来たときも溝手先生と河井案里の2人を応援した。決してどちらか1人ではなかった。選挙後に妻が官邸に行った際、安倍(晋三)総裁は『2議席獲得できなかったのが残念だった』といった。」

「『厳しい選挙』政治家の常套句」

≪7完≫「『厳しい選挙』政治家の常套句」(18:55)

2議席を有する参院広島選挙区では、自民党は議席独占を目指し、妻の案里前参院議員と、溝手顕正参院議員の2人を公認したが、党内の亀裂は深まっていた。現職の溝手氏に対し、国政初挑戦の案里氏は当選すら難しいとの見方があった。

弁護人「選挙の情勢をみて、被告人は案里さんに勝算があると考えていたのか。」

克行被告「私は河井案里は当選するだろうと思っていました。」

弁護人「証言の中で、被告人がいろんな人に会う際に『厳しい選挙になる』と言っていたようだが。」

克行被告「政治家にとってそれは常套句ですね。大丈夫と思っても、大丈夫なんて言ったら油断して内部崩壊します。陣営を引き締めるためです。『克行が投開票日の数日前にすごい形相でやってきて、案里の選挙が厳しいと言った』という三矢会の役員の供述(調書)を読んで、しっかり目的が達成できたと思いました。」