「大阪万博は国家事業」って維新のご都合主義では? 整備費は倍以上、建設遅れも…責任はどこへ?

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「大阪万博は国家事業」って維新のご都合主義では? 整備費は倍以上、建設遅れも…責任はどこへ?(東京新聞 2023年9月6日 12時00分)

パビリオン建設が遅れる2025年大阪・関西万博。そもそも開催できるのか、日に日に疑問の声が高まる中、強力に旗振りしてきた日本維新の会から、首をかしげたくなる発言が相次いで出た。「万博は大阪の責任ではない」「国家事業だ」。開き直りや自己保身にも聞こえる言葉。この期に及んで国頼みをあらわにするのは、ご都合主義が過ぎないか。

◆「大阪の責任ではなく…」

「国のイベントなので、大阪の責任ではなく、国を挙げてやっている」

発言の主は日本維新の会の馬場伸幸代表。万博の海外パビリオン建設が遅れている問題を巡り、8月30日の党役員会でこう述べた。

同じ日に記者会見に臨んだのが藤田文武幹事長。馬場氏と歩調を合わすように「(万博は)国家事業」と主張。さらに「与野党の別なく一丸となって結束し、成功に向けて取り組むべきだ」と強調した。

万博に関して「国」を前面に押し出す維新幹部の2人。ただ万博といえば、大阪府と大阪市が深く関与してきたのではないか。

さかのぼること9年前。大阪府の万博推進局によると、大阪維新の会の府議団などが2014年8月、にぎわいづくりの一環として万博の誘致を提案した。

15年には、府が設立した検討会が誘致の可能性検討状況について報告書をまとめ、16年に府の別の会議が基本構想を策定。17年に府市、地元経済界などが主体となって「日本万国博覧会誘致委員会」を設立すると、25年万博への立候補を経て、18年11月に大阪が開催地に決まった。

19年1月には、開催準備に当たる「日本国際博覧会協会(万博協会)」が国主導で発足した一方、協会は府の咲洲庁舎内に事務所があり、府市の職員が派遣されているほか、幹部の副会長には府知事と大阪市長が名を連ねる。費用負担の面でも府市は深く関与しており、協会によると、万博の会場建設費1850億円のうち、国と府市、経済界で3分の1ずつを負担する。

◆維新は選挙公約に「万博の成功に向け」

大阪が地盤の日本維新の会も万博推しだ。

そもそも府市のトップは維新の幹部が務めてきた。昨年の参院選の選挙公約でも「万博の成功に向け、国と開催都市、官民が強力に連携して国内機運の醸成に努めます」「関連事業は会場周辺のみならず大阪府全域を始め、関西や全国へと拡大・展開します」とうたっている。

大阪在住のジャーナリストの吉富有治氏は「もともと万博の誘致で一生懸命旗を振ってきたのは府市であり、維新だ。大阪開催が決まってから最近の選挙まで『誘致に成功したのは維新の功績だ』と大々的に宣伝してきた。地元では万博イコール維新という認識に揺るぎはない」と説く。

その万博を巡っては、最近になってパビリオン建設の遅れが顕在化した。労働規制の緩和を画策しているとも報じられ、強い批判の声が上がっている。

逆風下で維新幹部から出てきたのが冒頭の発言だ。

吉富氏は「もともと旗を振り、会場として夢洲(ゆめしま)を選んだなど『舞台装置』を整えたのに、今になって責任を逃れようとする姿勢はひきょうだし、つじつまが合わない」と批判する。

神戸大の小笠原博毅教授(社会学)も「国政でさらに上を目指す維新にとって浮動票の確保は生命線。市民から支持されないと思ったら、頭の向きを変える政党の体質が現れている」と述べ、開き直りを想起させる姿勢を非難する。

◆高速道路も液状化対策も

維新幹部の発言で気になるのは「万博は国家事業」という部分もだ。この言葉を聞くと、費用面の懸念が浮かんでくる。

会場建設費は先に触れた通り、国と府市、経済界が3分の1ずつ負担する。当初は計1250億円だったが、1850億円に。既に1.5倍だが、資材高騰は高止まりしており、さらに上振れするリスクもある。

万博関連費を巡る問題はこれだけではない。

万博へのアクセスとして使う高速道路の整備では、工法の見直しなどによって2度、工費が増額され、当初1162億円だった整備費は2957億円と倍以上に。この整備は国が55%、市が45%を負担する。

万博開催地の夢洲の跡地にはカジノを中心とする統合型リゾート施設(IR)が予定されているが、用地の土壌汚染と液状化への対策で、市は約790億円の負担を決定している。

そんな中で飛び出したのが「万博は国家事業」という言葉だった。

◆なぜ夢洲でなければいけなかったのか

前出の小笠原氏は「ポピュリズム政党として短期的には無責任だと批判されても、国からの支持と援助を最大限に引き出し、大阪・関西圏の傷を最小限に食い止めて成功にこぎつけたとシナリオを描く維新関係者はいるだろう」とみる。

膨らむ万博関連費を見るにつけ、「地盤に難がある夢洲をなぜ活用しようとするのか」と疑問が湧く。

かつてごみが埋められ、「負の遺産」とも言われた人工島・夢洲を巡っては、2011年の大阪府知事・市長のダブル選後、市のトップになった橋下徹氏が夢洲へのカジノ誘致を検討していることが表沙汰に。今はIRの整備構想が進む。

◆万博はカジノをつくる大義名分にすぎない?

帝塚山学院大の薬師院仁志教授(社会学)は「維新にとっては、もともと夢洲にカジノをつくることが目的。万博はその整備を進めるための大義名分に過ぎない。もっといえば、夢洲の開発そのものを目的にしているように見える。バブルの過剰投資と同じ。維新の理屈は当初から変わっていない」と語る。

維新によって役割の重さが強調された国は最近、どう振る舞っているのか。

8月31日に官邸で開かれた万博に関する会合で、岸田文雄首相は「成功に向けて政府の先頭に立って取り組む決意だ」と表明した。

内閣官房の万博担当者は取材に「関係者が一体となって加速化するという会合だった」と話した。しかし、新しい方策を尋ねても具体的な回答はなかった。

政治評論家の有馬晴海氏は「岸田首相は自分が万博誘致を決めたわけでもなく、思い入れはあまりないだろう。ただ、突き放すことはできないから、あくまで型通りの対応をしただけでは。岸田氏をはじめ、多くの自民党の政治家にとって、『今更泣きつかれても』というのが本音ではないか」と推察する。

◆どこまで必要なのか、議論して中身を練ったのか

とはいえ、国が今以上の役割を担うとなると、追加費用が必要になった場合、さらなる国費が投入される可能性も否定できない。その財源は当然ながら、国民の税金ということになる。

駒沢大の山崎望教授(政治理論)は「維新は党のカラーとして対立構図をつくるのが得意だが、議論や調整は苦手な印象がある。大阪での万博開催ありきで、どこまで日本に必要なのか、議論して中身を練ったのか疑問だ」と指摘する。

このままでは、広く国民の理解は得られないとして、山崎氏はこう提言する。

「現実に今の予定のままの万博ができるとは思えない。計画を縮小し、お金がかからないものにして、合意を広げるしかないのではないか。それができないのなら、撤回を含めて考え直すべきだ」

◆デスクメモ

岸田氏は処理水放出で自らの非を棚上げする。「地元理解なし」を顧みずにいる。維新も万博を巡って自らの責任を棚上げする。第2自民党を体現するのかと皮肉を語る場合ではない。今を放置すれば権力者がやりたい放題に。それを甘受するのか。私たちに問いが突き付けられている。