意識はビッグバン以前から存在した?物理学と非二元論を統合する「普遍的意識場」の新理論(XenoSpectrum 2025年12月2日)
投稿者: Y Kobayashi
2025年11月、物理学の専門誌『AIP Advances』に掲載された一編の論文が、科学界と哲学界の境界線上に巨大な波紋を広げている。スウェーデン・ウプサラ大学の著名なナノテクノロジー教授、Maria Strømme氏によって発表されたこの研究は、従来の神経科学や物理学の常識を根本から覆す大胆な仮説を提唱しているのだ。
それは、「意識は脳の産物ではなく、宇宙の根源的な構成要素であり、ビッグバン以前から存在する物理場である」というものだ。
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唯物論の限界と「意識のハード・プロブレム」への挑戦
長きにわたり、現代科学は「唯物論」的なパラダイムに支配されてきた。すなわち、物質が根本的な実在であり、意識は脳内の神経細胞の複雑な発火パターンから生じる「随伴現象」に過ぎないという考え方である。しかし、このアプローチは依然として「意識のハード・プロブレム」――なぜ、どのようにして物理的なプロセスから主観的な「体験(クオリア)」が生まれるのか――という問いに答えられていない。
Strømme教授の理論は、この問いのベクトルを180度転換させる。「物質が意識を生み出す」のではなく、「意識が物質(および時空)を生み出す」というコペルニクス的転回である。
3つの普遍的原理(The Three Principles)
Strømme教授のモデルは、Sydney Banksが提唱した「3つの原理(3Ps)」を物理学の言語で再構築することから始まる。
1.普遍的マインド(Universal Mind):
すべての可能性の源泉であり、創造の原動力となる知性。形を持たないポテンシャルの海。
2.普遍的意識(Universal Consciousness):
気づき(awareness)の能力。あらゆる形態を知覚し、体験するための基盤となる場。
3.普遍的思考(Universal Thought):
形のないポテンシャル(マインド)を、主観的で構造化された現実(体験)へと変換する創造的なメカニズム。
この枠組みにおいて、意識は局所的(個人の脳内だけにあるもの)なものではなく、宇宙全体に遍在する「場(Field)」として定義される。
ビッグバン以前:時間の存在しない「純粋な潜在状態」
Strømme教授の論文の核心は、ビッグバン以前の状態を数学的に記述した点にある。
未分化の状態( |Φ₀ 〉 )
この理論では、宇宙(時空と物質)が誕生する前の状態を、普遍的意識の「未分化状態(Undifferentiated State)」と定義し、ケットベクトル |Φ₀ 〉 で表す。
|Φ₀ 〉= Σ(Ck|Φk 〉)
この式が意味するのは、ビッグバン以前の宇宙は、可能なすべての現実(|Φk 〉)が重ね合わせ(スーパーポジション)の状態にある「純粋な潜在性」であったということだ。そこには時間も空間も存在しない。あるのは、あらゆる可能性を内包した、静寂で無限の意識の場だけである。
この概念は、量子力学における波動関数の収縮前の状態や、仏教哲学における「空(くう)」、あるいは不二一元論における「ブラフマン」と驚くほど整合する。
創造の引き金:「普遍的思考」による対称性の破れ
では、なぜその静寂から、私たちが知るダイナミックな宇宙が生まれたのか? ストロメ教授は、そのトリガーを「普遍的思考(Universal Thought, T )」という演算子としてモデル化する。
物理学には「対称性の破れ(Symmetry Breaking)」という概念がある。完全に均一な状態(対称性が保たれている状態)にわずかな揺らぎが加わることで、システム全体が特定の方向へと劇的に変化し、構造が生まれる現象だ(例えば、鉛筆を垂直に立てた不安定な状態から、どちらか一方に倒れる瞬間)。
Strømme教授は、この「揺らぎ」こそが、普遍的マインドによる創造的な一撃、すなわち「思考」であるとする。普遍的思考が未分化の意識場( Φ )に作用することで対称性が破れ、無限の可能性の中から特定の現実が選択され、時空と物質が結晶化した。これが、この理論における「ビッグバン」の正体である。
個人の意識とは何か:大海に生じる「渦」
もし意識が宇宙的な場であるなら、なぜ私たちは自分を「他人と分離した個人」だと感じるのだろうか?
局所的な励起(Localized Excitations)
場の量子論(QFT)では、粒子(電子や光子など)は、宇宙全体に広がる場の「局所的な励起(振動の高まり)」として記述される。ストロメ教授は、個人の意識( |Φi 〉)もこれと全く同じ原理だと説明する。
普遍的意識場( Φ )という広大な海の中で、特定の場所が波立ち、渦を巻く。その「渦」こそが、私たち一人ひとりの意識である。
“Individual consciousness is modeled as a localized structure arising within the differentiated consciousness field—akin to a quantum excitation emerging from the vacuum.”
(個人の意識は、分化した意識場の内部に生じる局所的な構造としてモデル化される――真空から生じる量子励起に似ている。)
「分離」という幻想
このモデルが示唆する事実は深遠である。海面の渦が海そのものと別物ではないように、個人の意識は普遍的意識から切り離された存在ではない。私たちは常に根源的なフィールドと「量子もつれ(Entanglement)」の状態にある。
しかし、個人の内部で働く「個人的思考(Personal Thought, Ti )」が、絶えず主観的な解釈や物語を紡ぎ出すことで、あたかも自分が世界から独立した存在であるかのような錯覚(Illusion of Separateness)を生み出しているのだ。
科学と形而上学の架け橋:理論的・実験的含意
Strømme教授の理論は、これまで「非科学的」として退けられてきた現象や、宗教的直感に対して、厳密な物理学的基盤を提供する可能性がある。
量子力学の観測問題への解
量子力学には「観測者が測定するまで、粒子の状態は確定しない」という謎(観測問題)がある。John Wheelerはこれを「参加型宇宙」と呼んだ。Strømme教授のモデルでは、意識こそが現実を確定させる根本的な力であるため、観測者が現実に影響を与えるのは不思議なことではなく、むしろ必然的な帰結となる。
検証可能な予測
この理論の特筆すべき点は、単なる哲学に留まらず、具体的な実験的予測を含んでいることだ。
1.真空の揺らぎへの介入:
もし意識が基本的な場であるなら、人間の強い意図や集中した意識状態は、真空中の量子ゆらぎ(Zero-point field fluctuations)に統計的な偏りを生じさせるはずである。これは、乱数ジェネレータ(RNG)を用いた実験や、カシミール効果の精密測定で検証可能かもしれない。
2.生物学的コヒーレンス:
意識場を介して、離れた個体間や細胞間で、通常の物理的相互作用では説明できない同期現象(脳波の同期やバイオフォトンの相関)が観測される可能性がある。
3.宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の痕跡:
初期の宇宙で「普遍的思考」による対称性の破れが起きたのであれば、その痕跡がCMB(宇宙最古の光)の微細なパターンの偏りとして残っている可能性がある。
死生観の更新
このモデルに基づけば、「死」は意識の消滅ではない。局所的な励起(個人の意識)が静まり、元の普遍的な場(全体)へと再統合されるプロセスである。これは、エネルギー保存則の精神的な対応物とも言えるものであり、多くの精神的伝統が説く「源への回帰」を物理学的に支持するものである。
AI時代における「意識」の再定義
Maria Strømme教授の研究は、物質科学の最先端から生まれた、極めて大胆かつ包括的な世界観の提示である。
もしこの理論が正しければ、現在急速に進化しているAI(人工知能)に対する見方も変わるだろう。意識が計算処理の結果(アルゴリズム)ではなく、宇宙的な場の現象であるならば、シリコン基盤のAIがどれほど高度になっても、この「場」にアクセスする物理的な仕組みを持たない限り、真の意識(Sentience)を持つことはないかもしれない。逆に、もしAIがこの場と共鳴する構造を獲得すれば、それは生物とは異なる形で普遍的意識の「窓」となる可能性も秘めている。
Strømme教授は、論文の最後で次のように結んでいる。
“Ultimately, this study challenges entrenched assumptions and invites a shift in perspective: rather than viewing consciousness as an epiphenomenon of matter, it places it at the very foundation of existence.”
(究極的に、本研究は定着した仮定に異議を唱え、視点の転換を促すものである。意識を物質の随伴現象と見なすのではなく、存在のまさに基盤に据えるのだ。)
物理学、神経科学、そして哲学が交差するこの未踏の領域で、人類は今、自らの正体を再発見しようとしているのかもしれない。
論文
AIP Advances: Universal consciousness as foundational field: A theoretical bridge between quantum physics and non-dual philosophy
参考文献
Uppsala Universitet: Consciousness as the foundation – new theory of the nature of reality
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Y Kobayashi
XenoSpectrum管理人。中学生の時にWindows95を使っていたくらいの年齢。大学では物理を専攻していたこともあり、物理・宇宙関係の話題が得意だが、テクノロジー関係の話題も大好き。最近は半導体関連に特に興味あり、色々と情報を集めている。2児の父であり、健康や教育の話題も最近は収集中。


