チャットGPTに奪われる仕事、奪われない仕事とは? 大きな影響受ける知的労働者(NewSphere May 14 2023)
AI(人工知能)の「チャットGPT」が話題だ。質問にわかりやすく回答を返したり、リクエストに応じてまるで人間が書いたかのような自然な文章を生成したりする。便利な一方、人間の仕事を奪う懸念も出てきた。
米フォーチュン誌は、チャットGPTに詳しい人々を対象とした調査において、回答者の約60%が生産性の向上を期待していると述べた一方、約40%の人々は自分の仕事を失うことを憂慮していると報じている。海外メディアは、チャットGPTによって特定の種類の仕事がなくなるおそれがあると分析している。
頭脳労働の法務スペシャリストに大きな影響
意外なことに、知的労働の代表格ともえる弁護士や企業の法務部門が、チャットGPTによって取って代わられる可能性の大きい職業の一つに挙げられている。
米CBS(2月1日)は、「AIの専門家や法律家によると、チャットGPTの能力は、法曹界でも十分に通用するようだ」と報じている。特に、賃貸借契約や遺言書、機密保持契約書などの書式は定型化されているため、よくできたAIであれば人間に代わって作成可能だという。
コロンビアビジネススクールのネッツァー氏は、「文書の90%はコピー&ペーストされています」と述べる。弁護士事務所などは今後、人間にしかできない依頼とAIに任せるべき依頼をふるい分ける戦略に出るかもしれない。
花形の金融アナリスト・銀行員も変化は避けられず
大量のデータの分析作業は、人間よりもAIの方が得意だ。AIによるチャットボットがすでに投資判断の相談用に利用され始めており、チャットGPTの普及によってこの流れは加速するとみられる。
米キャリアライターのアシュリー・スタール氏は、米フォーブス誌(3月3日)への寄稿のなかで、金融関係へのチャットGPTの適用ルールが明確でない現在、「それでも約32%の銀行が、単純作業、詐欺対策、パーソナライズされたサービスやその他の業務でAI技術を利用しています」と述べている。
AI技術の採用により、北米の銀行全体で2025年までに、700億ドル(約9兆4000億円)を節減できるとの試算があるという。かなりの数の人材がAIに取って代わられるかもしれない。
ライティング・文書作成の分野で広範囲の変化が
ほか、文書作成にまつわる仕事が広く影響を受けるようだ。
米PCマガジン(3月20日)は、チャットGPTの開発元であるオープンAI社による分析をもとに、「最も影響を受けやすい職業は、通訳・翻訳者、詩人・作詞家・創作家、広報担当、作家・ライター、数学者、税理士、ブロックチェーン技術者、会計士・監査人、そしてジャーナリストとなった」と報じている。
データ入力などの単純作業が受ける影響も大きいが、チャットGPTはクリエイティブ分野での職業を奪うおそれもあるようだ。すでに詩や物語などの創作が可能となっているほか、プログラムのコードを出力することもでき、修正なしでそのままコードが動作した例も多く報告されている。
チャットGPTが浸透してもなくならない仕事とは
多くの職種がチャットGPTの脅威にさらされるおそれがあるが、比較的影響が少ないと考えられている分野も存在する。PCマガジンは、オープンAIによる推定をもとに、「対照的に、肉体的な労働が目立つ産業、すなわち、外食産業、林業・伐採業、社会福祉、食品製造業は、潜在的な影響が最も少ないとされている」と紹介している。
インドのエコノミック・タイムズ紙(3月18日)は、世界経済フォーラムによる報告書をもとに、単純に仕事がなくなるのではなく、新しい職業への「シフト」が起きるとの観測を取り上げている。AIが単純作業を担う一方、人間は人材紹介やAI技術の改良などの分野に注力することになる可能性があるという。同報告書はこのようなシフトの結果、およそ9700万件の「未来の仕事」の働き口が創出されると予測している。
既存の産業分野では、人間ならではの能力を磨くことも生き残り策の一つとなる。米キャリアの専門家はフォーチュン誌に対し、「リーダーシップ、共感力、傾聴、問題解決力など、AIが苦手なソフトスキルの強化に力を入れる」ようアドバイスしている。
AIが大なり小なり働き方を変える流れは、もはや多くの職業分野において止められないようだ。