社会保険料に上乗せ、消費税増税…“異次元の少子化対策”「財源」はどうなる? 専門家が解説(Tokyo fm plus 2023-04-14 (金) 20:40)
モデル・タレントとして活躍するユージと、フリーアナウンサーの吉田明世がパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「ONE MORNING」(毎週月曜~金曜6:00~9:00)。4月12日(水)放送のコーナー「リポビタンD TREND NET」のテーマは「異次元の少子化対策 財源の議論スタート」。情報社会学が専門の城西大学 助教・塚越健司さんに解説していただきました。
◆社会保険料に上乗せか、増税か…
「異次元の少子化対策」の実現に向けて、政府は4月7日(金)に「こども未来戦略会議」の会合を初めて開催。財源の議論がいよいよスタートしました。
吉田:塚越さん、「異次元の少子化対策の財源」は「社会保険料を引き上げる案」が有力と見られていますよね?
塚越:政府内では年金や医療、介護、雇用といった各種社会保険料の月額料金を上乗せすることで財源とする案が有力視されています。
会社員の場合は労使、つまり会社と労働者で保険料を納めるため、労使ともに負担が増えます。また、子どものいない人や子育てを終えた人の負担も、当然のことながら増えます。日本社会全体のことなので、どの程度、国民全体を納得させられるかが問われます。
財源確保の方法としては、他に「消費税の増税」と「国債の発行」があります。政府、与党としては、消費税増税は負担が増えたことを感じやすく、国民からの反発がありますが、給料から天引きされる社会保険料は負担を感じにくいことから、保険料の引き上げを選んだといった思惑があると日経新聞は伝えています。
吉田:社会保険料を引き上げる案について、「こども未来戦略会議」の会合ではどのような意見が出たのでしょうか?
塚越:会議には経済界からの出席者もいますが、健康保険や厚生年金は労使で折半、つまり企業にも負担がかかるので慎重論が出ています。
他にも、社会保険は「将来のリスクに備えるもので、少子化問題を社会保険で使うのは本来の使いみちとは異なる」という指摘もあります。子どもは将来の税負担の担い手なので、日本全体の未来を考えれば、国家全体で考えるべき問題とも思えますが、要するに「それは社会保険料引き上げで対策する問題なのか?」という指摘です。
加えて、「社会保険料は現役世代に負担が偏っている」という指摘や、企業としても負担が増えれば賃上げに響くので、それなら全員平等の消費税を検討すべき、という指摘もあります。
これだけでも課題がたくさんあることが分かりますが、さらに保険料の引き上げだけでは負担を賄えないという問題もあります。上乗せ額が月額数百円として計算すると、増える財源は1兆円程度です。政府が先月に出した“たたき台”の中の「支給対象年齢引き上げ」といった児童手当の拡充策だけでも、必要経費は年2兆5,000億円を超える可能性もあり、すべての施策を実行するなら最大で8兆円が必要という指摘もあります。全部を社会保険料にすると相当な負担なので、これをどう調整するかも課題になります。
ユージ:消費税の増税や国債の発行で、財源を賄う可能性はあるのでしょうか?
塚越:岸田文雄首相は、消費税は「10年程度は上げることは考えていない」と否定しています。この他の財源の候補としては「国債の新規発行」があり、与党内には国債の活用を求める声もありますが、鈴木俊一財務大臣は「負担の先送りだ」と慎重です。
すでに10年前にアベノミクスを打ち出したこともあり、日本の国債発行残高が一気に増えており、先進国の中でもとりわけ多いです。そのため、これ以上増やすのは厳しいということです。こう考えると、社会保険料の上乗せ案は、「他が難しいから“消去法”で残った」と朝日新聞は伝えています。
◆国民負担率は5割近く…いずれ限界か
ユージ:塚越さんは、どのような方法で財源を賄えばよいと思われますか?
塚越:「社会保険料か消費税増税か」という議論は、まだまだ、さまざまな観点から詰める必要のある問題です。少子化は国家の一大事なので対策は必要ですが、要するに政府にとっては「いかに反発が少ないか」の議論をしているように見えます。
財源を確保するなら、社会保険だけでなく、消費税増税などもセットで上げていくほうがバランスが取れます。少子化対策を本気で考えるなら、増税も含めて国民を納得させるほうが、国民としても問題を直視できます。
ただし、社会保険料と増税のセットだと、さまざまなルール変更が生じることで、さらなる手間がかかるというデメリットもあります。どこまでバランスよく財源を確保できるかが問われています。
一方で、税や社会保険料などの国民負担率が5割近くになっている日本で、これ以上の上乗せはいずれ限界が来ます。しかし、子どもは将来の税の担い手なので、子どもが減るとさらに国民負担が増えるというジレンマもあります。
難しい問題なのでどうしていくのか。産業構造全般を変えて、生産性を高くする課題もありますが、今のところ財源を引っ張ってこようとすると、このあたりのジレンマを抱えながら、どう調整していくのか本当に難しい課題です。我々全員で考えていかないといけない問題だと思います。
<番組概要>
番組名:ONE MORNING
放送日時:毎週月曜~金曜6:00~9:00
パーソナリティ:ユージ、吉田明世
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/one/