南西諸島にミサイル部隊 最前線のリスク、どう説明(中國新聞 2023年4月5日 最終更新: 07:01)
日本の防衛力の変容が目に見える形で表れているのが沖縄、鹿児島県の南西諸島だろう。
政府は旧ソ連の動向をにらんで北方を重視してきた陸上自衛隊を南方にシフトさせている。2016年、台湾に近い与那国島に沿岸監視の名目で駐屯地を置いたのを最初に四つの基地を島々に開設し、ミサイル部隊を相次ぎ配備している。台湾侵攻の可能性も指摘される中国が、念頭にあるのは間違いない。
今月2日には石垣島(沖縄県石垣市)に開設された陸自の石垣駐屯地の記念式典があった。主力は地対艦、地対空のミサイル部隊である。浜田靖一防衛相はこの島を含めた地域を「国防の最前線」と言い表した。
「自衛隊の空白地域」とされた南西諸島の防衛力を強化する方針は、民主党政権時代の10年に「防衛計画の大綱」で部隊の配備を明記したのが始まりだ。どの政権であれ、想定しうる事態に備えて自衛隊の在りようを見直すことは必要だろう。
ただ南西諸島で考えると地域に十分な説明のないまま、自衛隊のミサイルの拠点としての重要性が一気に高まってきた感がある。防衛政策の大転換を図る岸田政権が「反撃能力」として保有を表明した、敵基地攻撃能力を巡る動きゆえだ。
接近する艦船や航空機を迎撃するだけでなく、弾道ミサイル発射などを防ぐために相手の領域を直接攻撃する―。そうした目的のために防衛省は自衛隊の地対艦誘導弾の射程を大幅に延ばすことを計画する。23年度予算から大幅に増える防衛費が後ろ盾だ。石垣島の部隊が運用するミサイルにしても長距離射程へ改良されていくのは容易に想像できる。また監視部隊がいる与那国駐屯地にもミサイル部隊が新たに置かれる見通しだ。
足元の理解をどこまで得られるだろう。石垣市で3月に開かれた住民説明会で、防衛省側は長射程ミサイルについて明言を避けた。射程は防衛上の機密であり、具体的な話はしたくないという本音も透けて見える。
沖縄には先の大戦で本土防衛の「捨て石」にされた記憶が残る。その中で島々の自治体は反対の声を押し切り、自衛隊の基地を容認した。地域振興の願いも込めた苦渋の選択だったはずだ。ただ状況は変わってきた。駐屯地の新設は受け入れた石垣市で、昨年12月に長射程ミサイルは容認できないとする意見書を議会が可決した意味は重い。
在日米軍を含む過去の基地政策では政府が地域の思いをむげにして、なし崩し的に機能を強化することがままあった。同じことを繰り返していいのか。
少なくとも最前線の基地には相応のリスクが生じることを、率直に住民に伝えるべきではないか。仮に台湾海峡で有事が発生し、日本が集団的自衛権を行使して米軍と一体的な行動に出たとすれば、島々にある「反撃能力」の拠点はどう考えても相手の攻撃目標となりやすい。
万一の際に住民の安全は本当に守れるのか。どこに、どう逃げればいいか。現実的な対応を含めて、より詳細に説明を尽くす責務が政府にはあるはずだ。
岸田文雄首相はきのうの国会で「反撃能力」の運用に関して「個別具体的に判断する」と述べるにとどめた。あいまいな答弁に不安を募らせる人たちに、思いをはせるべきである。