日銀は7月までに金融引き締めへ転じるか エコノミストの過半数が予測という調査結果も 欠かせない景気への影響の分析(論座 2023年04月04日)
榊原英資 (財)インド経済研究所理事長、エコノミスト
日本銀行は2022年12月末、それまでの大規模な金融緩和策の修正を決め、それまで0.25%程度に抑えてきた長期金利の上限を0.5%程度に引き上げた。この日銀による金利上昇の許容は、市場では金融緩和からの事実上の転換にあたると受け止められ、円高・ドル安が加速した。
2022年10月には1ドル147.01円だった円ドルレートは、その後円高に推移して、2023年2月には1ドル132.59円(いずれも月間の平均レート)までになった。おそらく今後も穏やかに円高基調が続いて、2023年末には1ドル130円を切る可能性もあるのだろう。
「出口」の模索が課題となる新総裁
日本銀行は4月9日に植田和男氏が総裁に就任する。戦後はじめての学者出身の総裁。ただ、副総裁には前金融庁長官の氷見野良三氏と日銀理事の内田眞一氏が就任する。学者総裁の脇を財務省・日銀のベテランで固めるという布陣だ。
新総裁に就任する植田氏は、これまでの路線を受け継ぎ、当面は大規模緩和を継続する姿勢を示している。また、植田氏は任期の5年間を「積年の課題であった物価安定達成というミッションの総仕上げを行う5年間」と位置づけ、今の金融緩和策を平時の姿に戻す「出口」も模索していくことになる。だが、その実現にはなお時間が掛かると述べている。また、現在の金融緩和の枠組みについて「さまざまな副作用を生じさせている面は否定できないと思う」とも指摘している。
日銀の現総裁黒田東彦氏は3月28日の参院予算委員会で、次期総裁の植田和男氏について「理論と実務の両面で日銀をリードしていただけると考えている」と述べた。「昔から個人的にもよく存じ上げており、日本を代表する経済学者であるとともに中央銀行の実務にも精通している」と語った。国会は3月10日に次期総裁に植田氏を起用する人事案を承認した。黒田総裁は「総裁を引き継ぐにあたって必要な事項をきちんとお話しするつもりだ」と述べている。
エコノミストは7月までの政策転換を予測
ブルームバーグがエコノミスト43人を対象に3月6日~11日に実施した調査によると、日銀の次の政策対応は全員が「金融引締め」と回答。時期は7月までの3会合で合計52%と過半数に達した。日本の物価上昇率は2023年1月に4.2%、2月には3.6%とデフレ状況から脱却し、3%を上回る上昇が続いている。日銀はここしばらく、景気回復を後押しするために金融緩和政策を続けてきたが、こうしたインフレ気味の情勢に対策するために、政策転換の必要に迫られている。つまり、「金融引き締め政策」への転換というわけなのだ。
2019年~20年と新型コロナウイルスの影響で、マイナス成長を続けた日本経済も、2021年には1.66%、2022年には1.75%(2022年10月国際通貨基金=IMF=推計)とこれまでの1%強という平均成長率より高い成長率を達成すると予測されている。いわば、景気過熱の局面に入ったともいえる状況なのだ。とすれば、金融政策は当然、緩和から引き締めへと転換することになる。
アメリカをはじめ、欧米の中央銀行はインフレを定着させないため、強い覚悟で金融引き締め政策を続けている。アメリカの中央銀行FRB(連邦制度準備理事会)は3月17日、政策金利を0.25%引き上げることを決定。そして、1回当たり0.25%として、今回を含めて年内に7回と極めて速いペースで利上げを進める見通しが示された。
また、欧州中央銀行(ECB)も2月2日の理事会で2会合連続となる0.5%の大幅利上げを決定している。2022年7月にマイナス金利を解除してからは、9月、10月に0.75%、前回12月に0.5%の利上げを決定してきた。政策金利は米金融危機後の2008年11月~12月以来の高水準となっている。
景気への影響に十分な分析が必要
日本もいよいよ欧米なみに金融引き締めレジームに入ってくるという訳なのだ。こうした状況を受けて、おそらく今後穏やかに1ドル120円に向けての円高が進んでいくことになるのだろう。三井住友DSアセットマネジメントは2023年末には1ドル129円を予想しているが、日銀の政策次第ではさらに大幅にドル安・円高が進む可能性があるとしている。また、みずほリサーチ&テクノロジーズも2023年には一段の円高・ドル安を予想しており、前者同様、1ドル129円台までの円高の進展を予想している。
植田日銀新総裁は17年ぶりに金融引き締めに取り組むことになるのだが、はたしてその景気への影響はどんなものになるのだろうか。現状、国内景気は必ずしも強いとは言えず、金利正常化(金融引き締め)に耐えられるかどうか、十分な分析が必要だと言える。また、正常化で中小企業や地域経済の再生策も見直しを迫られることになる。今後、地域経済は正常化(引き締め)でデフレ影響を受ける地域と製造業のサプライチェーンの見直しの恩恵からインフレ影響を受ける地域に二分されるのは避けられず、従来とは異なる再生策が必要となってこよう。