平均賃金30万円…世界でも「日本だけが賃金減」という異常

主要国の平均賃金の推移 政治・経済

平均賃金30万円…世界でも「日本だけが賃金減」という異常(幻冬舎 GOLD ONLINE 2022.10.20)

賃金が上がらない国……そう、たびたび揶揄され、賃上げに消極的な日本企業は、批判の対象となっています。それにしても、なぜ日本企業は賃金をあげることができないのでしょうか。その理由を紐解いていきましょう。

世界主要国で「日本だけが賃金減」という現実

厚生労働省『令和3年賃金構造基本統計調査』によると、 基本給・職務手当、通勤手当、住宅手当、家族手当などを含む「所定内給与額」は平均30万7,400円(男女計、学歴計)。前年となる2020年は平均30万7,700円だったので、全体としては若干下がったことになります。新型コロナウイルス感染症による行動制限、それに伴う経済活動の停滞の影響が、コロナ禍2年目にジワリと出てきたのかもしれません。

頑張って賃金水準を保つ……そんな血の滲むような思いをしている経営者も多いことでしょう。しかし、世界的にみて日本は「賃金の上がらない国」という、ありがたくない烙印をおされています。

前出、厚労省の調査で、所定内給与の推移をみてみましょう。1980年代、日本人の賃金は平均4.2%程度の伸び率を誇っていました。バブルが崩壊した1990年代は大きく上昇率を下げ、平均1.7%程度の伸びに。そして1990年代後半に勃発した不良債権問題で、2000年代にかけて日本の経済はボロボロに。賃金も下落という、戦後日本が初めて経験する事態に陥りました。2010年代はアベノミクスなどで経済が上向きになっていたこともあり、賃金の下落はそうなくなりましたが、以前のような伸びは一切なくなったといっていいでしょう。

出所:厚生労働省『賃金構造基本統計調査』より

賃金が上がらないこの状況、世界的にみてどうなのでしょうか。OECDの資料で賃金の伸び率をみていくと、トップは「エストニア」で1995年の賃金を100とした際、2021年の賃金は1,071.4%。以降「リトアニア」「ハンガリー」「メキシコ」「ポーランド」と続きます。それに対して「日本」は96.9%で、対象国33ヵ国中33位と最下位。このポジション、1998年以降の定位置になっています。

先進7ヵ国に限定すると、トップは「米国」で240.6%。「英国」221.0%、「カナダ」202.8%、「フランス」173.1%、「ドイツ」168.2%、「イタリア」166.5%。日本の停滞ぶりが浮き彫りになります。

なぜ日本だけが「賃金停滞」に陥ったのか?

なぜここまで日本企業は賃金をあげることができなかったのでしょうか。よく言われるのが、日本企業の労働生産性の低さです。同じくOECDの資料から、「1人当たりの労働生産性」をみていくと、トップは「アイルランド」で22万6,616米ドル。「ルクセンブルク」「ノルウェー」「米国」「ベルギー」と続きます。

では「日本」はというと、7万9,031米ドルで、対象47ヵ国中30位。お隣の「韓国」は23位、ひとつ上の順位は「ポーランド」、ひとつ下は「クロアチア」。先進7ヵ国で比べてみても、「日本」は圧倒的最下位です。

ただ昔から日本は労働生産性の高い国ではありませんでした。世界でも日本が栄華を誇っていた1990年、この時の日本の1人当たりの労働生産性は3万8,825米ドルで、対象32ヵ国中15位、先進7ヵ国では6位でした(ちなみに当時の7位は「イギリス」)。

戦後、日本の人口は大きく伸び、1967年に1億人を突破。豊富な労働力を背景に、労働集約型のビジネスで豊かになっていきました。「効率」で劣っても「数」「量」でカバーしてきたわけです。しかしバブル崩壊、深刻な不良債権……日本経済が大きく後退するなか、世界ではIT化が一気に進みます。もちろん、日本でもその流れはありましたが、世界と比べると、ITに対しての投資は消極的。世界はITの力で効率化を進め、労働生産性を高め、賃金に反映させていきました。日本は完全にこの流れに乗ることができなかったわけです。

完全に世界から置いてかれた日本。そんな状況下、「DX推進」が強くいわれています。経済産業省では、DXを以下の通り定義しています。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」

出所:経済産業省『DX推進ガイドライン』より

そして経産省は、このDXの推進に躍起になっているのです。そこでキーワードになるのが「2025年の壁」。経産省のDXレポート内で提起されたもので、DXが実現しなかった場合、既存システムのブラックボックス化などにより、最大で年12兆円もの経済損失が生じるとされています。当然、DXが実現できなかった企業も大きな損失を被ることになるのです。

一方で、2025年の壁を克服できれば、日本の実質GDPは130兆円以上押し上げることができるといいます。企業としては、さらなる成長と賃金アップで従業員に還元できるチャンスだといえるでしょう。

2025年まであとわずか。DX実現に向けてスピード感もって対応することが、企業には求められています。