人類を救う頭脳はこの国にあった…!人工光合成、培養肉、量子コンピュータ…「世界を変える日本の天才たち」(「週刊現代」2022年10月8日号より 2022.10.11)
「週刊現代」2022年10月8日号より
前編記事『この国はまだ戦える…!キヤノン電子、クボタ、NEC、パナソニック…とんでもない技術を開発する「日本のすごい企業」』では、世界に誇る高い技術力を持った日本企業をみてきた。本記事では、日本で行われている最新研究を担う研究者たちを紹介する。
日本人だけが研究してきた
地球温暖化を防ぐために脱炭素の気運が高まっているが、そのためにも水素は重要な役割を担う。化石燃料を使うことなく水素を取り出すことができれば、温室効果ガス削減に与える影響は計り知れない。鍵となるのが、人工光合成だ。
東京理科大学教授の工藤昭彦氏が解説する。
「水素製造には大きく二つの方法があります。再生エネルギーで電気を作り、その電気で水を分解し、水素を作るというもの。これは欧州などで盛んです。
もうひとつは、水に光触媒を混ぜ、太陽光が当たると水素ができる人工光合成。’70年代に酸化チタンに光を当てると水が酸素と水素に分解されることが明らかになり、これが世界的なインパクトをもたらして’80年代に世界中で研究されました」
当時の研究はすべて失敗に終わり、’90年代にはほとんどの研究者が撤退した。しかし、東京大学特別教授の堂免一成氏を筆頭に日本の研究者だけは連綿と研究してきた。
「’00年代に入って、新しい光触媒の研究やソーラー水素製造の実証試験が進み、低コスト技術となりうる人工光合成は再び注目を集めています。
ただ、まだ高効率に水素を生み出せる光触媒が開発されていない。これが克服されれば、純国産の科学技術で世界の資源・エネルギー・環境問題を解決に導くことができるでしょう」(工藤氏)
培養牛肉で人類を救う
日本の人口は減少を続けるが、世界人口は30年後に100億人に達するとされる。食糧不足に悩む人類を救う研究を進めるのが、東京大学大学院教授の竹内昌治氏だ。
「牛などの細胞を体外で培養して肉を作っていこうというのが、私たちの研究です。今年3月にしゃぶしゃぶ肉くらいのサイズを試食することができ、今は味を再現しようとしています。
肉本来の味はどのように生まれるのか。たとえば、細胞に様々な刺激を与えて培養の条件を変え、研究しているところです。食べる用途での培養なら、5年か10年くらいでの完成を目指せるかもしれません」
熾烈な量子コンピュータ開発競争
従来のコンピュータの演算能力を遥かに超える量子コンピュータには、あらゆる分野から注目が集まる。中国は’20年に量子コンピュータ試作機「九章」を用い、当時最速の計算速度を誇った日本のスパコン「富岳」だと6億年かかる計算を、わずか200秒で処理したと発表した。
桁違いの演算能力を誇る量子コンピュータの実用化に、早稲田大学発ベンチャーNanoQTは同大学理工学術院教授の青木隆朗氏が開発したナノファイバー型共振器を使って挑戦する。同社CEO廣瀬雅氏に聞いた。
「量子コンピュータが実用化されれば、現在のコンピュータでは現実的な時間内で解くことができない問題の答えにも到達できるようになります」
量子コンピュータの世界は、米IBMやグーグルがしのぎをけずり、両社とも100量子ビット前後の量子コンピュータを発表した(量子ビットとは量子コンピュータで扱われる情報の単位)。
「量子コンピュータとして実用化されるには100万量子ビットが必要とされています。私たちが使うナノファイバー共振器なら、少なくとも1万量子ビットの原子を収容することができる。理論上はこれをファイバーで100基つなげば、量子コンピュータのハードウェアが完成する。さらにそれらを通信用ファイバーでつなげば、量子ネットワークの実装が可能になります。チャレンジングな試みですが、世界標準を取れる技術だと思っています」(廣瀬氏)
「天才」たちがいる研究室から、人類を救う技術が生み出されるのか。