岸田政権の原発推進方針は「火事場泥棒的」 提言発表の原自連・河合弘之弁護士に聞く(東京新聞 2022年9月18日 06時00分)
原発再稼働の推進や次世代型原発の新増設検討などの方針を打ち出し、原発推進の姿勢を鮮明にする岸田政権に対し、批判の声が上がっている。「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」(原自連)は8月末、速やかな脱原発と再生可能エネルギーへのシフトを提言。原自連の幹事長を務め、数多くの原発関連訴訟に携わる河合弘之弁護士は「ウクライナ危機を口実にした原発回帰は、火事場泥棒的な政策転換で許されない」と批判する。提言の背景を聞いた。
河合弘之 かわい・ひろゆき 弁護士
1944年、旧満州(現中国東北部)生まれ。東京大法学部卒。高度成長期には経済事件で手腕を発揮した。2011年3月の東京電力福島第一原発事故後、全国の弁護士と「脱原発弁護団全国連絡会」を結成した。福島事故を巡り、東京地裁が今年7月、東電旧経営陣4人に計13兆円超の賠償を命じた株主代表訴訟では、原告弁護団共同代表を務めた。
速やかな脱原発を求める提言を発表した「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」(原自連)幹事長の河合弘之弁護士は、原発関連訴訟での経験を踏まえ、原子力政策の矛盾を厳しく批判。再生可能エネルギーの積極的な導入の必要性を強調した。主な一問一答は次の通り。
ウクライナ侵攻で「リスク」明白に
― 政府は脱炭素化に向けた課題を議論するGX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議で、東京電力福島第一原発事故以降の原子力政策の転換を目指す方針を示した。
ロシアのウクライナ侵攻という火事場に乗じ、どさくさに紛れて原発推進を打ち出したもので許されない。そもそもウクライナ侵攻の教訓は、原発がいかに軍事攻撃に弱いかということで、安全保障上のリスクであることが明白になった。そのことを無視して、化石燃料の確保に懸念があるから原発に回帰するという論理は破たんしている。
電力需給の逼迫は喫緊の課題だが、原発の再稼働には時間がかかる。急場の対策に長期策を用いる形で、すっとんきょうな話だ。
そのような思考の背景にあるのは、政府や電力業界に根付く「原発は推進しなくてはいけない」という信仰だ。かつて原発マネーで潤ってきたからだろうが、福島第一原発事故を経験した日本が原発推進に前のめりになる姿は、まさに『原発カルト』と言うほかない。
長期的問題に目をつむる「原子力ムラ」
― 多くの原発関連訴訟に携わり、政府や電力業界の原発に対する姿勢はどのように感じるか。
訴訟を経験して痛感するのは、いわゆる「原子力ムラ」は「今だけ、金だけ、自分の会社(組織)だけ」という行動原理。原発を運転するともうかるから、今動かせればいい。
運転すると核のごみが発生するのに、その処分先をどうするのかなど長期的な問題には目をつむる。不合理がまかり通っている。
悲劇忘れず 再生エネを安定電源に
― 提言では、再生可能エネルギー100%を目指すべきだとした。
原発に比べ、太陽光や風力による発電は格段に安全だ。一戸建て住宅の屋根や田畑などを活用して太陽光パネルを設置していけば、地域分散型で大規模停電が起きにくい強靱な社会をつくることができる。
太陽光と風力をしっかりと組み合わせれば、安定した電源にもなるはずだ。脱炭素化に向けては原発に頼らず、再生可能エネルギーの導入を徹底することが合理的な答えだと思う。
― 原発推進に向けた動きが強まる中で、市民に考えてもらいたいことは。
福島第一原発事故が起きたときの恐怖を忘れないでほしい。あのとき、首都圏に住む私たちも、飲み水が大丈夫かなど恐怖を身近に感じた。それでもまた原発に回帰していいのか。「のど元過ぎれば熱さを忘れる」で済ませてはいけない。
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原自連の提言骨子
・原発再稼働せず速やかに廃止せよ
・原発は電力不足、気候変動対策に役立たない
・小型原発(次世代型原発)は無駄な開発投資で即刻中止すべき
・国は全力をあげて再生可能エネルギー100%を目指すべき
原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟
脱原発や自然エネルギー推進団体の連携を目指す全国組織で2017年4月に発足。顧問は小泉純一郎元首相。今年8月30日、政府にエネルギー政策の見直しを求める提言を発表した。
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