統一教会の過激分派「サンクチュアリ教会」の正体 自民党の議員が関連集会で応援メッセージも

東京で開催された講演会で話す、サンクチュアリ教会指導者の文亨進氏 社会

統一教会の過激分派「サンクチュアリ教会」の正体 自民党の議員が関連集会で応援メッセージも(東洋経済ONLINE 2022/09/05 5:20)

藤倉 善郎 : ジャーナリスト

安倍晋三元首相殺害事件で現行犯逮捕された、山上徹也容疑者が所属していたのではないかとして、世界平和統一家庭連合(旧・統一教会、以下、統一教会)とは別の団体の名が浮上したことがある。「サンクチュアリ教会」だ。実際には、山上容疑者とこの団体の接点を示す証拠はなかったが、サンクチュアリ教会は統一教会の分派であるうえ、統一教会とは違った意味で注意が必要な団体だ。

特集「宗教を問う」の第3回は、同教会の内実をジャーナリストの藤倉善郎氏が描く。

射撃訓練も行う「銃の教会」

サンクチュアリ教会は、アメリカ・ペンシルベニア州に本拠地を置く統一教会の分派だ。指導者・文亨進(ムン・ヒョンジン)氏は統一教会教祖、文鮮明(ムン・ソンミョン)氏の7男だ。

統一教会では2012年の教祖の死去後、妻・韓鶴子(ハン・ハクチャ)氏と子どもたちとの間で後継者争いが勃発。韓氏が実権を掌握し、教団を離脱した亨進氏が4男の国進(クッチン)氏の支援を受けて、2015年に設立したのがサンクチュアリ教会だ。

銃を崇拝し、亨進氏や信者たちが自動小銃を構え、銃弾を束ねた王冠を頭に載せた姿で礼拝することから、アメリカでは「銃の教会」として知られている。テネシー州の山中に土地を購入し、信者たちが銃の射撃訓練も行う。サンクチュアリ教会を支援する国進氏が、アメリカで銃メーカーのカーアームズ社を経営するなど、とにかく「銃」がつきまとう教団だ。

亨進氏は参院選公示日の6月22日に来日。7月13日まで日本に滞在して、九州から北海道まで講演会を行う日本縦断ツアーを開催していた。安倍元首相殺害事件の発生は、参院選終盤の7月8日だ。それまでに亨進氏は、6月25日(東京)、29日(久留米)、7月2日(大阪)、6日(名古屋)に講演を行っていた。

事件直後、一部メディアが山上容疑者について、統一教会を辞め別の分派組織に所属していたと報じたことや、元首相を自作銃で殺害した山上容疑者のイメージが「銃の教会」と重なったこともあったのだろうか。一時、ネット上では山上容疑者がサンクチュアリ教会の信者だとする噂が出回った。

ただ、同教会は安倍政権時に官邸前で首相を応援する街宣を行ってきた大の安倍ファンであり、山上容疑者が信者だとは考えにくい。

アメリカからやってきた「Qアノン教団」

しかし今回の殺害事件と無関係に、注視すべき団体であることには違いない。筆者は事件の約2週間前の6月25日、東京・新橋のホテルで開催された亨進氏の講演会を潜入取材していた。

400ほど並べられたパイプ椅子はほぼ満席。さすがに銃を持つ信者はいなかったが、一部は王冠をかぶり、銃弾を束ねて王冠にしている信者もいた。見たところプラスチック製のレプリカの銃弾だ。

亨進氏登壇の前に、亨進氏の歩みを紹介するビデオの上映や、スライドでの解説が行われた。そこには、アメリカ大統領選時に亨進氏をはじめとする信者たちが、アメリカでトランプ氏応援デモに参加したり、日本の信者が日本国内で同様のデモや街宣を行ったりした様子も映し出された。

2020年の大統領選では、一般投票日前日に亨進氏が信者に向けて、「ドナルド・トランプ大統領のために武装して死ぬ準備をしなければならない」との趣旨のスピーチを行ったと現地メディアが報じた。

トランプ氏の敗北が決定的となった2021年1月には、トランプ氏を支持する陰謀論集団「Qアノン」が連邦議会を襲撃し、5人の死者を出す事件を起こしている。その直前、Qアノンは議会前で選挙を不正だと主張する抗議集会を行っており、亨進氏もそこに参加していた。

日本での講演会では、サンクチュアリ教会の日本組織の代表者がこんな説明をしていた。

「(キリスト教の聖書の)黙示録6章にありますが、赤い馬が暴れまわる中国・北朝鮮、白い馬が暴れまわるグローバリスト、黒い馬のディープ・ステート、そして緑の馬のイスラム圏。そしてコロナ。これは中国の生物兵器です」

確かに「ヨハネの黙示録」には馬による厄災のエピソードは存在するが、いうまでもなく「ディープ・ステート」などといった記載はない。

ディープ・ステートとは、Qアノンたちがいう「(トランプ氏が戦いを挑んでいる)アメリカ政府を支配している影の政府」のこと。亨進氏とサンクチュアリ教会の主張や行動は、ほぼ「Qアノンそのもの」と言っても過言ではない。

マスクを着けると「政府の奴隷」に

講演を行った亨進氏も頭に銃弾の王冠を載せた姿で新型コロナワクチンを批判し、ワクチン普及を共産主義者の陰謀だと語った。

「生物兵器(新型コロナ)にかかっても、99.7%の人は免疫力で勝つことができる。それが科学だ。なのにマスクを着けろと言う。マスクを着けた者たちは政府の奴隷になる」(亨進氏)

「共産主義者たちがTwitter(でのワクチン批判)を禁止し、ファイザー社はワクチンを売って800兆ウォンも儲けた。ロビー活動で政治家にカネを撒いた。ワクチン接種を3回受けたら90%以上、自分の免疫システムが壊れていく。若い者たちも突然、心臓麻痺で死んでいるという」(同)

新型コロナワクチンを否定する陰謀論では、しばしば、ワクチンの目的はディープ・ステートなど影の権力者による人間管理と人口削減と説明される。

「世界経済も壊されていき、日本もガソリン代、食料費が上がり、世界供給ラインが壊されている。それは中産階級を殺す作戦だ。これが共産主義だ。政治サタン主義だ」(同)

親トランプも反共も、統一教会本家と酷似している。しかし統一教会が系列メディアなどを通じて発信する言論が「それなりに」冷静な装いであるのに比べて、亨進氏の言葉は過激で煽情的だ。

統一教会を非難し自警団結成を呼びかけ

サンクチュアリ教会は統一教会とは敵対しており、亨進氏は講演中に何度も統一教会を「詐欺」、母親の韓氏を「詐欺女」などと罵った。会場に紛れ込んでいた統一教会信者たちが大声をあげて抗議したら、会場からつまみ出されていった。

別の会場での講演会では、「マスクを着けてデモをする家庭連合(統一教会)は負け犬」と対抗意識も見せた。

7月2日に大阪で行われた亨進氏の講演会を、筆者はリモートで視聴した。そこで亨進氏は、日本での自警団結成を呼びかけた。

「(日本では)銃が持てないから軍の訓練ができない。それは言い訳だ。隣人と無線機パーティーをやって味噌ラーメンを食べましょう。無線機をあげて互いに気遣い合う。そうやって伝道していく。これが平和軍警察だ」

さすがに日本で自警団を作っても銃の射撃訓練等をするわけにはいかず、無線機の購入やその訓練など、別の方法で世界戦争や内戦に備えろというのだ。実際、サンクチュアリ教会の信者は過去にも日本国内の山中でサバイバル訓練を実施している。

統一教会は、「反共」を旗印に自民党を中心とする保守系政治家と関わってきた。反共産主義という点は、サンクチュアリ教会も同様だ。

日本のサンクチュアリ教会信者たちは、少なくとも2018年頃から首相官邸前で、安倍首相(当時)やトランプ大統領(同)を応援する街宣を隔週で繰り返してきた。安倍氏が辞職すると、今度は菅義偉首相を応援した。

2020年のアメリカ大統領選の際には東京、大阪、福岡でトランプ氏応援デモを繰り返した。デモの文脈は、中国共産党と戦ってくれるトランプ氏を応援しようというもので、「Take Down CCP!」(中国共産党を倒せ!)と叫んだ。2021年には反北京冬季五輪のデモも行われた。

自民党議員が応援メッセージ

2021年12月12日に都内で開催されたデモでは、日比谷図書館内のホールでの集会も開催された。ともに主催者は「北京五輪ボイコット推進集会・デモ実行委員会」。

サンクチュアリ教会単独ではなく、保守系の活動家や識者などとの寄り合い世帯。とは言え、実質的にそれまでトランプ支援デモなどを繰り返してきたサンクチュアリ教会の信者たちの運動がベースとなっており、彼らも壇上で挨拶をした。

この集会には、国会議員からの応援メッセージも寄せられ、壇上で主催者が代読した。送り主は、杉田水脈、三ッ林裕巳両衆議院議員、山田宏、和田政宗両参議院議員。いずれも自民党だ。

霊感商法が社会問題となった統一教会との関わりは、言うまでもなく問題だ。しかしアメリカで「Qアノン武装ゲリラ」とも呼ぶべき活動をしているサンクチュアリ教会がらみの集会に応援メッセージを寄せるのは、文字通りの「公共の安全」に関わりはしないだろうか。

藤倉善郎(ふじくら・よしろう)
ジャーナリスト。1974年生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から自己啓発セミナーを取材。2009年にニュースサイト「やや日刊カルト新聞」を開設。