中村逸郎教授、プーチン大統領のがん引退報道「真実に近い情報」NATOとロシアの全面衝突を懸念
中村逸郎教授、プーチン大統領のがん引退報道「真実に近い情報」NATOとロシアの全面衝突を懸念(スポニチ 2022年5月7日 10:56)
ロシア政治を専門とする筑波学院大・中村逸郎教授が、7日放送のABCテレビ「教えて!ニュースライブ 正義のミカタ」(土曜前9・30)に生出演。プーチン大統領の動向について語った。
番組はイギリスの大衆紙3紙が、プーチン大統領の胃がんが進行しており、今月9日の戦勝記念日後に手術して数日入院。その間は信頼できる人物であるパトルシェフ氏(安全保障会議書記)に大統領権限を委託すると報じたことを紹介。
中村教授も「プーチン大統領は甲状腺がんを患い、がんが体の中に広がっているのではと言われている」とがん説に賛同し「本当は4月末に緊急で手術した方がいいということだったらしいが、やはり5月の戦勝記念日は自分がやりたいということで先延ばしにした」と語った。そして「実はプーチン大統領とパトルシェフさんは2人きりで2時間、政権移譲または指揮権を譲るということで会議した情報も流れている」と2人の間では話が進んでいるのではとした。
さらに、中村教授は「イギリスの大衆紙(が報じた)というのがポイント」と説明。というのもロシアの大富豪「オリガルヒ」がどんどんロンドンに逃げ込んでいるため「そこにプーチン政権の情報がどんどん入ってくる。イギリス紙が報じてるのはかなり真実に近い情報が出てきている」という。
「私の見方では」と前置きした上で中村教授は「プーチン大統領は特別な軍事作戦が思ったように進まなくて、嫌になった。今回の軍事作戦もパトルシェフさんに後ろから“やれやれ”と言われやってしまった結果、上手くいかなかったと。自分の体調が悪いということで、パトルシェフさんの方に政権移譲してしまうのでは?」と分析し、プーチン大統領以上に強攻とされるパトルシェフ氏に警戒を強めた。
その上で「こういった動きをすべてNATOが握っている」と中村教授。アメリカ、フランス、イギリス、ドイツ、ポーランドの軍がウクライナに入る準備をしているとし「NATOはプーチンでなくパトルシェフさんが出てくることを前提に動き出している。戦勝記念日の後にNATOとロシアの全面衝突は避けられないのでは?」と戦闘の厳しさが増す恐れがあるとした。
プーチン「大国ロシア復活の幻」を支える闇のサークルの正体
プーチン「大国ロシア復活の幻」を支える闇のサークルの正体(FRIDAY 3/22(火) 11:02配信)
「ロシアではなく、プーチンを観察し、分析する」軍事ジャーナリスト・黒井文太郎氏がたどりついた「この戦争の結論」は。プーチンと仲間たちの「大国ロシア復活の夢」が始めた戦争には、出口がない。
孤独な独裁者を支える「サークル」の存在
独裁者として君臨するプーチンに対し苦言を呈することのできる人間は、ロシアにはいない。政権幹部も全員が、プーチンの前では緊張し、独裁者の機嫌を損ねないようにビクビクしている。
逆に見れば、プーチンは孤独だ。しかも彼は、2020年の新型コロナのパンデミック以降、人と会うことを極端に避けるようになった。クレムリンにいることはほとんどなく、豪華な別荘に引き籠って暮らした。独裁者は精神的にも物理的も孤独だ。
しかし、彼には彼を長年にわたって支えてきた側近たちがいて、きわめて少人数のインナーサークルを作っている。では、そこにはどんなメンバーがいるのか。以下にリストアップしてみる。
ニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記
現在のプーチン政権で唯一、「プーチンの盟友」と呼べる実力者。もともとKGBレニングラード支局で長く働き、同じレニングラード出身のKGB職員だったプーチン大統領とは、ほぼ同年代。冷戦終結後もKGB後継組織で働き、プーチンが出世すると彼に引き上げられるかたちでパトルシェフも出世。FSB(連邦保安庁)副長官を経て、プーチンの次のFSB長官に就任した。
その後2008年より、プーチン政権の安全保障戦略を統括する安全保障会議のトップである書記に就任。プーチンが独裁者となる過程で重用した情報機関・軍の出身者たちを指す「シロビキ」の代表的人物。プーチン大統領以上のタカ派的姿勢で知られる。
ユーリー・コバルチュク
プーチン大統領の個人資金を管理する側近。サンクトペテルブルクに本店を置く「ロシア銀行」(※ロシア中央銀行ではない)の最大株主でもある億万長者。プーチンの隠し資産でもある豪奢な別荘の提供者のひとりで、その中でも最も親密。
プーチンはコロナ禍以降、多くの時間をコバルチュク提供別荘で過ごしているとみられる。現在、人と会うことの少ないプーチンが、最も多くの時間をともに過ごしている人物とも言われている。
イーゴリ・セチン国営石油会社「ロスネフチ」会長
冷戦時代は貿易部門や軍の通訳として海外勤務経験があるが、実際にはKGB工作員だったとみられている。その後、出身地のレニングラード行政機関に移り、冷戦終結後もそのままサンクトペテルブルク市行政分野で働き、当時、副市長だったプーチンの側近となる。
その後も常にプーチンの傍らにおり、プーチン政権では大統領府副長官兼大統領補佐官を経て、国営石油会社「ロスネフチ」の会長に就任。パトルシェフとともに「シロビキ」の実力者といわれる。一時期、ロシア副首相も務めた。
ドミトリー・メドベージェフ安全保障会議副書記
レニングラード出身だがプ―チンよりひと回り以上若い。レニングラード大学法学部でサプチャーク教授と会い、サプチャークが政界に転じるとその秘書的立場になる。その縁でプーチンの同僚となり、側近となる。
プーチンが中央政界で出世するのに合わせて引き揚げられ、大統領府第1副長官、天然ガス会社「ガスプロム」会長、大統領府長官などを歴任。プーチンの大統領選の選対本部責任者も務めた。
プーチンが一時的に首相に退いた期間、その事実上の代行として大統領を務めた。その後、首相を経て2020年から安全保障会議副書記。
アレクサンドル・ボルトニコフFSB(連邦保安庁)長官
プ―チンと同世代で、同じKGBレニングラード支局で長く勤務。冷戦終結後もFSBに残り、FSBサンクトペテルブルク支局長、FSBレニングラード州局長、FSB本部経済安全保障局長、FSB副長官を歴任した。
レニングラード支局時代からのプーチンの古くからの知り合いだが、力関係は完全にプーチンが上位。2008年からFSB長官。
セルゲイ・ナルイシキンSVR(対外情報庁)長官
レニングラード出身で経済専門家となり、冷戦期の一時期はベルギーで勤務する。海外勤務にあたりKGBの訓練を受けたが、その時にプーチンと知り合ったとの未確認情報がある。いずれにせよ冷戦終結後にサンクトペテルブルク市行政分野でプーチンの下で働く。
プーチンより2歳年下で後輩扱いされている。プーチン政権下で副首相、大統領府長官、下院議長を歴任し、2016年からSVR長官。
ドミトリー・コザク大統領府副長官
ウクライナ出身だが、レニングラード大学法学部を卒業後、レニングラード市行政当局、冷戦後はサンクトペテルブルク市行政当局に勤務し、副市長だったプーチンの腹心となる。
同市副市長を経て、プーチンの出世にともなって大統領府第1副長官、南部連邦管区大統領全権代表、副首相などを歴任。モルドバ紛争や2014年のクリミア侵攻・併合でも暗躍。現在、プーチン政権で情報工作活動を含むウクライナ問題統括を担当している。
バチェスラフ・ボロジン下院議長
プ―チンの大統領選挙で選対本部長を務め、大統領府第1副長官、副首相、与党「統一ロシア」総書記、下院副議長などを経て、現在は下院議長を務めている。
セルゲイ・ショイグ国防相
冷戦時代は建築技師を経て地方行政で働き、冷戦終結後に非常事態相として長く務めた。2012年、モスクワ州知事を短期間務めた後、プーチンよって国防相を任された。軍歴のない国防相だが、ロシア軍当局は掌握している。プーチンのイエスマンとみられている。
ワレリー・ゲラシモフ参謀総長
機甲部隊指揮官などを経て、レニングラード軍管区司令官、モスクワ軍管区司令官、参謀本部副長、中央軍管区司令官を歴任。2012年に参謀総長に任命された。政治的動きは示さないプロの軍人。第1国防次官も兼務している。
側近中の側近「番外:2人のイワノフ」は…
プ―チンはロシア国内で独裁権力を勝ち取る間、若い頃からの友人や後輩から仲間内グループを作っていた。多くはKGB出身で、さらに多くはレニングラード出身もしくはレニングラードを活動拠点としていた古い「友人たち」だ。その中心的存在である旧情報機関・軍の出身者は「シロビキ」と呼ばれた。前述した面々でいえば、パトルシェフ安全保障会議書記、セチン国営石油会社「ロスネフチ」会長、ボルトニコフFSB長官などがいる。
その他、初期のシロビキの代表格がいた。セルゲイ・イワノフとビクトル・イワノフの「2人のイワノフ」だ。
セルゲイ・イワノフはレニングラード大学、KGB上級学校とプーチンの同期の竹馬の友で、冷戦終結後はSVR(対外情報庁)で活動。プーチンがFSB(連邦保安庁)長官に抜擢されたときに、SVR欧州局次長からFSB次官に迎えられ、さらに安全保障会議書記、国防相、大統領府長官を歴任するが、2016年に退任している。
他方、ビクトル・イワノフはプーチンより2歳年上の元KGB職員。KGBレニングラード支局勤務時代にプーチンと親交を深め、冷戦終結後にプーチンがサンクトペテルブルク副市長の時に同市行政に参加。プーチンのFSB長官就任で同部局長に。以後、FSB次官、大統領補佐官などを歴任した。その後、連邦麻薬取締庁長官を長く務め、2016年に退任した。
この2人のイワノフこそ、シロビキの中心人物で、とくに後者のビクトル・イワノフはプーチンに最も近い側近中の側近だったが、ともに現在の動静が不明である。
ロシア暗黒時代の「屈辱」への反動
以上のような面々が、現在のプーチン大統領を支える代表的な人物だ。プーチンへの影響力という点では、冷戦時代のKGB職員時代からの「同志」であるパトルシェフ安全保障会議書記の存在感が頭一つ抜けている。今回のウクライナ侵攻でも、プーチンとともに積極的に推進したのは、おそらくこの人物だろう。
プーチンとパトルシェフは、90年代のロシア暗黒時代に30代から40代を過ごし、子どものころから叩き込まれてきた「ソ連全体主義社会」への屈折した憧憬を内心に溜め込んだのではないか。そして、プーチンが政権を掴んだときに、ソ連共産党・KGB式の秩序回復と大国ロシアの復活を誓ったのではないか。
彼らは、その復讐にも似た「大国ロシアの復活」という強い目的のためには、他人を殺戮することも厭わない。その結果が、この悲惨な侵略戦争という気がしてならない。
黒井文太郎:
1963年生まれ。軍事ジャーナリスト。モスクワ、ニューヨーク、カイロを拠点に紛争地を多数取材。軍事、インテリジェンス関連の著書多数。
取材・文:黒井文太郎