もし小泉進次郎が総理大臣になってしまったら…!「親譲りのアメリカの操り人形」「日本破壊が加速する」と言える、これだけの理由(現代ビジネス 2024.09.06)
藤井 聡 京都大学大学院工学研究科教授
環境大臣就任で「化けの皮」が一気に剥がされた
自民党総裁選の有力候補として、TVで中心的に取り沙汰されるのが小泉進次郎氏だ。確かに一般国民対象の世論調査における「一番人気」は進次郎氏であることは間違いないが、総裁選というのは単なるアイドルグループの人気投票ではない。日本の命運を担う総理を決する選挙なのだ。
その点を鑑みたとき、この「小泉人気」は、極めて危険な社会状況であるという旨を、8月29日公開の「『地頭がよくない』『日本は終わる』…選挙用の人気というだけでやらせてよいのか、小泉進次郎『総理』へのこれだけの疑念と酷評」で展開した。
この記事では、小泉氏は確かにアイドル的人気はあるものの、「環境大臣」に就任した折りに多くの市井の民が驚く「小泉構文」とも揶揄される意味不明な「ポエム発言」を繰り返し、瞬く間に政治家・大臣としての「資質」に大いに疑問符が付くこととなった、その結果、政治記者達からも自民党議員達からも完全なる「ダメ出し」を出され、「オワコン」化していたのだ、と解説した。
つまり、定型的な演説やワンフレーズトーク以外は可能な限り自由な発言を控え、「ナイスガイ」イメージを保つ戦略を続けてきた小泉氏の「化けの皮」が、環境大臣に着任し公然と言葉を発しなければならなったことで一気に「剥がされた」のである。結果、進次郎氏の総理の目は完全に「潰えた」と多くの政治記者や議員達が認識するにいたったのだが、この度の岸田総理の退任表明を機会に、またぞろ人気が一気に上昇したというわけだ。
もう以上の指摘だけで、小泉氏に総理を「やらしちゃいけない」と判断するに十分な理由が与えられているとも言えようが、その理由は実はそれだけに留まらない。
以上は「総理としての資質を著しく欠いている」というものだが、実際にはそういう“消極的”な理由だけでなく、「日本の国益を毀損し、日本破壊を加速する」という、より“積極的”でより恐ろしい理由を指摘することができるのだ。
純一郎氏と同様、米国の意向に沿う政治を展開する
そもそも小泉進次郎氏は、彼自身がどこまで自認しているかはさておき、「アメリカのジャパンハンドラー達の意向にそって、アメリカの国益のために日本を積極的に傷付ける政治」を実際に展開してきた人物なのだ。
多くの国民が認識していないところだろうが、進次郎氏は日本を代表する親米政治家であった父・小泉純一郎氏の差配の下、アメリカのCSIS(戦略国際問題研究所」)の研究員を勉めていた人物なのだ。
CSISは「アメリカの国益」を最大化するために設立されたシンクタンクだ。つまりそれは定義上、アメリカの国益のためには日本の国益を毀損することを全く厭わない研究を進めるシンクタンクだ。
そして進次郎氏はそのCSISで、後の彼の政治家人生に決定的な影響をもたらす重大な転機を迎える。小泉進次郎氏を政治学者として徹底研究し、進次郎氏がいかなる政治家であるのかを客観的に描写した中島岳志氏は、次のように指摘している。
「(進次郎氏は)ここ(CSIS)でジャパンハンドラーズの代表的人物とつながり、影響を受けます。彼らは日本の有力政治家と接触し、自らの利益にかなう方向へと誘導することで知られます。小泉さんの外交・安全保障観は、親米を軸に構想されています。」(東洋経済ONLINE、2019年7月14日「小泉進次郎という政治家を徹底分析してみる」)
ちなみに、「ハンドラー」とは「操る者」という意味であり、「ジャパンハンドラー」とは「日本を操る者」の意だ。
では実際に進次郎氏は、CSISのジャパンハンドラーズ達に陰に陽に「操られ」てきたと言えるのだろうか? この点は、彼がこれまで実際に何をやってきたのかを振り返ればスグに理解できる。
自由貿易のための「改革」で日本の農業破壊
まず進次郎氏は、TPPをはじめとした「自由貿易」推進のための「改革」に熱心に賛成した。無論TPPそれ自身は紆余曲折したわけだが、元来TPPは日本のマーケットを狙う米国が、日本国内の様々な規制を緩和、撤廃させようとして仕掛けたものだ。そしてその推進にあたって、ジャパンハンドラーズ達は、日本国内の「ハンドル」である進次郎等を通して、日本のTPP加入を推進せんとしたである。
TPPや自由貿易協定によって米国は大きな利益を得ることになるのだが、その一方で日本は極めて深刻な被害を受けることになる。この<真実>に思いが至っている国民は、専門家も含めて限られているだろうが、その被害は現在の「農業」の状況を見れば一目瞭然だ。
TPP等による様々な貿易協定によって日本は国内の農業を積極的に「保護」することをどんどん放棄していったわけだが、その結果、農家の所得が激しく下落してしまった。例えば、最新の統計では平均年収(収入から必要経費を引いた額)はわずか「1万円」という信じがたい水準にまで下落してしまっている。そうなれば農業の若い担い手はますます減少し、2040年には農家が3分の1にまで激減すると見通される程にまで立ち至ってしまっている。
そしてそれが、現下のスーパーの棚から米が消えるほどの米不足にもまた、繋がっていることは明らかであるが、こうして日本はTPPをはじめとした自由貿易の推進によって大きな被害を実質的に受けるに至ったのである。そしてその一方で、日本の食料についての外国依存が不可避的に進行し、アメリカ等の諸外国が日本人相手のビジネスをますます拡大することとなったのである。
言うまでも無いが、もしも日本が自由貿易に対してここまで前のめりでなければ、農家の所得は守られ、ここまでの国益毀損は回避されていたことは確実だ。
アメリカによる「農協乗っ取り」工作に貢献
進次郎氏はこうして、アメリカが望む方向、すなわち、日本の農家を潰し、アメリカの農家の収入の拡大に貢献したわけだが、彼が取り組んだのはTPP等の自由貿易協定の締結推進だけではない。彼はより“直接的”に、アメリカが望む日本の農業潰しに積極的な活動を展開したのだ。
彼は自民党の農業部会長を勤めていたが、この時に彼が熱心だったのが「農協改革」だった。
日本の農業は、諸外国に比して政府からの「公助」の水準が圧倒的に低く、したがって、農家同士が助け合う「共助」の仕組みとしてJA農協が発展させ、その勢力の維持を図ってきた。
しかし、そんな農協の「せい」では、日本の農業が一定「守られて」しまい、それがアメリカの農家のビジネス拡大にとっての大きな「障害」となっている―――というのがアメリカの見立てだ。アメリカはしたがって、日本の農協を解体せんと様々な画策を進めてきたわけだが、そんなアメリカの意向にそった仕事を「与党農業部会長」の立場を駆使して徹底推進せんとしたのが、進次郎氏だったのだ。
彼は農協の「株式会社化」を図るのだと主張し、農協の重要な金融機関である90兆円もの資金を抱えた「農林中金」を解体し、農業の“護送船団”を改革するのだと主張した。さらに、農家同士の「協力」関係を解体し、さまざまな「競争原理」を各所に導入すべきだと主張した。
こうした改革は全て、アメリカの国益に叶うものだ。農協の各種取引が自由化され、株式会社化されれば、アメリカ人が株主になることで、農協が持つ膨大な資産をアメリカの産業界、農業界が好き勝手に利活用し、米国益を拡大することが可能となるからだ。しかも「農林中金」が自由化されれば、アメリカがその膨大な資金を「活用」して利益を拡大することが可能となる。この後者の改革論は、父親の小泉純一郎総理がアメリカの要望に従って「郵便貯金」を自由化せんとしたのと全く同じ構図にある。
結局、こうした改革論の全てが成就することはなかったが、彼が総理になれば、こうした「アメリカ国益に叶う改革」を推進することは確実だ。
新たな売国案件である「ライドシェア」に奔走
最近では、小泉氏は「ライドシェア」なるものを、(今回の総裁選の後ろ盾である菅元首相と共に)日本のタクシー市場に導入しようと躍起になっている。それは要するに、日本会社が一定の法規制の中でタクシーサービスを提供しているタクシー市場の規制を抜本的に緩和し、米国企業のウーバーをはじめとした外国企業でもタクシー市場でビジネスができる環境を整えようとする、新たな「売国案件」だ。
タクシー市場の規制は、タクシードライバーの賃金を確保し、国民が必要とするタクシーサービスを提供可能な十分な担い手を確保するために必要なものだ。これを抜本的に緩和し、(ウーバーらが提供するシステムを使って一般の運転手が通常のクルマを使って客を運ぶ)ライドシェアができるようにすれば、ウーバーら外国企業は日本で金儲けができるチャンスは拡大する一方で、ドライバー一人あたりの賃金が下落し、タクシーサービスの水準が劣化することが必至なのだ。
ところが、進次郎氏はそういう議論に全く頓着せず、ひたすらに「日本にライドシェを導入すべきダ!」と主張しつづけている。今の所、進次郎氏がイメージするような形でライドシェアは導入されておらず、かろうじて日本のタクシーサービス水準の抜本的下落は回避されてはいる。しかし、小泉氏が総理になれば無論、確実にライドシェアを彼のイメージする方向で導入することとなろう。そしてその「方向」は無論、アメリカが望む方向なのだ。
かくして小泉進次郎総理の誕生は、その政治家としての基礎的能力の不足故にまっとうな政治が進められなくなる、という問題があると同時に、アメリカのジャパンハンドラー達の「操り人形」として、日本の国益がより積極的に破壊されていく深刻なリスクがあるわけだ。しかも国益毀損の程度から言うなら、この後者の問題の方が、より深刻だと言えよう。
以上の分析を通して筆者は、小泉進次郎氏の総理就任は、極めて深刻な国難状況をもたらすであろうと確信しているのである。
なお、本稿で指摘したのは「アメリカ」からの影響が肥大化するという指摘であったが、進次郎氏が巨大な影響を受けるのはアメリカだけではない。国内最強組織とも言われる財務省の影響を濃密に受ける政治家でもある、という点を忘れてはならない。この点も、今財務省が後生大切にしている「プライマリーバランス規律」を導入した父純一郎氏の生き写しなのだ。
だからこそ進次郎氏が岸田氏の「増税メガネ」路線を踏襲することは確実なのだが―――この点を指摘するにはまた一定以上の解説が必要となる。ついてはその論点については次回の記事にて、改めて解説することとしよう。
【詳しくはこちら】『「地頭がよくない」「日本は終わる」…選挙用の人気というだけでやらせてよいのか、小泉進次郎「総理」へのこれだけの疑念と酷』
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藤井 聡 SATOSHI FUJII 京都大学大学院工学研究科教授
元内閣官房参与。京都大学レジリエンス実践ユニット長。1968年、奈良県生まれ。京都大学卒業、同大学院修了後、同大学助教授、東京工業大学教授等を経て現職。2012年より2018年まで安倍内閣・内閣官房参与にて防災減災ニューディール政策を担当。専門は経済財政政策・インフラ政策等の公共政策論。文部科学大臣表彰・若手科学者賞、日本学術振興会賞等受賞多数。著書に『MMTによる令和「新」経済論』(晶文社)、『令和日本・再生計画』(小学館新書)など。「正義のミカタ」(朝日放送)、「東京ホンマもん教室」(東京MXテレビ)等のレギュラー解説者。2018年より「表現者クライテリオン」編集長。