高市早苗政調会長が更迭へ 安倍氏の“使い捨て”が派内造反の火種になる可能性

2016年8月3日、東京の首相官邸にて。安倍首相、稲田朋美防衛大臣、高市早苗総務大臣(肩書きは当時) 政治・経済

高市早苗政調会長が更迭へ 安倍氏の“使い捨て”が派内造反の火種になる可能性(週刊ポスト 2022.04.10 11:00)

参議院選後の内閣改造・党人事で高市早苗・政調会長の更迭が確実視されている。安倍晋三・元首相の後ろ盾を失いつつあるためだ。総裁選であれほど高市氏をあれほど全面支援しながら、安倍氏は高市氏を安倍派に受け入れようとはしない。それは安倍氏が自民党最大派閥「清和政策研究会」(現・安倍派)の会長に就任(昨年11月)してから顕著になった。安倍派ベテランはこう話す。

「派内には下村博文・会長代理をはじめ、萩生田光一・経産相、世耕弘成・参院幹事長、福田達夫・総務会長、稲田朋美・事務局長などポスト岸田を目指す総裁候補が綺羅星の如く並んでいる。そこに総裁選出馬の実績がある高市さんが出戻ってきたら、総裁候補の地位を奪われかねない。だから派閥復帰には派内の反対が強い」

振り返ると、安倍氏の“マドンナ切り捨て”は今に始まったことではない。

第1次安倍政権では現東京都知事の小池百合子氏を総理補佐官や防衛大臣に抜擢したが、首相に返り咲くと第2次政権からは一転して干し上げた。かわりに重用したのが“タカ派のジャンヌダルク”と呼ばれた稲田氏だった。

当選3回で規制改革相に入閣させたのを皮切りに、自民党政調会長、防衛大臣を歴任させ、一時は党内で「安倍の後継者」とさえ言われた。

防衛大臣時代に同省の不祥事対応などで能力不足が露呈して事実上解任された後も、すぐに総裁特別補佐や幹事長代行の役職を与えて復権させたほどだ。

ところが、稲田氏が総裁選出馬に意欲を見せ、「選択的夫婦別姓」容認に転じると一転して距離を置いた。総裁選への協力要請にも、安倍氏は「一歩一歩頑張ればいい」とクビを縦には振らなかった。

「自分の役に立つと思えば、肩入れして持ち上げるが、言うことを聞かなくなったり、自分の立場を脅かすかもしれないと警戒すると容赦なく突き落とす。まさに権力者の常套手段です」

そう語るのは政治評論家の有馬晴海氏だ。

安倍氏は退陣後も最大派閥の会長として権力を持ち続け、総裁カードを次々に切り捨てて後継者が育つことを許さない。そのスタイルは“闇将軍”と呼ばれた田中角栄氏にも似ている。有馬氏が続ける。

「キングメーカーの安倍氏はこれまで高市氏を通じて佐渡金山の世界遺産推薦など、岸田政権に注文をつけてきた。しかし、ロシアのウクライナ侵攻によって、プーチン大統領を外交パートナーとしてきた安倍氏への評価は国際的にも国内でも非常に厳しくなっている。党内での立場が相対的に弱まってきたから、岸田首相に配慮しなければならない。3月14日に行われた麻生、茂木氏との3者会談で『政権を支える』と合意したのがその表われです。

安倍氏は平然と岸田批判を口にする高市氏にこれまでのように肩入れするわけにはいかなくなった。首相が内閣改造で高市氏を交代させると言えば反対しないはずです」

ところが、高市氏の更迭は党内の権力バランスの大きな変化につながりそうだ。“闇将軍”の角栄氏は最後は派内から“クーデター”を起こされて失脚、結束を誇った田中軍団は分裂に追い込まれ、自民党の世代交代を引き起こした。

実は、最大派閥の安倍派内では、安倍氏が派内から総裁候補を立てようとしないことに不満が溜まり、「安倍離れ」が始まっている。

「総裁選出馬を止められた下村さんや稲田さんは安倍さんに対して不信感を拭い切れていないし、側近の萩生田さんも自分の支持層は安倍さんの岩盤保守とは少し違うと考えている。だから福田総務会長を含めて、総裁候補たちは安倍さんに頼らなくてもいいようにそれぞれ個別に勉強会を開くなど自前の勢力拡張を急いでいる。皮肉なことに、安倍さんに一番忠実なのは無派閥で自分の勢力がない高市政調会長ではないか」(前出・安倍派ベテラン)

そんな状況で安倍氏がいまや“唯一の忠臣”である高市氏を見捨てれば、「安倍さんに従っても使い捨てられる」と派内から造反の火の手が上がり、角栄氏の“二の舞い”となる可能性がある。それが岸田政権を支える最大派閥の崩壊へとつながれば、自民党に激震を呼ぶのは間違いない。

※週刊ポスト2022年4月22日号