インボイス導入根拠がついに論理破綻! 「消費税は預かり金ではない」と政府が国会で認めた決定的答弁の詳細(集英社オンライン 2023.02.28)
インボイス導入根拠として政府が繰り返し主張してきた益税(消費者が業者に支払った消費税の一部が、納税されずに業者の利益となってしまうこと)の存在。しかし、2023年2月10日 衆議院内閣委員会で「消費税は預かり金ではないため、益税は存在しない」ことを遂に政府が認め、その導入根拠は根底から崩れることとなった。国会答弁に基づいてレポ―トする。
30年以上に及ぶ消費税の誤解
「消費税を支払っているのは消費者である」
「消費税は『預かり金』(=納税前に事業者が消費者から一時的に預かるお金)である」
「免税事業者(年収1000万円以下の事業者)は、消費税を横取り・ピンハネすることで『益税』と呼ばれる不当な利益を得ている」
消費税やインボイスに関連して、政府・財務省・国税庁はこのような主張を長年繰り返しており、新聞・テレビもこの見解に従った報道を続けている。そのため、これらが正しいと信じている国民が大半だ。しかし、実はこれら3つの主張は全て真っ赤な嘘であることが30年以上前(消費税の解釈が争点となった1990年3月26日 東京地裁判決)に司法の場で明らかになっている。
判決に基づいて、3つの主張を正すと、
「消費税を支払っているのは事業者である」
「消費税は『預かり金』ではない」
「免税事業者に『益税』は存在しない」
となる。この判決以降、消費税が預かり金ではない(=益税は存在しない)という「不都合な真実」を国民に知られたくない政府・財務省・国税庁は「消費税は『預かり金』的な性格を有する」という微妙な言い回しで誤魔化し続けてきた。
しかし、2023年2月10日の衆議院 内閣委員会(質問:れいわ新選組 多ヶ谷亮 議員、答弁:自民党 金子俊平 財務大臣政務官)で、こうした益税論争に終止符を打つほどインパクトのある決定的な政府答弁が飛び出した。
遂に政府が「消費税は預かり金ではない(=益税は無い)」と国会で明言。必然的に「税の公平性」というインボイスの導入根拠も偽りと露呈。本記事では質疑内容に沿って、この歴史的な政府答弁を解説していく。
消費税は「預かり金」ではなく「益税」は存在しない
本質疑で大変重要な意味を持つ1990年の東京地裁判決については、前編でも紹介した。簡単におさらいすると、この判決では、消費税について以下の重要な判断が示された(この司法判断は2023年2月現在も維持されている)。
・消費者が事業者に支払う消費税分は商品や役務の一部であり、消費税は預かり金ではない。
・ゆえに、消費税相当の一部が事業者の手元に残ったとしてもピンハネではなく、益税に当たらない。
さらに、財務省や自民党が積極的に益税の存在を主張する今となっては信じがたいが、被告側の旧大蔵省(財務省の前身)や自民党も訴訟では判決とほぼ同じ内容を主張。益税の存在を否定していたのである。
*判決の詳細は筆者のtheletter「「私たち消費者は消費税を支払っていない」 判決と法律に基づいて益税の誤解を解く」(2022年10月21日)参照
多ヶ谷議員はこの判決の経緯をきっちり紹介した上で、今現在の政府の認識を質問。
*上記は主な論点について筆者による図解を加えた質疑映像。該当シーンは3分57秒から。外部配信サイト等で動画を再生できない場合は筆者のYoutubeチャンネル「犬飼淳」で視聴可能
【れいわ 多ヶ谷】(1990年東京地裁判決では)「益税、預り税ではない」と言っています。また、「消費税は売上金の一部であり、預かり金ではない」となります。そこで政務官にお伺いします。消費税はこの旧大蔵省が主張したとおり、「預かり税じゃない」ということで、よろしいですか?
【自民 金子 財務大臣政務官】多くの皆様方に誤解を与える答弁を過去ずっとさせて頂いているのかもしれませんが、「預かり金的な性格でありまして預かり税ではありません」という答弁を過去ずっと財務省はさせて頂いております。
【れいわ 多ヶ谷】「預り税ではない」ということでよろしいですね?
【自民 金子 財務大臣政務官】その認識で結構でございます
【れいわ 多ヶ谷】「預り税ではない」ということで私の認識と一致しております。要するに、「益税は無い」ということですね。そういうことですね。益税には当たらないと。
出典:2023年2月10日 衆議院 内閣委員会
このように多ヶ谷議員は何度も念押ししながら、「消費税は預かり金(税)でなく、益税も無い」という趣旨の政府答弁を明確に引き出している。一方の金子財務大臣政務官はあたかも従来も同じ答弁を繰り返してきたかのように振る舞っているが、事実は異なる。
これまで政府は「消費税は『預かり金』的な性格を有する」という微妙な言い回しに終止し、「消費税は預かり金ではない(=益税は無い)」と明言する答弁は頑なに避けてきた。そこまでして長年隠してきた「不都合な真実」を政府がハッキリと認めたという意味で、この答弁は歴史的と言える。
ドミノ倒しのにように崩れていくインボイスの導入根拠
この歴史的答弁を受けて、多ヶ谷議員はインボイスの導入根拠を政府に問い質す。政府がその導入根拠に挙げていた「税の公平性」の大前提である益税(=免税事業者は消費税をピンハネして不当な利益を得ている)を自ら否定した直後のため、金子財務大臣政務官は完全に答弁不能に陥る。
*上記は主な論点について筆者による図解を加えた質疑映像。該当シーンは5分53秒から。
*これ以降、金子財務大臣政務官は質問と無関係な原稿を読み上げるばかりのため、答弁は適宜省略して記載。
【れいわ 多ヶ谷】そもそもインボイスはなぜ導入されるんですか?
【自民 金子 財務大臣政務官】消費税が10%に上がるにあたりまして(中略)10%と8%の税率が2つ存在する中で(中略)税率に見合った税額分をご負担頂くために導入させて頂くことになりました。
【れいわ 多ヶ谷】本当ですか? それ? 今、「益税も無い」と。「預り税ではない」という話でした。(中略)「税の公平性」と言うんだったら、そもそも益税は無いのだから論理破綻してませんか?
【自民 金子 財務大臣政務官】消費税は(中略)事業者の方々が価格転嫁できることは重要であると考えております。
*筆者注:質問と無関係な「消費税の価格転嫁の考え方」を長々と答弁
【れいわ 多ヶ谷】いや、何言ってるかちょっと分からない。質問に答えてないです。もう1回。役人の方もちゃんとしないと、政務官が恥をかきますよ。
【自民 金子 財務大臣政務官】繰り返しになりますけど(中略)消費税は消費税分が売上時に対価に含まれて納税されるまでは事業者のもとに留まることから預かり金的性格を有すると財務省からは説明させて頂いています。
*筆者注:質問と無関係な「預かり金の従来説明」を長々と答弁
【れいわ 多ヶ谷】根本的に会話が噛み合ってないですけど・・。
出典:2023年2月10日 衆議院 内閣委員会
3回連続でトンチンカンな答弁が続いたことで、多ヶ谷議員は諦めて次の論点に話を移したが、政府がインボイスの導入根拠に挙げてきた「税の公平性」は完全に論理破綻していることが国会で明白になったとも言える。
実は、昨年2月〜3月の国会質疑では別の観点(政府がインボイス導入根拠に挙げる「8%と10%の商品をまとめて10%で控除した事例」は本当に存在するのか)で「インボイスの導入根拠は無く、本当の目的は将来的な20%超の消費増税である」ことが岸田文雄総理および鈴木俊一財務大臣の答弁で垣間見えていたが、今回は益税という観点でもインボイスの導入根拠が無いことが明らかになった。
*昨年2月〜3月の国会質疑の詳細は筆者が寄稿した集英社オンライン「インボイス導入の本当の狙いは「消費税20%超増税」への布石か?」(2022年6月23日)参照
しかし、残念ながら新聞・テレビはこうした重要な国会質疑の存在自体をことごとくスルー。多くの国民が実態を知らぬまま、実質的な増税ともいえるインボイス制度が今年10月に導入され、将来的な20%超の消費増税への布石になろうとしているのだ。
*消費税やインボイスについて新聞・テレビが不正確な報道を続ける背景は筆者がtheletterで公開した以下2本の記事参照
「【独自】インボイスの問題を大手メディアが報道できない本当の理由」(2023年1月21日)
「【独自】公開質問で浮き彫りになった、メディア各社のインボイスの本当の理解度」(2023年2月7日)
文/犬飼淳
前編:インボイス制度に待った! ほとんどの国民が知らない「実は消費者は消費税を払っていない」という真実はこちら