安保関連3文書を閣議決定 安保政策転換 反撃能力の保有明記
安保関連3文書を閣議決定 安保政策転換 反撃能力の保有明記(毎日新聞 2022/12/16 16:54 最終更新 12/16 21:30)
政府は16日、外交・防衛政策の基本方針「国家安全保障戦略」など安保関連3文書を改定し、閣議決定した。安保戦略は、相手国のミサイル発射拠点などをたたく反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を明記した。2027年度に防衛費と関連経費を合わせた予算水準を現在の国内総生産(GDP)比2%に増額する方針も掲げた。専守防衛に徹する方針は今後も変わらないとしたが、相手国内を攻撃する能力を保有してこなかった従来の安保政策を大きく転換することになる。
岸田文雄首相は閣議決定を受け、記者会見した。日本の防衛力について「率直に申し上げて現状では十分ではない」との認識を示し「相手に攻撃を思いとどまらせる抑止力となる反撃能力は今後不可欠となる能力だ」と強調した。その上で「今後とも専守防衛は堅持していく」と語った。
閣議決定した3文書は安保戦略のほか、国家防衛戦略と防衛力整備計画。防衛戦略と整備計画は、従来の防衛計画の大綱(防衛大綱)と中期防衛力整備計画(中期防)から改称した。安保戦略は13年に第2次安倍政権下で初めて作られ、改定は今回が初めて。
安保戦略は反撃能力について、既存の「武力行使の3要件」に基づき「攻撃を防ぐのにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置」と定義した。北朝鮮や中国を念頭に「我が国周辺」のミサイル能力の向上に言及し「相手からの更なる武力攻撃を防ぐために必要」と強調した。「日米が協力して対処していく」と掲げた。
政府は反撃手段に長射程ミサイルを想定する。整備計画は、陸上自衛隊の地対艦ミサイルの改良型や、米国製巡航ミサイル「トマホーク」を配備する方針を盛り込んだ。26年度にも配備する。防衛費は23~27年度の5年間で43兆円程度とした。19~23年度の中期防の1・5倍を超える水準に相当する。
安保戦略は、中国の動向について、国際秩序に対する「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と表現した。前回の安保戦略で日本や国際社会の「懸念事項」とした表現も「深刻な懸念事項」に強めた。
核・ミサイル開発を進める北朝鮮は前回の「重大な脅威」から「一層重大かつ差し迫った脅威」に変更した。ロシアは前回、協力相手との位置付けだったが、今回はウクライナ侵攻などを受け「安全保障上の強い懸念」に改めた。
重要物資のサプライチェーン(供給網)強化など経済安全保障政策の推進も盛り込んだ。
<Q&A>敵基地攻撃能力の保有を明記する安保関連3文書とは…
<Q&A>敵基地攻撃能力の保有を明記する安保関連3文書とは…(東京新聞 2022年12月16日 06時00分)
敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を明記する安全保障関連3文書はどんなものか、なぜ三つに分かれているかなどについてまとめました。
3文書とは何ですか。
外交・防衛の指針である「国家安全保障戦略」と、防衛計画の大綱(防衛大綱)から名称を変更する「国家防衛戦略」、中期防衛力整備計画(中期防)を改称する「防衛力整備計画」のことです。
それぞれ5〜10年の中長期を想定して安全保障上、必要な政策などが盛り込まれています。3文書が同時に改定されるのは初めてです。
3文書の関係は。
2013年に初めて策定され、今回が初改定となる国家安保戦略が最も上位の文書です。安倍晋三元首相が掲げていた「積極的平和主義」に基づく外交と防衛の政府方針が記されています。
敵基地攻撃能力に関しては、国家安保戦略で保有を打ち出し、国家防衛戦略で使用する際の要件、防衛力整備計画で関連する装備を明らかにすることになります。
国家防衛戦略の変更点は。
防衛大綱は10年程度を念頭に、防衛力整備の目標や部隊運用の指針を定めていました。改定を機に、防衛力強化の中身や、具体的な目標を実現する道筋などを詳しく示すことにします。
国家安保戦略の下に国家防衛戦略がぶら下がるのは米国に倣った仕組みで、政府は軍事戦略が日米でより共有しやすくなると考えています。
防衛費総額や主要装備を記した中期防はこれまで「お買い物リスト」とも呼ばれていました。
政府は、武器の種類や人件費を含めた防衛費の総額を明記することで、野放図な支出に歯止めをかける狙いとしています。
防衛力整備計画では5年間で計約43兆円の防衛費の大幅増が明示され、最終年度には国内総生産(GDP)比2%へ膨れ上がる見通しです。中長期的な視点で防衛力を強化するため、10年後を見据えた自衛隊の体制も明らかにする方針です。
「戦争ではなく平和の準備を」安保関連3文書改定、憲法学者らが対案公表
「戦争ではなく平和の準備を」安保関連3文書改定、憲法学者らが対案公表(東京新聞 2022年12月16日 06時00分)
政府が16日に閣議決定する方針である外交・防衛の指針「国家安全保障戦略」など安全保障関連3文書に関し、憲法学者らによる「平和構想提言会議」は15日、3文書に現行憲法では認められないような内容が盛り込まれているとして、対案と位置付ける提言「戦争ではなく平和の準備を—”抑止力”で戦争は防げない—」を公表した。政府が進める敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有や防衛費の大幅増を批判し、憲法9条に基づく専守防衛の堅持や、外交交渉で緊張緩和を実現する重要性を訴えている。
政府・与党の考え方「極めて短絡的で危険」
提言では、3文書改定は日本の安保政策の大転換となり、「日本が自ら戦争をする国家に変わる」と指摘。改憲が必要になるほどの重大な政策転換であるにもかかわらず、「国会の徹底的審議もないままに憲法の実質が勝手に上書きされようとしている」と懸念を示した。
その上で、政府・与党の議論の中心にある「軍事力の増強が抑止力を強め、平和を担保する」という考え方を「極めて短絡的で危険」と問題視。防衛力強化がかえって周辺国との軍拡競争を招いて戦争のリスクを高めると警鐘を鳴らし、今こそ憲法9条が定める平和主義の原則に立ち返るべきだと強調する。
「国民的な議論もなく勝手に決めていいわけがない」
今後、取り組むべき具体策として、朝鮮半島の非核化に向けた外交交渉の再開や中国を「脅威」と認定しないことなど、アジア諸国との対話の強化を提唱。専守防衛の堅持も明記し、米国製巡航ミサイル「トマホーク」など敵基地攻撃能力の保有につながる兵器の購入や開発の中止を求めた。
憲法や国際政治、軍縮の専門家、市民団体代表ら有志の15人でつくる同会議は15日、国会内で記者会見した。共同座長の学習院大の青井未帆教授(憲法学)はオンラインで参加し、「憲法9条があるのに、なぜ先制的な反撃が可能になるのか。議論が圧倒的に足りない」と幅広い議論を呼びかけた。
上智大の中野晃一教授(政治学)は敵基地攻撃能力の保有に関して「国民的な議論もなく勝手に決めていいわけがない。認めないとはっきり言っていく必要がある」と訴えた。