被害者救済法案/泣き寝入り防ぐ仕組みに(神戸新聞 社説 2022/12/07)
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の霊感商法や高額寄付の問題を巡り、政府が提出した被害者救済法案の審議が衆院で始まった。
マインドコントロール(洗脳)下の寄付を規制するため、勧誘時に自由な意思を抑圧しないなどの「配慮義務」を課し、怠った場合には、勧告を出したり団体名を公表したりする行政措置を明記した。
与党と法案を協議してきた立憲民主、日本維新の会両党は一定の評価を示し、今国会で成立する見通しとなった。強行採決を避け、与野党で折衝を重ねて早期成立の道筋をつけたことは評価できる。
ただ野党は、幅広い救済につながるか懸念が残るとして、洗脳下の寄付を罰則のある禁止行為とするよう求めている。さらに議論を重ねてもらいたい。
法案は、「霊感」を用いて不安につけ込む▽勧誘の目的を告げずに退去できない場所へ連れて行く-などの六つを「禁止行為」とし、寄付取り消しの対象とした。借金をしたり、住居・田畑など生活に不可欠な資産を処分したりして寄付するよう要求することも禁じた。
禁止行為を犯した法人には国が報告を求め、勧告を出す。従わない場合は措置命令や団体名公表に踏み切り、命令違反には1年以下の懲役や100万円以下の罰金を科す。
また親が信者の「宗教2世」などを想定し、民法の「債権者代位権」の特例として、子や配偶者が本人に代わり寄付の取り消しや返還を求められるように定めた。救済への第一歩になるが、返金は本来受け取れるはずの養育費分に限られるなど課題は残る。
一方、与野党協議の焦点になっていた洗脳下の寄付については、適切な判断が困難な状況にしない▽寄付者や家族の生活維持を困難にしない-などの配慮義務を法人に課す。違反した場合、勧告・公表はするが罰則は定めていない。
洗脳下の寄付を明確に禁止しなかった背景には、宗教団体・創価学会を支持母体に持ち、寄付全体に規制が広がるのを懸念する公明党への配慮があるとされる。
肝要なのは法案の実効性を高め、泣き寝入りする被害者が出ないようにすることである。与党は、洗脳下の寄付を禁止しない場合の悪影響などを検証しなければならない。
政府には長年、問題を放置してきた責任がある。信教の自由や自由意思による寄付の権利を守りながら、専門家の意見も踏まえて法案を精査する必要がある。与党は会期末の10日までの成立を目指しているが、国会の会期を延長してでも十分な時間をかけて審議するべきだ。