もし北朝鮮のミサイルが日本の原発に直撃したら…!専門家が試算した、「約37万人死亡」という「ヤバすぎる被害」(現代ビジネス 2022.10.06)
日本が再び狙われている!? 10月4日、北朝鮮から発射された弾道ミサイルが日本列島上空を通過し、太平洋へ抜けた。もしこのミサイルが、日本の原子力発電を直撃していたら……。
北朝鮮の弾道ミサイルが日本列島を通過
10月4日午前7時22分、政府は北朝鮮から発射された弾道ミサイルとみられるものが日本列島を通過したと発表、太平洋に落下したとされる。
「Jアラート」が発令され、テレビでアナウンサーが避難を呼びかけると日本中に緊張が走った。北朝鮮のミサイルが日本列島を超えたのは5年ぶりだ。
同日、浜田靖一防衛相は会見で「発射地点から着弾地点までの推定距離として発表してきた飛翔距離の中でも、約4600キロは最長であったと考えられる」とコメントした。
これはインド太平洋において米軍の重要拠点であるグアムをも射程に収めることができる距離。同国の技術向上や挑発に対し、警戒感が高まっている。ロシア・ウクライナ情勢が泥沼化する中、アジアでも平和と安全が脅かされようとしているのだ。
もし、北朝鮮が発射したミサイルが国内に着弾し、そこが原子力発電所(以下、原発)だったとしたら――。
他国や武力勢力が日本の原発を狙う可能性がないわけではない。現にウクライナではその危機に直面しており、同国中南部のザポロージェ原発では武力攻撃が相次いでいる。同原発は欧州最大規模と言われており、損傷すればチェルノブイリ原発事故クラスの大惨事を招きかねない。
これは日本も対岸の火事ではない。
福島第一原発事故から10年が過ぎ、国民の原発リスクへの関心は年々薄れつつあることが指摘されている。
それどころか電力不足への不満が噴出、解決策として原発の再稼働を求める声が急激に高まっている。しかし、ひとたび事故、破壊が起きれば甚大な被害が出ることを忘れてはならない。
現在、国内には稼働停止中のものも含め、33基(廃炉確定のものを含めると59基)の原発がひしめいており、有事の際にはどの原発が狙われてもおかしくはないのだ。
東海第二原発攻撃で首都圏に甚大被害
今年4月、環境経済研究所の上岡直見代表は日本の原発が攻撃された場合の被害を試算、それらをまとめた『事故シミュレーション』(8月改定)を公表した。
上岡代表は日本に対して武力攻撃をしかけてくる仮想敵国について明言していないものの、このレポートのシミュレーションでは「被害に影響を与える要因は数多くあり、確定的な要因は難しい」としたうえで、原発が武力攻撃を受け、原子炉本体は破壊されなくとも周辺設備が損傷して原子炉の冷却ができなくなったり、燃料プールが破損して放射性物質の大量放出が起きた場合を想定している。
試算されたデータは、東京電力福島原発事故の調査委員会がまとめた報告書や、原発避難についてまとめた過去の研究から、損傷の程度に応じてどのくらい放射性物質の放出があるかを想定。その条件をチェルノブイリ原発事故(1986年)の後に定められた『チェルノブイリ法』を基準に避難範囲を当てはめて、示した。チェルノブイリ法では汚染レベルに応じて「立ち入り禁止」「強制移住」「避難権利」が定められている。
東京も強制移住区域に
首都圏で最も甚大な被害が出るのは、日本原子力発電・東海第二発電所(茨城県)が武力攻撃を受けて燃料プールが破損したケースだ。周囲では即死レベルの放射線量となり、人間が接近して対応することは不可能となるため、短期間での収束は不可能だ。
同発電所周辺の茨城県では広い範囲で立ち入り禁止になるほか、もしこの時、風向きが首都圏方面に向いていれば埼玉、東京、神奈川県の大半と山梨県、長野県の一部までが強制移住区域となる。
その避難民は数百万人以上になるとみられる――。
「結果は大げさに思えるかもしれませんが、福島の原発事故で炉内に保有されていた核分裂生成物のうち1~3%が放出されただけで、今も帰還できない区域が発生しています。それを考慮しても武力攻撃により、いかに重大な結果をもたらすかは容易に想像できます」
犠牲者は約37万人に……
そして深刻なのが、被曝による健康被害。
ただし、この被害者の数は放射線の被曝量、さらに「気象条件」「いつ避難できるか」「発生源からの距離」などよっても被害者の数は変わってくるが、なんらかの被害は避けられない。
まずは急性症状。一度に、もしくは短時間に大量の放射線を受けて被曝した場合、吐き気や嘔吐、白血球や血小板の減少などの症状が現れ、死に至ることもある。
もう一つが長期的な健康被害だ。少ない量でも被曝すると遺伝子が傷つけられ、がんや白血病などを発症するリスクが高まる。その症状は直後から数十年後にかけて現れていく。
「首都圏でも急性症状で数万人、長期的な影響も含めると数十万人以上の人命が奪われると考えられます。ただ、それ以上にさまざまな健康被害を訴える人の数は計り知れないことになるのです」(上岡代表)
同発電所の周辺の市町村から首都圏にかけて、長期的にみるとおよそ37万人の死者が出るとみられる、と上岡代表は警告する。
人口密集地に近ければ近いほど被害は大きくなる。
ただし、地方にある原発だから被害が少ないというわけではない。
「簡単には言えませんが、人口密集地に近い原発以外でも攻撃されればその被害の大きさや、天候や風向きによって広範囲に甚大な被害が出る恐れもあります」(同)
広い地域で立ち入りが制限される
同様に深刻なのは、東京電力・柏崎刈羽原発(新潟県)が攻撃されるケースだ。
想定される死者数は約6万人。人口数の関係で東海第二発電所に比べれば少ないかもしれないが、周辺の市町村は広い範囲での立ち入りが制限される可能性がある。
まず、原発周辺から群馬県、長野県の一部にかけてが立ち入り禁止区域になる。続いて千葉県の一部を除き首都圏と山梨県・静岡県の一部は強制移住区域、避難権利地域にそれぞれ指定される。
放射能汚染により日本は東西に分断され、陸上を通って国内を行き来することが長期間できなくなる。公共交通や運輸にも大きな影響を与え、その経済的損害は計り知れない。
4000万人以上の人々はどこへ……
放射能の健康被害を減らすためにはなるべく速やかな避難が求められているのだが、現在、首都圏だけで約4000万人の人々が暮らしており、ひとたび原発事故が起きれば避難者であふれかえる。
当然、道路は大渋滞。駅には大量の人が押しかけ、電車や新幹線は満員、増便したとしても乗車できない人が出てくる。それだけの人数を一度に移動させることはまず不可能なのだ。
航空機も停止してしまえば在留外国人は自国に帰ることもできない。
屋内避難を続け、段階的に移動できたとして、次に問題になるのが受け入れ先だ。人数を分散させるとしても、どの県でどれだけの人数の受け入れができるのだろうか。
避難先はもちろん、提供される水や食料の量も限られてしまう。
そして、立ち入り禁止区域内に住居があった人たちは避難先で新たな生活を始める選択をしなければならない。
しかし、日本経済は大混乱、そんな中で新たに仕事を見つけることができるのだろうか。基礎疾患のある人の通院や高齢者の介護、子どもたちの教育の問題も出てくる。
「武力攻撃を受けた場合、自然災害での損傷と比べても甚大な被害と大混乱が起きます。復旧作業も遅れ、現実的に考えても被害に遭った首都圏の人々が一斉に避難することはできません。避難先も移動手段も確保ができず、疎開も難しい。原発が狙われ、武力攻撃されて被害が出たらまず避難できないと考えたほうがいいです」
原発にミサイルが直撃した時――それはこれまで日本が経験したことがない未曾有の事態となるのだ。