ドルはいつまで基軸通貨でいられるか、実は日本円は意外と強い ユーロも危険、人民元も?

ドルはいつまで基軸通貨でいられるか 政治・経済

ドルはいつまで基軸通貨でいられるか、実は日本円は意外と強い ユーロも危険、人民元も?(現代ビジネス 2022.10.04)

大原 浩 国際投資アナリスト/人間経済科学研究所・執行パートナー

米国の強さの秘訣

かつてローマ帝国は巨大・強大であり、その影響は欧米を中心とする国々に今でも残っている。現代でも多くの国々がそのローマ帝国を模範とし、「後継国家」を自称していることからも明らかだ。

米国もその1つである。独立宣言が行われたのは1776年だが、当時は英国、フランスなどの列強などと比べれば脆弱であった。米国が「世界の覇者」として躍り出たのは、1914~18年の第1次世界大戦後であると言える。「身内同士」の「潰しあい」で荒廃した欧州に比べて、「漁夫の利」を得た米国が大躍進し、疲弊する欧州をよそに空前の好景気を享受した。

1929年のNY株式大暴落に始まる大恐慌が、世界を悲惨な状況に陥れたのも、米国の世界経済における重要度を示す一例と言えよう。

そして、第2次世界大戦で愚かな過ちを繰り返した欧州に対して、米国は再び(真珠湾を除く)国土が戦場とならない漁夫の利を得た。

その後の米国の繁栄ぶりは読者もよくご存じのはずだ。歴史的な米国の強さをあげればきりがないので、詳細な議論は別の機会に譲るが、「現在の米国が強い理由」はおおむね次の4つに分類されると考える。

1.食料・エネルギーなどの資源を自給できる国である
2.世界一と考えられる強大な軍事力を持っている
3.先進国の中では、少子高齢化が深刻化していない方だ
4.「金持ちが偉い」純粋な資本主義国家である

1については、「ロシア『への』経済制裁」が「ロシア『からの』経済制裁」という大ブーメランになって戻ってきて「深刻なエネルギー危機」に直面しているのは欧州であって、米国ではない。

2は、要するに棍棒を振り上げて「貸し手に徳政令を押し付ける」ことが可能だということだ。例えば、テンプル騎士団を壊滅させたのはフランス国王だが、騎士団に多額の借金を負っており、借金を帳消しにすることが真の目的であったともいわれる。ちなみに13日の金曜日が不吉だとされる理由の一つに、彼らが一斉逮捕された日だからという説があるようだ。

3の少子高齢化は先進国どころか、9月19日公開「韓国にこれからやってくる『危機』は、アジア通貨危機以上に深刻だ」5ページ目「高い自殺率と少子高齢化」はもちろんのこと、一人っ子政策から転換した後も出生率が伸びない中国もすでに「国家崩壊レベル」の1.0を下回っている可能性がある。その中で、米国の2021年の出生率は1.66と頑張っている(日本は1.30)。

4は「格差拡大」という負の側面もあるが、米国人(特にエリート)が休みもとらずに猛烈に働くのは「金持ちが偉い」国であり、稼ぐことに懸命だからである。その激烈な競争社会が国力の源ではあるが、「格差の拡大」は、歴史上大きな政変のきっかけになってきたから「弱点」であるともいえよう。

総合的に考えると、米国はまだまだ強大な国家ではあるが、ローマ帝国は長い歴史の後に崩壊した。また、16世紀後半のエリザベス1世の時代から躍進を始め、「太陽の沈まない国」とさえ呼ばれた英国は、第1次・第2次世界大戦以降没落した。

米国は、いまだに強大な国家であるが、「いつかは没落する」のは明らかだと言える。

いつかは滅びる

ローマ帝国は、建国神話に基づけば紀元前753年にロムルスとレムスの双子の兄弟によって建国された。西ローマ帝国は476年にゲルマン人の傭兵隊長だったオドアケルによって滅ぼされたとされるから1200年以上、東ローマ帝国は1453年にオスマン帝国のメフメト2世によって首都コンスタンティノープル(現在のイスタンブール)が陥落したことにより終焉したとされるので2200年以上存続したことになる。

米国がローマ帝国のように長期間生きながらえる可能性もあるが、英国やその前に覇権を握っていたスペインの「繁栄の寿命」はもっと短い。

米国も1776年の建国以来250年近くが経過しているから、「繁栄の寿命」がすでに尽きている可能性は充分ある。

今のところ、米国に単独で対抗できるような国は見当たらない。また、世界中すべてが反米で結束すれば別だが、EUやRIC(ロシア、インド、チャイナ)連合も、まだ力不足と言える。

2020年の大統領選挙でさえ、まともではなかった

だが、帝国は外敵よりも内側の敵によって崩壊する。

ナポレオンは「真に恐れるべきは有能な敵ではなく無能な味方である」と述べるが、8月31日公開「外交、軍事、内政、何をやっても『まるでダメ夫』なバイデン米大統領」で述べたバイデン民主党政権はどうだろうか?

昨年2月25日公開「テキサス州が『大統領選挙不正との戦い』を牽引しているのはなぜ」という疑惑に蓋をしただけではなく、9月12日公開「画一的報道は自殺行為、民主主義の最大の敵は新聞・テレビではないか」冒頭「『安倍暗殺』と『トランプ別邸家宅捜査』報道の狂気」で触れた、「司法への政権の介入」としか思えない行為を平気で行っている。

このままでは、2020年10月27日公開「第2次南北戦争も―選挙結果がどうなっても米国の分断は避けられない」という「内側で敵同士となって戦う」事態が現実のものになってしまう。

「太陽が沈まない国」は沈んだ

英国は「腐っても鯛」ならぬ「腐った鯛」であると言われて久しいが、ジョンソン首相が辞任した後、9月6日に就任したトラス首相の政策を見ていると、「英国の没落」をさらに加速させているように思われる。

9月9日の日経新聞報道「英、家庭の光熱費抑制策発表 総額25兆円規模か」だけではない。

彼女の政策は、要するに「人気取りのバラマキ」であり、その必要経費のための資金調達でインフレを助長させる。8月17日公開「補助金、支援金はありがたいが間違いなくインフレを加速させてしまう」典型例だといえよう。

だが、2019年3月19日公開「ブレグジットで『崩壊する』のは、結局EUのほうである」で述べたように、英国より深刻な問題を抱えているのがEUである。

ユーロは、2018年8月15日公開「ブレグジッドは大正解 英国よ沈みゆくEUからいち早く脱出せよ!」2ページ目「ユーロは金本位制の弱点を受け継いでいる」で述べた弱点を抱えているだけではなく、「為替調整」(前述記事参照)が無いことによってドイツの一人勝ちになった。

しかし、その「一人勝ち」のはずのドイツが、「ロシアからのエネルギー制裁」によって青色吐息だ。厳冬期を迎える市民の生活だけではなく、エネルギー不足によってドイツの産業が壊滅する可能性さえある。

EUでドイツがこけてしまえば、英国同様かつては「太陽の沈まない国」と呼ばれたスペイン、西洋文明発祥の地とされるギリシャ、さらにはナポレオン帝国を生んだフランスなどほとんどの加盟国が没落する。

9月19日公開「韓国にこれからやってくる『危機』は、アジア通貨危機以上に深刻だ」の韓国、8月22日公開「台湾問題は実は反習近平派からの挑戦状、3期目は果たしてあるのか」など多数の問題を抱える中国などよりもEUの崩壊の方が早いかもしれない。

「いち抜けた」中国

もちろん、共産主義中国自身の命運も危ういのだが、その中国の外貨運用において、日本経済新聞9月22日「中国、米国債保有1割減 租税回避地に移管も」と報道されている。

また、ロシアもジェトロ4月7日「ロシア、ガス代金のルーブル払いに関する大統領令が施行」などの動きが活発だ。

元々、昨年5月6日IMFブログ「世界の外貨準備 米ドル比率が過去25年で最低に 」で述べられているように、現在でも59%という高いシェアを持ちながらも、ドルの基軸通貨としての役割は低下傾向にある。

バイデン民主党政権が行った「中央銀行の資産凍結」や「SWIFTからの排除」などの過激かつ強引な政策は、世界の多くの国々を「どん引き」させた。米国が支配するドルで資産を持っていたら「何をされるかわからない」という恐怖を植え付けたといえよう。

今後、長期的に「非ドル経済圏」が拡大するのは明らかだ。

ドルは頼りないが、他の選択肢がない

だが、米ドルの次の基軸通貨がまったく見えない。以前有力視されていたユーロは前述のように危機的状況だ。米国を追い抜くというバカ騒ぎをしていた中国(人民元)もお先真っ暗だと言える。もちろん、ロシア・ルーブルも、いくら強制しても基軸通貨にはなりえない。

たぶん、戦国時代のような群雄割拠の時代に入るのではないだろうか。その中で、例えばRIC(ロシア、インド、チャイナ)などが手を組んで、一種の「通貨連合」を組んでいくと思われる。

基軸通貨そのものの存在が消えて、7月1日公開「インフレで『物々交換』が大注目されそうなワケ…『金本位制』の復活はあり得る?」で触れた金本位制が復活したり、バーター取引(物々交換)の時代に入ったりする可能性は否定できないが、数十年単位の将来を考える時には、やはり「取引の基準となる通貨」は必要だと考える。

ここまで日本円については述べてこなかったが、世界中が大混乱の中で「比較優位」を保つ日本は昨年5月9日公開「日本の『お家芸』製造業、じつはここへきて『圧倒的な世界1位』になっていた…!」を武器に躍進するのではないかと考える。

戦後以来の歴史的サイクルで考えれば、1980年代後半からの「円高」局面は反転の時期を迎えていると考えており、今後も歴史的に見れば「円安」が続くと考えている。だが、それはむしろ日本の製造業などにプラスである。

事実、ドルが基軸通貨であった時代にいつもドル高であったわけではない。

つまり、日本円は、世界の通貨が混乱する中で意外に強固なポジションを持つ可能性があるということだ。

大原 浩
国際投資アナリスト/人間経済科学研究所・執行パートナー
株式会社大原創研代表取締役・GINZAXグローバル経済・投資研究会代表。同志社大学法学部を卒業後、上田短資(上田ハーロー)に入社。外国為替・インターバンク資金取引などを担当。フランス国営・クレディ・リヨネ銀行入行。金融先物・デリバティブ・オプションなど先端金融商品を扱う。大原創研を設立して独立。『証券新報』の顧問を約7年半にわたり務める。2018年、財務省OBの有地浩氏と人間経済科学研究所を立ち上げる。著書に『韓国企業はなぜ中国から夜逃げするのか』(講談社)、『銀座の投資家が「日本は大丈夫」と断言する理由』(PHP研究所)他多数。