原発運転「原則40年、最長60年」削除へ 規制委、政府方針追認 福島事故の反省どこへ

原発運転60年規定削除へ 規制委が転換 政治・経済

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原発運転「原則40年、最長60年」削除へ 規制委、政府方針追認 福島事故の反省どこへ

原発運転「原則40年、最長60年」削除へ 規制委、政府方針追認 福島事故の反省どこへ(東京新聞 2022年10月6日 06時00分)

政府が検討している原発の運転期間の延長について、原子力規制委員会の山中伸介委員長は5日の記者会見で、現行の「原則40年、最長20年延長できる」という規定が原子炉等規制法(炉規法)から削除されることを容認した。これを受け、政府は東京電力福島第一原発事故を踏まえた現行規定の見直しを本格化させ、岸田政権が掲げる「原子力の最大限活用」に向け原発の60年を超える長期運転へ大きく政策が転換する。(増井のぞみ)

原発の運転期間について見解を述べる山中伸介・原子力規制委員長

岸田文雄首相は8月24日の政府の会議で、2050年の脱炭素社会の実現に向けて、原発の運転期間の現行規定を見直す方針を明言。規制委が経済産業省に説明を求め、この日の定例会合で同省資源エネルギー庁の松山泰浩電力・ガス事業部長が「60年の上限を見直すべきだ」と新制度をつくる方針を示した。

松山部長は山中委員長を含めた5人の委員に、電力会社から「運転期間というハードルが設定されると再稼働もままならない」との声が上がっていることを紹介。現行規定では、運転開始40年を前に電力会社の申請を受け、規制委が審査して1度に限り最長20年の運転延長を認めている。

委員からは、政府方針への異論は出なかった。山中委員長は会合で「原発の運転期間は利用政策であり、規制委が意見を述べるべきではない」と規制委としての統一見解を提示した。

山中委員長はその後の記者会見で、運転期間を定めた現行規定が炉規法から「抜け落ちることになる」と政府方針を容認。運転期間の上限は「一義的に決めることは科学的、技術的に不可能」と言い切った。

ただ、規制委は経産省に「規制委の安全確認が60年を超える運転のお墨付きを与えるものであってはならない」(杉山智之委員)などと指摘し、新制度の慎重な検討を求めた。

◆脱炭素名目 リスク高い原発運転期間、なし崩しの恐れ

脱炭素を名目に「原則40年、最長60年」とする原発の運転期間の制限が撤廃に向けて走り出した。リスクの高い老朽原発がなし崩し的に動き続ける事態につながりかねない。2011年3月の東京電力福島第一原発事故の反省が忘れられようとしている。

現行ルールは、福島第一原発事故後に当時の民主党政権が法改正をして定めた。野党だった自民党も賛成した。機器などの劣化が進む老朽原発の運転を制限し、事故リスクを下げるためで、政策的な判断だった。

40年を超えた運転が妥当かどうかを審査する立場の原子力規制委員会は「原子炉の寿命年数は科学的に一概に判断できず、個別の炉の劣化状況などを確かめる」との姿勢だった。政策的に決められた「40年」に従い、電力会社から運転延長の申請があれば、問題がないかを審査してきた。

ところが、原発推進をはっきりとさせた岸田文雄首相の一言で、前提となる「利用政策」の転換が現実的となり、風向きが変わった。福島事故後に推進から切り離され、独立した強い権限を持つはずの規制委はこの日、わずか1時間ほどの経済産業省とのやりとりで、政府の方針を容認した。

9月26日に就任したばかりの山中伸介委員長は職員訓示で、「福島を決して忘れないと誓ってください」と呼びかけた。福島事故の反省で生まれた運転制限という法の縛りを安易に手放していいのか。自らの訓示を思い返すべきだ。(小野沢健太)

原発運転60年超、経産省が法整備検討 規制委も容認姿勢

原発運転60年超、経産省が法整備検討 規制委も容認姿勢(日本経済新聞 2022年10月5日 22:16)

経済産業省は5日、原子力規制委員会の会合で、原則40年、最長60年と定める原子力発電所の運転期間の延長に向けた法整備を検討する方針を示した。規制委の山中伸介委員長は60年を超える運転を事実上認める考えを明らかにした。経産省は年末までに結論を出す方針で、政府内での調整を加速させる。

原発の運転期間の延長を巡っては8月に岸田文雄首相が電力の安定供給の観点から検討を指示した。規制委は5日、経産省資源エネルギー庁から検討状況を聴取した。

エネ庁の松山泰浩・電力・ガス事業部長は会合で「原発の停止期間を運転期間に算入しないことや、最長60年の上限見直しなど、これから議論を深める」と説明した。「必要に応じて法整備をしていきたい」と話した。

規制委の山中委員長は会合後の記者会見で原則40年、最長60年とする原子炉等規制法の規定に関し経産省を念頭に「利用政策側の判断でなされるべきもので、規制委から意見を言うことはない」と述べた。

60年を超える運転を事実上容認し、原発を推進する経産省に法整備を含めて検討を委ねる考えを示した発言だ。規定について「その部分は抜け落ちることになるかと思う」と削除の可能性に言及した。

規制委は2011年の東京電力福島第1原発事故の反省を踏まえ、「規制と推進」を分離する体制見直しを契機にできた。推進政策と切り離して規制基準に基づき安全性を審査する。

20年7月には原子炉等規制法の運転期間に関する規定について「原子力利用の政策判断にほかならない」とする見解を公表。5日午前の委員会でもこれを踏襲し、運転期間の規定は受け身の姿勢で臨むことを確認した。

ただ安全性の観点から古い原発の運転の可否は、規制委が科学的・技術的に判断する。現在は運転開始から60年超の原発の安全規制はなく、規制委がつくる必要がある。

山中委員長は運転期間に関する安全規制について「一義的な上限を決めるのは技術的に不可能だ」と指摘した。「運転期間がどうなろうとも厳正な規制ができる仕組みにしていきたい」と述べた。何年かおきに検査や認可をする制度にするといった規制が想定されるとの見方を示した。

原発の運転期間を巡っては米英仏では運転期間の上限がなく、定期的に規制当局が安全性を確認する仕組みだ。米国では60年を超えて運転できる原子炉が6基ある。

日本ではもともと規定がなく、11年の原発事故を受けて12年に上限を設定した。運転期間の上限の延長や撤廃は反発を招く懸念がある。

古い原発に比べて新しい炉は点検や部品交換が容易で、原子炉の材料や構造の耐久性が高いといった改良で安全性が向上している。政府・与党内には「原発を活用するなら新型炉の建設が合理的」との声もある。