参政党は”振り切ったトンデモ”「コロナは波動で治る」「バイデン陣営は不正選挙」「プーチンはディープステートと戦う光の戦士」…

振り切ったトンデモ「参政党」 政治・経済

参政党はトンデモではない。振り切ったトンデモだ/倉山満の政局速報(日刊SPA! 2022年07月16日)

―[倉山満の政局速報]―

7月10日に投票が行われた第26回参議院選挙。日本近現代史の専門家である憲政史家・倉山満氏は「3年前、NHK党が登場した時にも相当な「イロモノ」扱いされたが、参政党は比ではない。人によっては「トンデモ」と呼ぶだろうが、それは本質ではない。参政党は、『振り切ったトンデモ』なのだ」と参政党の本質について解説する(以下、倉山満氏による寄稿)。

知る人ぞ知る存在だった参政党が参院選で突如として1議席獲得

この人たち、深い知り合いか、知り合いの知り合いなので、非常に書きにくいと言うのはあるが……。

ただ、立憲民主党の真人間、日本維新の会、国民民主党には言いたい。参政党ですらこれだけできたのだから、貴方たちが参政党くらい頑張れば、自民党に勝利を献上するはめにはならなかったのでは?

知る人ぞ知る存在だった参政党が参議院選挙で突如として登場、一議席を獲得した。

その主張は、保守だと分類されている。重点政策では、「外国資本による企業買収や土地買収が困難になる法律の制定」「外国人労働者の増加を抑制し、外国人参政権を認めない」などは、ややもすると排外主義にも聞こえるが、他の保守政治家も言っていることなので、これだけでは特段変わった政策ではない。自民党でこれを言えば即座に右翼呼ばわりされるだろうが。

参政党は、「振り切ったトンデモ」なのだ

参政党の特徴は、真正面から「グローバリズムに対抗するナショナリズム」を訴えていることだ。知らない人が聞いたら「鎖国でもするつもりか?」と思うだろう。これが、よくよく聞いていると、本当に「鎖国が正しい」と信じている関係者もいたりする。ナショナリズムは矯激(きょうげき)にならない限り結構として、では彼らが敵視する「グローバリズム」とは何か。

「ユダヤ」「ロックフェラー」「ロスチャイルド」「ディープステート」「イルミナティ―」……。次から次へと陰謀論の定番用語が飛び出す。

そして、同じく重点政策では「農薬や肥料、化学薬品を使わない農業と漁業の推進と食品表示法の見直し」を訴える。これには真面目な農業政策の研究者から「それをやると餓死者が続出、貧富の格差が広がる」と批判をされるが、そんなことは関係ない。

3年前、NHK党が登場した時にも相当な「イロモノ」扱いされたが、参政党は比ではない。人によっては「トンデモ」と呼ぶだろうが、それは本質ではない。参政党は、「振り切ったトンデモ」なのだ。

では、この党はどのようにして世に出たのか。

私が参政党の関係者と思われてしまう理由

今回、参議院に議席を得たのは参政党のボードメンバーで事務局長の神谷宗幣。私が彼に最初に出会ったのは、2012年の1月。その頃の彼は、吹田市議会議員だった。年は私より4歳下。当時、「龍馬プロジェクト」という全国の地方議員を組織、その会長をしていた。私は「龍馬プロジェクト」に講演で呼ばれたのを皮切りに、深くかかわるようになった。「龍馬プロジェクト」は超党派の保守系議員の集まりで、その年12月の総選挙で当選することになる大岡敏孝現環境副大臣(自民党で当選)や杉田水脈衆議院議員(この時はみんなの党で当選)、長野恭紘別府市長もいた。

神谷は自民党から出馬するも落選。保守的な教養を広めようと、インターネットテレビ局のCGS(チャンネルグランドストラテジー)を開局した。立ち上げの1年、相当に手伝った。そもそもCGSの名付け親が私であるし、ほとんどの番組の企画も私が考え、出演者もブッキングした。私自身の番組は「じっくり学ぼう!日本近現代史」で、最初は週6本の配信。さすがに疲れるので、本数を減らしたが……。私が参政党の関係者と思われるのは、神谷が、この番組の内容に基づいて発信するからだろうが。番組制作に際しての神谷の依頼は「グローバリズムに対抗できる日本人の歴史観が確立できるような番組を」「ペリーやアヘン戦争以来の日本の近代史」だったが、「では、ザビエルから始めましょう」と長期シリーズになった。ザビエルからはじめて、小泉純一郎まで来たところで終わらせた。2年目以降は、呼ばれた時にだけゲスト出演していた。

参政党は当初、市議会議員選挙でも勝てない政治団体にすぎなかった

神谷は自分の会社のCGSをイシキカイカクと改称、講演・動画その他販売などで経営していたようだ。かなりの高額商品もある。その間に大阪府議選に無所属で出馬して大敗しているが、詳しい事情は知らない。

疎遠になっても忘れたころに仕事の依頼が来るのだが、そんなある日、何かの打ち合わせで神谷と二人で飲んでいた時に「政党を作りたい」を相談された。本気かと思ったが、本気だった。神谷には最初に出会った時から語っていた「近代政党」についてレクした。

前近代政党とは、議員の集まりである政党のことだ。派閥の談合によって、運営される。それに対して近代政党とは、綱領・組織・議員の三要素で構成される。党員全員が共有する綱領がある。党首の下に強力な事務局が存在する。理念に基づく国民に政策を訴え、党員を増やす。当然、資金も集める。その党員が活動を拡大し、議員を当選させる。明確な党首がいないまま選挙戦に望んだ以外は、ここで語った通りの近代政党の手法の選挙戦を行った。

神谷は事務局長の立場でボードメンバーを組織した。初期のボードメンバーは神谷の他、渡瀬裕哉早稲田大学招聘研究員、YouTuberのKAZUYA、元衆議院議員の松田学、元日本共産党員が売りの評論家の篠原常一郎。当初は市議会議員選挙でも勝てない政治団体にすぎなかった。

ネットワークビジネスに対する甘すぎる認識、米大統領選における目に余る言説

ちなみに私は、ネットワークビジネスに対する神谷の態度が甘すぎると、参政党(正確には当初はDIYと名乗っていた)には、はっきりと参加を拒否した。私が参加すると事前に告知されていたようだが、後で知った。

その後、アメリカ大統領選挙で、渡瀬・KAZUYAと篠原の路線が対立。3人ともボードメンバーから身を引いている。

残ったボードメンバーは、神谷と松田。ここに科学者の武田邦彦、アカオアルミ会長の赤尾由美、歯科医の吉野敏明が新たなボードメンバーに加わった。党員の通称は「ゴレンジャー」とか。

一般に知名度があるのは、テレビタレントとしても活躍している武田くらいか。武田と吉野は一面識もない。もちろん武田の事は知っているが、吉野は参政党の件で初めて知った。

松田は、元大蔵官僚で、次世代の党代議士の時、お世話になった。温厚な人物である。赤尾は、有名右翼活動家の赤尾敏の姪。本業は1円玉を一手に作る会社を継いだ実業家で、借金100億円を完済したとか。新しい歴史教科書でいっしょに理事を務めたこともある。

「陰謀論、ネットワークビジネス、そういうものを許容しないと広がりが無い」

渡瀬・KAZUYAと決別したあたりから、神谷と参政党は振り切った。渡瀬・KAZUYAが批判したのは「陰謀論を許容するな。嘘を言いふらすことになるからだ」だったが、神谷は振り切った。私も直接言われたが、「陰謀論、スピリチュアル、ネットワークビジネス、そういうものを許容しないと広がりが無い」が神谷の言だ。事実、そちらの方向に振り切ってから、参政党の勢いは加速度がついて広がった。

これを機にどうも、司令塔となる軍師が代わったような気がするが…。

一般知名度ほぼゼロ、SNSでもツイッター・YouTube・フェイスブックのフォロワー数はそこまで凄くない。TikTokは政治動画が少なく、独占状態だったようだが。それなのに、演説会をやればどんな田舎町でも超満員。党大会をやれば10万円の席も完売。会費月4千円の党員が、次々と既成政党を超えて、今や9万人。ボードメンバーの5人が参議院選挙全国比例に立候補、さらに全国の45選挙区にも候補者を擁立、比例票を掘り起こした。

参政党はいいこと“も”言っているにすぎない

この党、確かにいいことも言っている。きちんとした教育、きちんとした食、きちんとした安全。と言われて反論する日本人はいないだろう。既成政党は難しく考えすぎて、それを言ってこなかったが。

いきすぎたコロナの規制、マスクやワクチンのあり方をもタブーとせず、堂々と切り込んだ。その勇気に感銘を受けた人もいるだろう。
 
しかし、ある候補者と熱狂的な支持者が「コロナウィルスは波動で治る」と訴えているのが聞こえてきたら、他人のフリをしたくなる。
 
参政党は、いいことも言っている。いいことを言っているのではない。極端な「トンデモ」が混ざるので、「いいことも」言っているにすぎないのだ。しかし、参政党に投票するような人は、「いいことを」と「いいことも」の区別はつかない。

トンデモに振り切ったのが参政党のリアリズム

ここに参政党のリアリズムがある。

民主主義は数が力、多数決だ。頭がいいものは常に少数派だ。いつの時代、どこの国でも、インテリは常に少数派だ。自民党をはじめ既成政党に批判的な政治に関心がある層の人々は、悩みを抱えている。現実社会は、テストの答えのような明快な正解が無いことだらけだ。しかし、心の弱い多数の人は、正解や解決を求めている。そこに正解や解決を与える。まさに陰謀論やスピリチュアルの手法だ。インテリには恥ずかしくて、絶対にできない。そこに渡瀬やKAZUYAが離れた原因がある。渡瀬やKAZUYAのファンなら、「コロナウィルスは波動で治る」「アメリカ大統領選で不正が起きたので、フランクフルトで米軍とCIAが銃撃戦を起こした」「プーチンはディープステートと戦う光の戦士だ」式のトンデモには耐えられない。

しかし、そこに振り切ったのが参政党のリアリズムだ。参議院1議席が割に合うかどうかは別問題だが、泡沫政党と言われた状況からは大勝利と言えるが。

参政党の活動の取り入れられる部分を参考にしては如何か

今後、この党がどうなるかはわからない。かなり振り切った活動をしたので、後始末で失敗をできない。45人の候補者は自らを「捨て駒」「特攻隊」と呼んでいたが、来年4月の統一地方選でどれほどの人たちを当選させられるか。

参政党のように「振り切ったトンデモ」に舵を切れるのか、という問題はあるが……。

立憲民主党の真人間、日本維新の会、国民民主党には3年かけてマトモな野党を作ることを期待している。参政党の活動の取り入れられる部分を参考にしては如何か。

こういうことを言うと、真っ先に取り入れるのが自民党、というのが戦後政治史なのが、なんともだが。

―[倉山満の政局速報]― 倉山 満
’73年、香川県生まれ。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務め、’15年まで日本国憲法を教える。ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰し、「倉山塾」では塾長として、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交についてなど幅広く学びの場を提供している。著書にベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』のほか、『嘘だらけの池田勇人』を発売