【解説】こども家庭庁法が成立 子育て・貧困・虐待、政策の司令塔

こども家庭庁 政治・経済

【詳しく】子ども政策の新たな司令塔?「こども家庭庁」とは(NHK 2022年6月14日 16時58分)

子ども政策の司令塔となる「こども家庭庁」を設置するための法案は、先月衆議院を通過したあと参議院で審議が行われ、14日、参議院内閣委員会で採決され自民・公明両党と国民民主党の賛成多数で可決、15日の参議院本会議で可決・成立した。

新たな司令塔、役割は? 権限は?

「こども家庭庁」は虐待やいじめ、それに子どもの貧困などに幅広く対応するため、子どもの安全で安心な生活環境の整備に関する政策を推進するとしている。

来年4月に総理大臣直属の機関として、内閣府の外局に設置され、子ども政策担当の内閣府特命担当大臣を置いて、各省庁に勧告することができる「勧告権」が与えられる。

また、トップとなるこども家庭庁の長官には、必要な場合に、関係する行政機関に資料の提出や説明などの協力を求めることができる権限を与えている。

自民党の福田総務会長は14日の記者会見で「行政の縦割りや、国と地方の役割の隙間に落ちている子どもを1人でも少なくするためにできたのが『こども家庭庁』だ。関係省庁が縄張り争いせず、子どものことを考えたうえでしっかり運営してほしい。各省庁に対し、ものが言えるようになってもらいたい」と述べた。

具体的にはどんな組織?

「こども家庭庁」には300人規模の職員が配属される予定。

内閣府の子ども・子育て本部や厚生労働省の子ども家庭局などが移管され、3つの部門、「企画立案・総合調整部門」「成育部門」「支援部門」が設けられる。

「企画立案・総合調整部門」

これまで各府省庁が別々に行ってきたさまざまな子ども政策を一元的に集約したうえで、子どもや若者から意見を聴くなどして、子ども政策に関連する大綱を作成する。また、デジタル庁などと連携して、個々の子どもや家庭の状況や支援の内容などに関する情報を集約するデータベースの整備にあたる。

「成育部門」

子どもの安全・安心な成長に関する事務を担う。子どもが通う施設の類型にかかわらず、どこでも共通に教育や保育を受けられるよう、文部科学省と協議して、幼稚園や保育所、認定こども園の教育・保育内容の基準を策定する。

さらに、子どもの性被害を防ぐため、子どもと関わる仕事をする人の犯罪歴をチェックする「日本版DBS(ディービーエス)=ディスクロージャー・アンド・バーリング・サービス」の導入や、子どもの死亡に関する経緯を検証し、事故などの再発防止につなげる「CDR(シーディーアール)=チャイルド・デス・レビュー」の検討を進める予定だ。

「支援部門」

児童虐待やいじめ、ひとり親家庭など、さまざまな困難を抱える子どもや家庭の支援を担う。重大ないじめに関しては、文部科学省に説明や資料の提出を求める勧告などを行うほか、家族の介護や世話などをしている子どもたち、いわゆる「ヤングケアラー」に必要な支援を行うため、福祉や介護、医療などの関係者が連携して、「ヤングケアラー」の早期の把握にあたります。さらに、施設や里親のもとで育った若者らの支援も担当する。

「子ども家庭審議会」

このほか、有識者などをメンバーとする「こども家庭審議会」も設置され、子ども・子育てに関する重要事項や子どもの権利・利益を擁護するための調査、審議を行う。子どもの意見を政策に反映させるため、子どもからの意見の聴取も必要に応じて実施する方針だ。

「こども家庭庁」の施策の実施状況などを見ながら5年をめどに組織や体制の在り方を検討し、必要に応じて見直しを行うことになっている。

地方自治体の担当者「実行力試される」

子育て支援などを担当する千葉県松戸市の伊原浩樹子ども部長は「子どもの権利に特化して政策を進める省庁ができることは、地方自治体としては非常に頼もしい。今までは待ちの姿勢で施策を講じることが多かったが、こども家庭庁ではこちらから出向いていって支援が必要な家庭を早期発見するなどアウトリーチ型の施策も増えると思うので、自治体の実行力が試されると思う」と述べた。

そのうえで、幼稚園と保育所の運営方法の統一などこども家庭庁の司令塔としての役割に期待を寄せている。

兵庫 明石市長「組織を作るだけでなく…」

兵庫県明石市では、18歳までの医療費や、2人目以降の保育料のほか、0歳児のおむつ代、中学校の給食費、それに市民プールの利用料などを無料にしている。また、市が養育費を立て替えるなど、幅広い分野で子ども施策に力を入れている。こうした施策もあって、明石市には、子育て世帯の転入が相次ぎ、人口の増加が続いている。

参議院内閣委員会にも参考人として出席した泉房穂市長は、こども家庭庁について「予算や人材が全然足りない。単に組織を作ったからといって大きく変わるわけではないので、もっとしっかりした体制を作ってほしい」と述べ、予算の倍増や子ども政策に関わる人材育成に速やかに取り組むべきだと指摘した。

そのうえで「子どもを育てるのにお金がかからない社会にすれば、多くの人は子どもを産み育てたいと思う。子どもを諦めさせる政治ではなく、子どもを産んでも大丈夫だという政治に変えるべきだ。子ども政策について国をあげての議論が始まったことは新たな一歩なので、国と一緒にバージョンアップさせていきたい」と述べた。

積み残し課題は?「こどもコミッショナー」「幼保一元化」…

海外の子ども政策に詳しい日本総研の池本美香・上席主任研究員は「性犯罪歴をチェックする制度や、子どもの意見を聞くという点は成果だと思う。ただ、もっと幅広く、教育の問題や、子どもの地域の遊び場の問題なども急いでやってほしい。今いる子どもや子育てをしている人たちが安心し、幸せを感じる環境を作ることが少子化対策としても重要だ」と指摘した。

そのうえで「これで終わりではなく、子どもの権利が守られているかを行政から独立した立場で監視し、調査や勧告する権限を持つ『こどもコミッショナー』を設けることや、『幼保一元化』の実現も含め、積み残したことを、一つ一つスピードアップして解決してほしい」と述べた。

法案には「付帯決議」も

14日に開かれた参議院内閣委員会では、岸田総理大臣も出席して質疑が行われ、岸田総理大臣は「今後、こども家庭庁で子ども真ん中社会を目指していく。来年4月に発足させ、必要な子ども政策を体系的に整理し、来年の骨太の方針で、予算倍増への道筋を明確に示していきたい」と述べた。

このあと、法案の採決が行われ、自民・公明両党と国民民主党の賛成多数で可決された。

一方、立憲民主党、日本維新の会、共産党は、幼稚園と保育所が一元化されないなど不十分な内容だとして反対した。

委員会では、こども家庭庁と文部科学省が緊密な連携を図ることや子ども政策の安定財源の確保の検討に早期に着手することなどを求める付帯決議が可決された。

また、自民・公明両党が提出した、子どもの権利を守るための理念などを規定する法案も賛成多数で可決された。

これらの法案は、15日の参議院本会議で可決・成立した。